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リベンジ魔王  作者: 蚊家津
39/50

魔王は暇を持て余す

ここまで読んでくださっている皆さんに報告があります。

11日から17日までの間、ネット環境が無い実家に帰省する為、その間の更新が不可能となります。

ですので次回の更新の後、しばらく更新が開いてしまう事をご了承ください。

また、その後の更新も、早ければ18日にしますが、19日にずれ込む事をご了承ください。

楽しんで読んでくださっている皆さまには申し訳ないですが。物理的に不可能な環境はどうしようも無いのです、許してください。


以上、ここまで読んでくださっている方々への報告でした。引き続き本編をお楽しみください。


 「何故、こんなにも穏やかな気持ちになるのだろうか……不思議だな。」


 リジィー・スロードは公共遊具付き庭園……通称公園と呼ばれる場所の一角……その中の草原に体を横たえ考える。

 既に日は天高く上っており、段々に腹の虫が栄養を寄越せとがなり立てる頃合い。

 それでもリジィーは静かに体を横たえ、日の光を浴び続けていた。


 「う~ん……安全が確立された空間だからだろうか? しかし騒音とも言っていい様な子供達の喧騒があるのに、それすらも気にならないのだからまた違った理由がありそうだな。」


 一人呟きながら考える。自身の周りには誰もいないので、その呟きに答えてくれる者はいない。


 「……暇だな……」


 時間を無駄にする主義では無いのだが……現状赤髪の行動待ちである。最初の内は、計画の修正等で時間を使っていたが……それも一週間ともなれば考える事も無くなってしまう。

 いい加減何らかの行動を起こしてくれてもいい頃合いだったが……それも未だ音沙汰無し。結果として、こんなどうしようも無い事を考えてしまう……


 「う~ん……俺の考えは間違っていたのかな……こうも行動が無いと、あれは量産品である可能性が強くなる。そうなると、あのアイテムからは辿り着けないという事になってしまうな……」


 体を起こし、立ち上がりながら、懸念について考える。

 後一週間様子を見るつもりではあるが、そろそろ他の手を考えた方が良いかもしれなかった。


 「次の手はどうするべきか……さすがに赤髪を殺す為だけに、国に喧嘩を売るのは馬鹿だし……まぁその内思いつくだろう。」


 首都ウッドレス、この都市にコプレーションの一員として滞在していた時、贔屓にしていた食事処へ至る道を思い出しながら、俺は子供達の喧騒を背に歩き出した。


◇◆◇◆◇◆◇


 「へい兄ちゃん。今日は特売だよ!!一つどうだい?」


 場所は商業区、昼間ならいつ来ても至る所で鳴り響く、そのうたい文句を無視しながら、人込みをかき分けて歩いていく。

 無視された事を特段気にはしていないのだろう。露店を経営している体格のいいおじさんは、次の客を探して辺りを見回している。


 (仮面をつけているのに物怖じしない物だな……)


 周りを歩く人達は、時折驚いた様に俺の顔を注視しているが……露店を経営している者達にはそれが無かった。


 (……売れればそれでいいのだろうが……もう少し客を選んだ方が良いのではないだろうか?)


 まぁ、店からしてみれば、売れ残るよりは、相手が誰であれ売った方が良いのだろうが……それでもそう思ってしまう。

 ……やはり暇を持て余すとどうでも良い事を考えてしまう。別に考える事を否定する訳では無いが……むしろ、何も考えないよりかは有意義だとも思うが……それでも時間を無駄にしている気分だ。


 (いいかい、時間というのは有限なんだ。いくら魔法により制御しようと、いくら君が長寿であろうとそれは変わらない。なら、出来る限りそれを有効活用するべきだと僕は思う。)


 ……懐かしい友の声が俺の記憶の中に木霊した。前々から思ってはいたが、どうも俺の考え方や思考は、二人の友に影響を受けているように思う。

 というのも、時間を無駄にするのもそうだが……強者との戦いを望むのも、言ってしまえば武力を極めた方の思考だったはずだ。

 他にも物の考え方など、細々とした思い当たる節がある。友との類似点に気が付き、少しばかりの喜びを覚えてしまう自分が情けない。所詮、既にいなくなった者達との記憶でしか無いのだ……いつまで過去を振り返るつもりなのだろうか。

 熱された感情は一気に冷えていく。……やはり感情の制御がうまく行かない。


 (感情の起伏が激しすぎるな……疲れるのもそうだが、正確な判断が必要な時に、致命的な間違いをしかねない。解決策があればいいのだが……)


 懸念は積もるばかりだが、現状での対処を思いつかないが故に、放置するしか手が残されていなかった。


 (まぁ、よほどの事が無い限り、10魔族の皆が解決してくれるはずだから問題ないだろう。)


 「おい待てこのガキ共!!商品を返しやがれ!!」


 思考を纏めている最中、後方からその怒号が聞こえてくる。

 咄嗟に後ろを振り返り、状況を確認すると……先ほど俺に声を掛けて来た店主が、遠くで叫んでいた。

 彼の怒号を受け、逃げるのは3人の少年……褐色の肌に、それぞれが違った色の髪をしている子供達は、全員の耳が長い。

 俺の記憶は、彼らの特徴に該当する種族を瞬時に導き出す。


 彼らの種族はダークエルフ……エルフの近親種であると共に、その見た目が受け入れられない為に、人間とエルフ……その両方から迫害を受ける哀れな種族である。


 彼らにはエルフに与えられている保護が適用されていない。これは人間側の判断であろうがその結果、エルフとダークエルフの扱いの差は酷い物だ……

 彼らは基本的に奴隷と変わらない扱いを受ける。いや、むしろ奴隷として扱われるのならまだいいほうかもしれない。

 というのも、どこの都市でも住居を持つ事を許されないのだ。故に雨風をしのげ、尚且つ最低限の食事を与えられる環境の方が、まだ生きていけるかもしれない。

 もちろん都市には暮らさず、郊外の森に暮らす部族もいる……しかし彼らは、今度は奴隷商や縄張りを持つ魔族達と戦わなければいけない。

 どっちにしろ辛い現実が其処にある。外敵がいない都市か……外敵がいるが自身の力量で暮らせる外か……彼らには二つに一つしか無いのだ。


 前者を選択したと思われる少年達は、全員がぼろ布一枚だけを着て、その胸に大事そうに抱えた果実を落とさぬ様、速度を上げながらも人の隙間を縫いながら走り抜けている。

 それを追いかけるのは先ほどの店主、それと共に騒ぎを聞きつけたであろう衛兵も参加している。


 (捕まれば投獄か……それで済めばいいが、最悪極刑に処されるかもな。)


 この国の罪人に対する法律がどうなっているかは知らない。それでも多少の責め苦位はあるはずだ。

 内心でそんなどうでも良い事を考えながら、何となく事の顛末を眺め続けている。

 少年達はどんどん此方に近づいてくる、その姿を眺めながら、その中の一人に視線が向いてしまう。


 「駄目だな……あいつ転ぶぞ。」


 口をついて出た独り言だが、そうなる自身が俺にはある。

 というのも、その子は窃盗自体が初めてなのだろう、物を抱えて走るという行為自体が慣れていないようだった。

 それに加えて姿勢が駄目だ、速度を維持するのなら前傾姿勢が必須であるのに、その子は中途半端に体を前に倒している……普通に走るなら問題ないだろうが、胸に荷物を抱えたままだと、逆にバランスが取り辛いはずだ。

 そこまで考えて俺の予想は的中した。

 一番後方を走っていたその子は、突如バランスを崩したように体を一気に前に倒す。

 その子も何とかしようとしたのだろう。果実を抱えた両腕を崩し、辺りに果実をばら撒きながらも両腕を振り回し、何とか体勢を修正しようと試みる。

 しかしその頑張りも虚しく、まっすぐに顔から舗装された地面に突っ込んだ。

 その子が転んだのに気が付いたのだろう、前を走っている二人は後ろをちらりと見る……しかしその後ろに追手がいる事を見て、助けに戻る様な愚行はしなかった。

 彼らは俺の脇を通り過ぎて走り抜けていく……取り残されたその子は、悲しそうに二人の背中を見つめていた。


 「はぁ……はぁ……くそ!!商品が駄目になっちまったじゃねぇか!!」


 やがてその子に追いついた店主は、辺りに散らばった果実を拾い上げ、付いた傷の具合を眺めながら毒づく。

 もはや逃げる気力も無いのだろう、膝を抱えて地面に座りながら、周りを衛兵に囲まれたまま、その子は静かに涙を流している。


 (泣く位なら初めから行動しなければいい……そうでなくても失敗しなければ問題ないはずだ。)


 嘲笑に近い感情と共に彼らに向けて歩を進める。今の一連の行動に対する俺の考えに、なんの間違いは無いはずだ……なら俺は、何故こんな事をしようとしているのだろうか……

 ……いくら考えても解らない……極めて無意味な行動のはずなのに、それを実行するべきだと思ってしまう……それに対し、魔王の思考は反対の答えを出す。


 (そもそもの話、そういった悪い環境を作り出した国側の責任だ。駆逐するのならもう既に終えているべきだし、それを放棄し、わざわざ野放しにしているからこういった輩が生まれるのだ。気まぐれであろうと、慈悲を掛ける事自体が間違っている。)


 ……それ位は解っている。そして、俺が今しようとしている事が、何の解決にもならない事位も……

 それでも俺は歩みを止めない、俺の異様な気配を察したのだろう、店主と衛兵が俺に向けて視線を投げかけて来ていた。

 俺という存在を認識された事で、もう後には引けないという判断が上回った。このまま無視して横を通り過ぎろと思考は言っていたが、努めてそれを無視して店主に話しかける。


 「一つ取引をしたいのだが……どうかな?」


 全員が虚を突かれたかのように呆然としている。……当然か、仮面をした不審な人物からそう声を掛けられれば、俺だって呆然とするだろう。

 だが要件は変わらない、さっさと本題に入る事にする。


 「その果実と……先ほど逃げた少年達の窃盗分……その全てを買いたいのだ。もちろん正当な金額を払うと約束しよう。」


 「……えっ!?……えっと……何がしたいんですかね?」


 突然降って沸いた儲け話に、店主は困惑したように問いかける、その目に映るのは困惑と疑念である。多分だが彼は、俺の目的を理解していない様に思えた。


 「今の一件で失われた損失は私が買った事にすればいい。そうすれば衛兵諸君も、子供一人を牢獄に送り込むという無駄な手続きをしなくても済むだろう?」


 ここまで言って解らないほど、店主も馬鹿では無いのだろう。理解したように首を縦に振りながら、同じく理解したであろう衛兵たちに視線を投げかけている。

 衛兵たちも無駄な仕事を増やしたくないのだろう、全員が素知らぬ振りをしながら、少年の囲いを解く……それでも、まだ逃げ出せない様に注意を払っているが……

 衛兵たちの無言の了承を得て、店主は首を縦に振る。彼が提示したのは銀貨3枚……取られた量はそれなりのはずだが……安い金額だった。


 「別に多少なら高く見積もってもいいのだぞ?」


 懐から取り出した小袋から、銀貨3枚を取り出し、店主に渡しながら問いかける。

 

 「うちは信用が売りですからね。機会があればまたご贔屓にしてくださいよ。」


 俺の問いかけに、笑いながら答える店主に商人としての心意気を感じる。

 感銘を受けた訳では無いが、機会があればまた訪れてやってもいいかもしれなかった。

 俺と店主の契約が終了したのを見たのだろう。気が付けば衛兵たちは遠くに去っており、店主もまた自身の店に戻っていく。

 後に残されたのは、6つの果実と、ダークエルフの少年だけである。

 その子は今も尚、目の前で繰り広げられた現実が受け入れられないのだろう。

 その目をばちくりと瞬かせながら、俺の顔へと視線を注いでいる。


 「さて……どうしたものか……」


 その子に視線を注ぎ返しながら、俺は今後の事を考える。

 別にこのまま果実を与えて放り出しても良かったが……何となくそれも勿体無かった。

 それに……さっきも考えた通り、今の行動が根本の解決にはなり得ない……たとえ今日が良くても、明日からはまた同じことを繰り返すはずだ……そしてそれをまた救ってやるほど、俺も暇じゃない。


 「……ならばそうだな……おいお前。」


 「はい!!」


 思考を纏めながらであったため、若干語気が荒くなってしまった。それに驚いたかのように、その子はびくりと肩を震わせ、くすんだぼさぼさの金髪を揺らしながら答える。

 その声は男の物にしてはやや高い……その事から、もしかしたら女かとも思ったが、幾ら成長していないのだとしても、俺とそんなに変わらない背丈の癖に、こんなに胸の平らな女はいないはずだ。一番胸が小さいヨルでさえも、目で見て解る程度の膨らみはある。

 だからこそこいつは男であるはずだ。そもそもの話、女性であるのなら、もう少し身なりに気を遣うだろう。いくら十分な衣服を整えられないとしても、ぼろぼろの布切れ1枚で過ごせるほど、女性という生き物は鈍感では無いはずだ。

 一瞬の思考の後、子供の性別を見極め、その結果から今日の行動も並行して考え、纏め上げると共に実行する。


 「君は運がいい、この後多少のテストを行い、その結果が良好であれば私の下で働かせてやる。もちろん、君が望むのならだが……どうかな?」


 別に断られても問題ない。ブラウとは違い、こいつの力をまだ魅力的だとは思っていないからだ。

 もしかしたら磨けば光る原石かもしれないが……それでも、拒否する者を無理やり従えようとは思わない。だから断られたらそれまで、後は初めの考え通り、果実を与えてこの場を去るだけだ。

 やる事には何も問題は無い、だから後は彼の答えを聞くだけだった。


 「……あの……働くっていったい何をするんですか?」


 首を傾げたまま、男にしては長い睫毛を揺らしながら彼は問いかけてくる。

 ……言い忘れていた。それを疑問に思うのは当然だ、慌てて俺の考えている内容を口にする。


 「ああ、それなんだが……一言では言えないな……まぁ君に出来る事全てだよ。それこそ、君の体と技術……その全てを使ってもらう事になる。」


 流石にこの場で人間を滅ぼすとは言えない。故にまだ未定ではあるが、順調に行ったとしたらそうしてもらうつもりだと告げる。

 それに少しばかり驚いた様に目を見開いた後、少しの間を置き、納得した様に首を縦に振りながら彼はさらに問いかけてくる。


 「ですが……私の体と技術は未熟ですよ……恥ずかしいですが、そういった経験は無いので……他の皆の様にうまくやれるかどうか……それでもいいのでしょうか?」


 自身の力量が不安なのだろう。彼は此方の様子を伺いながら、胸の前でそっと両手を組んでいる。

 俺としても、今の彼の力量を注視してはいない。今後成長の余地があるのならば、即戦力でなくても構わないからだ。


 「別に構わないぞ。誰だって初めからうまくできる訳ではあるまい。それに他者の成長を見守るのも存外楽しい物だしな。初めの内は渡しの指示通りに動き、相応の技術を得たら、君が率先して動いてくれればいい。」


 「そうですか……解りました。そのテスト受けさせてください!!」


 俺の答えに疑問は無くなったのだろう。彼は小さな両手を握りしめ、胸の前で掲げて意気込みを示す。

 そのまっすぐな姿に、少しばかりではあるが好印象を抱きつつ、彼を連れ、館へ向けて歩き出した。


◇◆◇◆◇◆◇


 「大きなお屋敷ですね……」


 少年から感嘆の声を聴きながら、俺は屋敷の中に入る。

 丁度、玄関付近を清掃していた女子奴隷がいたので、彼女に風呂の準備を指示して応接室に向かう。

 少年も俺に倣い、女子奴隷に軽く礼をしながら後に続いてきた。


 「さて……とりあえずテストは午後からでいいだろう。その果実は全て君に上げよう、風呂が沸くまでの間に食事を済ませると良い。」


 「あ……ありがとうございます!!」


 驚きと歓喜を含んだ声と笑顔のまま、少年は胸に抱えた果実を机の上に置き、貪る様に食べ始める。

 ……それこそ、辺りに果汁を撒き散らしながらである。流石に其処まで看過してやるほど優しくは無い。


 「……取りあえず落ち着いて食べろ。私が清掃する訳では無いが、余計な仕事を増やしてやりたいと思うほど、私はひねくれてはいない。」


 俺の忠告を受け、時間停止魔法を食らったかの様に、彼はその動きを静止させる。

 その後一息つく様に深い呼吸をし、今度は静かに食べ始める。終始俺の顔色を伺いながらであり、その顔もつい先ほどの笑顔が嘘の様に固い……彼も俺の機嫌を損なわない様に注意している様に思えた。


 「安心しろ。別に今ので、先の話を無かった事にはしない。ただ、いくら教養が無いのだとしても、最低限の作法位は守ってほしいだけだ。」


 俺のフォローに、今度は弛緩した空気を漂わせ始める……ブラウ以上に解りやすい性格だった。

 再度笑顔を取り戻した彼の食事を眺めながら、テストの内容をどうするか考え始める。


 (ダークエルフは確か……純粋なエルフよりも魔法適正が高かったはず……シュリの成長は想像以上だったが、この者もそうなり得る素質はあるはずだ……なら現状の魔力を試し、使い道があるかどうかの判断を下すべきか……)


 ダークエルフの特徴は、その褐色の肌がまず第一に上げられる。しかしそれ以上に、大本の種であるエルフ族よりも、魔法に携わる潜在能力は高かったはずだ。

 その点から、シュリまで行かないまでも、十分な実力を持てる素養があると思われた。


 (なら適当な魔法を撃たせ続けるか……マジックショット位ならすぐに覚えられるだろうしそれにするか。……まぁ、それすらも覚えられないなら先は無いだろう。可哀想ではあるが、その時は諦めて貰うとしよう。)


 思考を纏めていると、既に彼は果実を食べ終えている。

 その澄んだ瞳は、不思議そうに此方を伺っていた。それでも、彼から何かを問いかけてくることは無かったが……

 ……間が持たなかった。普段自身から会話をする事が少ないせいか、こういう時にどう声を掛けるべきか迷ってしまう。

 気まずい沈黙の中、沈黙を切り裂く様に女子奴隷からの報告が入った。


 「ふむ、風呂も沸いたようだな。その体を清めるといい。」


 「え!?いいん……ですか? 私なら残り湯でも水でも構いませんが……」


 「それでは体が冷えるだろう? 別にもう沸かした物だしな、わざわざそれを冷まして無駄にする必要も無いだろう、入ってくると良い。」


 「ありがとうございます!!しっかりと清潔にしてきますので、待っていてください!!」


 特段相手を気遣っての言葉では無かったが、少年は感激したよう声を震わせ、俺の次の言葉を聞かずに、女子奴隷から風呂場の位置を聞き、応接室から出て行ってしまった。

 窃盗の時とはうって変わったその素早い動きに、呆然と見つめ続ける事しかできなかった俺は、ふと気が付いた事を女子奴隷に聞く。


 「なぁ……着替えって用意してるのか?」


 「いいえ……其方はどういった物をお出しすればいいか解らなかったので、今リジィー様からお聞きになろうかと……」


 「だよなぁ……うん、ありがとう。後は俺が対処する。君は自分の持ち場に戻れ。」


 軽い礼と共にこの場を去る女子奴隷を見つめながら、俺の衣服を取りに部屋に向かう。

 そしてクローゼットの中……ある程度の滞在を視野に入れた大量の服の中から、どれを与えるべきかを少し悩んでしまう。


 「あんまり装飾が多いのは動きづらいだろうし……厚手の物も同様だ……それならこれとかいいんじゃないか?」


 独り言と共に見繕ったのは、冒険者時代に多用していたタイプの服。

 薄手のそれは防御には向かないが、初めから衣服には防御性能を求めていない、単純に動きやすい服装で選んだのだ。

 丁度俺の背丈と同じくらいだし、これ位の服が丁度良良いはずだった。

 後はこれをあいつに渡しに行くだけだ。


 風呂場へ移動し、その扉を開く。

 既に風呂の中に入っているのだろう、奥の浴室からは湯が流される音が聞こえている。


 「全く、もう少し丁寧に出来ない物なのだろうか……」


 脱衣所の床の上、無造作に放られたぼろ布を摘みながら文句が出てしまう。

 まぁ彼にとってもぼろ布なのだろう、それゆえのこの扱いの雑さなのだろうが……それでも自身の唯一の資産だろう……それを大事にしないでどうするのか……

 呆れに近い感情と共に、もし俺の配下になったとしたら、徹底的に意識改善をしてやろうと心に誓う。


 「おい、替えの服此処に置いとくからな!!」


 「あっ……はい!!ありがとうございます。」


 衣服を棚に置くと共に大声を張り上げる、それに対する答えが聞こえたので、もう要件は無くなった。

 彼が出るまで待つ必要も無い為、俺はさっさとこの場を去ろうとした……


 「あっ……」


 ところで浴室の方からその短い悲鳴と共に、何かが叩き付けられる様な鈍い音が聞こえてくる。

 きっと転んだのだろうが、それでも重症になり得る可能性があったため、慌てて浴室の戸を開け中に入り込んだ。


 「おい!!大丈夫か!?頭を打ってはいないか!?」


 熱気の籠った湿気に、肺が深いな感覚を覚えると共に、状況を確認する為に彼の姿を探す。

 最悪即死という事も有り得た……その場合は無魔法を使用して蘇生するが、蘇生魔法の魔力消費は、死亡時からの時間の経過と共に、無尽蔵にかつ膨大に増えていく。早い事に越した事はない……焦る感情のままに冷静な思考を保ち、湯気で塞がれる視界を動かす。

 彼の姿はすぐに見つかる。床に腰を打ち付けたのだろう、そのくびれた腰を手で擦りつつ、彼女は一糸まとわぬ姿で其処にいた。


 ……そう彼女だ……その下半身には、男性が持っているはずの象徴は無い……


 俺の視線に気が付いたのだろう、慌てて彼女はその部分と胸を手で隠す……どうでも良い事だが、無くても恥ずかしい物なのだろうか?

 …………ああ解っている。そんなどうでも良い事に思考を割くほど、今の俺は混乱している。


 (こいつ男じゃなかったのか? なら何でぼろ布1枚で平気でいられるの? それに胸だってないし……)


 互いに見つめ合ったまま、気まずい沈黙が浴室を支配する。

 彼女の濡れた髪は、先ほどまでのぼさぼさで艶が無い髪質が嘘の様に、艶やかな輝きを持っている。

 それを認めた瞬間、何となく理解した。


 (ああそうか、平気だったわけじゃなく、単純にそれしか着る物が無かったからなのか。胸も、遺伝もあるのかもしれないが、栄養不足で成長していないだけなのかもしれない……)


 それを理解したからどうなると言うのだろうか……

 自身の裸体を、必死に隠している彼女と見つめ合った状態が解除される事は無く。時間は流れていく……


 「あ……えっと……すみません!!これもテストなんですね!?」


 やがて何を思ったのか彼女は……恥ずかしそうにではあるが、隠していた腕を解き、両腕を自身の後ろに回して自身の裸体を晒す。

 急に行われたその行為に驚くのは俺の方だ。慌てて動かせなかった視線を彼女から引き剥がしつつ、彼女の羞恥心の無さを叱る。


 「一体何をやっているんだ!!お前女何だろ!?なら隠す物はしっかり隠せ!!」


 「……え?でも……これもテストなんですよね?」


 返されるのは困惑した彼女の声。何をどう取り違えばそんな答えになるのだろうか!?

 混乱する思考のままに彼女に問いかける。


 「テストって……お前は俺を何だと思っているんだ!!俺が求めているのはお前の体では……」


 そこまで言って気付いた。慌てて彼女との会話を思い返してみる。

 まず俺は、君は運がいい、この後多少のテストを行い、その結果が良好であれば私の下で働かせてやる。と言った。

 それに対する彼女の答えは、働くっていったい何をするか……だ。

 俺はそれに、君に出来る事全て……君の体と技術、その全てを使ってもらう事になる……といった。

 ここまではいい、何ら問題は無いはずだ。

 だが、彼女が俺の言葉をどうとったかで変わる。


 ……非常に不快な事ではあるが。日銭を稼ぐのに一番効率がいいのは、自身の体を売る事なのだ。


 子を成し、後世の為に自身の血筋を多く残す為ならまだ理解できる……しかし快楽の為だけに、それを求め、受け入れる奴らが多いのも事実だ。

 だからこういったその日暮らしの者達は、悪事に手を染めるか、そういった行為で金を稼ぐのだ……

 つまり俺は、自身の情欲を処理する為の目的で、彼女を雇おうとしていると思われたのだろう。

 彼女の後に続いた言葉、私の体と技術は未熟ですよ、恥ずかしいですがそういった経験は無いので。他の皆の様にうまくやれるかどうか……からも伺える。


 ……俺はそんなに盛っているように見えるのか……


 仮面で俺の顔は見えていないはずなのに、態度でさえもそう取られるのなら……もはや俺自身が何をしようとも、女を欲している様に思われるのだろう。

 悲しみに打ちひしがれる俺を無視し、彼女は不思議そうに俺の言葉を待っていた。


新キャラが出ちゃったよ……この子の処遇をどうするか悩み中。

仲間に入れるとシュリ絶対起こるんだよな……近親種だしキャラ被りだし……

でも肩身の狭いブラウにも友達を作ってあげたいし……

とまぁ、そんな事想像しながら本編を書いていました。


魔王様は最近学習したのか、頭が回り始めていますね。もうちょっと四苦八苦してくれた方が、書いている側も楽しいのですが……優秀なのも考え物だな。

という訳で本編が全然進んでいないですが、楽しんでいただければ幸いです。


前書き同様、次回の更新の後、一週間ほど更新が空きますのでご了承ください。


ではまた次回

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