閑話 頑張れ!!10魔族!!
予定通り閑話の投稿です。
魔王とシュリが二人で行動していた間の10魔族の活動を、ショートストーリ形式で作成しました。……一部ストーリにすらなっていないですが……
まぁ、今まで登場していなかった皆が、どういった人物像かを、再度把握して貰う為の話だったりします。上手く伝えられなかったような気がしますが……
こんな話でも楽しんでいただければ幸いです。
草木に埋め尽くされ、少し先も見通すことが出来ない森の中。
人では、まともに歩く事すら困難な中を疾駆する、一つの影があった。
その影の名はフエン。かつて滅ぼされた魔王に使えていた10魔族、その一人である。
彼の姿はオオカミの姿に酷似している。だからなのだろうか、まるで草木がそこには無いかの様に、体に擦らせることも無く走り抜ける。
「ウワォ~~~ン」
一つの遠吠えが、フエンの後方から聞こえる。それに内心舌打ちをついてしまう。
「気付くの早いな……」
フエンは自身の隠密能力に誇りを持っている。しかし、その誇りを叩き潰された気分だった。
だが、その足を止める事は無い。何故なら彼は、重大な任務を遂行している最中であったからだ。
ふと、開けた土地に出る。そこには目的の魔族がいた。
自身と同じ様な姿をした魔族、自身が隷属させようとしている、ウルフ族の族長である。
そして、彼を中心に扇状に展開する、数々の配下が出迎える。気が付けば、後ろから追ってきた者も加わり、完全に取り囲まれていた。
しかし、フエンに不安は無い、自身が、彼らが束になったとしても、負けないだけの力を持っていると自負しているから。
だから、彼は告げる、自身の主、リジィー様の言葉を。
「単刀直入に言わせてもらう。我々に隷属しろ、しなければ一族皆殺しだ……」
それに抗議を上げるのは、遠吠えの大合唱。その内容は多種多様な罵詈雑言だった。
当然か、自身で言っていても無茶苦茶な内容なのだ。それでも、リジィー様の願いがそうであるというのであれば、全力を上げて叶えるだけだ。
合唱は止まるどころかどんどん大きくなる。いい加減、その罵詈雑言も聞き飽きて来た、軽く周りの奴を殺して、黙らせるかと思った矢先。
「うるせぇ!!静かにしろてめぇら!!」
その人語が轟いた。それは族長が発した言葉だった。
彼の言葉は効果的だった。まるで波が引くかの様に、数瞬の間を置いて合唱が止まったのである。
それを確認した彼は、フエンへ向かい一歩踏み出しつつ、口を開く。
「あんたの言葉には賛同できない。そもそも、目的はなんだ?俺達を隷属させて何の意味がある?」
「それは私の与り知らぬ所だ。その詳しい内容は我が王、リジィー様から聞け。」
「話にならねぇな……」
話にならないのでは無い、話にしていないのだ。それを理解していない様なので、フエンは彼に最後の通告をする。
「で、どうするんだ。このまま隷属するというのなら、私は貴様らになんも手は出さない。だが、隷属しないというのなら……皆殺しにする。」
此方の要求は一貫して変わらない。隷属するか、しないかだ。周りを取り囲んでいる奴らは、族長の言葉を待っているのであろう。動く事は無いがそれでも、ひとたび号令が鳴り響けば、一瞬で飛びかかれる様に準備をしている。
族長は少しばかり迷っているようだ。彼も馬鹿では無いのだろう。自身と周りの全員を含めた力が、フエンのそれに遠く及ばない事を感じ取っているのであろう。
しかし彼の迷いもそう長くは無かった。
「一騎打ちを申し出たい。」
族長の決断に、フエンは少しばかり尊敬の念を抱いた。
彼は、フエンという敵の言葉に対し、自身が犠牲になる事で、一方的な此方の言葉に、周りの者が従う理由を得ようとしているのだと判断したからだ。
そしてこれは、他者の意見を封じる事にも繋がる。もし、仮に、戦力の差を感じられない馬鹿な配下がいた場合、その者が勝手に行動を起こす可能性があるからだ。それは、その者のみでは無く、部族全体を危険に晒す事にも繋がる。
それをこの族長は封じたのだ。自身を生贄として差し出す事で、リジィー様には遠く及ばないにしても、彼には上に立つ者としての資格がある様に感じ取れた。
「いいだろう。その申し出受けて立つ。」
ならば、彼の思いを無下にする訳にはいくまい。了承の意を示し。彼に数歩近付く。
彼との距離は約100mほどである。遠いようだが、この程度の距離なら、互いに一瞬で詰められる。
「一騎打ちを受けてくれて感謝する。ところで、互いの名を知らないままだったな……俺の名はフールだ。」
「私の名はフエン……君の名は明らかに間違っている気がするよ。」
「そうかい?それでも俺の大事な名なんだ。変える気はさらさらないさ……さて、最後の会話もそろそろこれ位にしておくとしよう。」
そう言いつつ、フールはその四肢に力を込めていく、それに対する様にフエンもその四肢に力を込めていく。
それを見守るのは、この場にいる全員のウルフ族。彼らはただひたすらに、その一瞬が訪れるのを待ち続ける。
互いに動くことも無く、この場の誰も動く事も無く、長い様な短い様な……そんな時間が流れた時。
その瞬間は訪れた……
互いに同時に動き、瞬間後には、両者の立ち位置は入れ替わっている。
まさに刹那の交錯とも言える攻防が一瞬で繰り広げられた。
そして、勝利は誰の目にも明らかだった。
倒れたのはフール、そして、今も立ち続けていたフエンは後ろを振り返り、既に意識を失っているフールへ向けて告げる。
「大丈夫、命までは取ってないよ。君は優秀みたいだからね、その力と知恵、リジィー様の為に役立てると良い。」
気が付けば、フエンを取り囲んでいた配下のウルフ族、その全員が尾と耳、そして尻尾を低く下げていた。
(まぁ、これで僕の今の役割は終わったかな?)
内心でその結果に満足しつつ、これから彼らを引き連れ、魔王城に帰らないといけないと思うと、それはそれで面倒だなと思ってしまうのは仕方ないだろう。
何故なら、どこに隠れていたのか、今も増え続けているそのウルフ族の数は尋常では無かったのだから。
◇◆◇◆◇◆◇
ゴブリンという種族を一言で説明するとするのなら、人間と変わらない……である。
もちろん、肌の色、醜く歪んだその顔、成熟しても尚小さいその背など。違う所は多々ある。
しかし、群れという社会を成し、自身で未熟ではあれど、武器などの道具を生成する事も出来、尚且つ団体で行動する上で個々の役割をしっかりと把握し、何かしらの行動をする際、連携を取る者も、その全てではないが、少なからずいた。
だからこそ、ほぼほぼ人間と変わらない種である、というのが魔に属する者達の見解であった。
そんな彼らは、繁殖能力が高い、ゴブリン1匹を見たら、10匹いると思え。だれが噂したのだろうか、そんな言葉が広まるほどにである。
そして彼らは、総じてずる賢い者達でもあった。人間からいろいろな物を奪っていくのである。
農作物はもちろん、農業用の道具、はたまた馬や家畜まで。そういった事から、人間から、特に農業関係者から疎まれている種族でもあった。
魔王城近郊、人間世界に疎まれている多種多様なゴブリン族、その一部である彼らは、その日絶望を目の当たりにしていた……
「薄汚いゴブリンの皆さん、御機嫌よう。私、スロノドールが。リジィー様からのありがたいお言葉を、皆様方にお伝えに参りましたわ。」
人間達にとってゴブリンの容姿が醜く映る様に、ゴブリン達には人間のその容姿が醜く映る物なのである。
これは、価値観や種族の違いがあると思われるが。その彼女の姿に……人間と何ら変わらないその姿に、ゴブリン達は見惚れていた。
艶やかに流されたその銀髪は、月の光を受け淡く光、暗闇の中でも尚光り輝くのは朱色の瞳、その白魚の様なみずみずしい白い肌は、月明りの中でも際立っている。
フリルで飾られた、ドレスの様な服を優雅に着こなし、その姿は貴族の令嬢を思わせた。
ゴブリンが見つめるのは空中の高い所、その場に、背から何らかの生物らしき羽を生やしたスロノドールがいた。
彼女は、その高みから、地べたを這いずり回る、無数のゴブリンの雄へ向け、主の意思を告げる。
「我が王、リジィー様に隷属しろ。拒否するなら殺す。」
その声は冷たい、他者の命を何とも思っていない言葉であった。
その声音に、ゴブリン達はやっと自身が置かれている窮地を理解する。
この者、スロノドールは、我々が隷属しないのなら、間違いなくその言葉通り、我々を殺すと思ったのだ。
だが、隷属には賛同できなかった。一体何をさせられるのかがてんで解らなかったからだ。もしこれが、惨たらしい実験の為の生き物を探しているのならば、それを受け入れる訳にはいかなかった。
「オレタチハ、イッタイ、ナニヲサセラレルンダ?」
たどたどしい人語で、その部族を纏めているゴブリンがスロノドールに質問する。
それに対し、不機嫌を隠そうともせずに、スロノドールは答える。
「それを貴方方が知る権利は無いですわ、貴方方はただ黙って、従順に、尚且つ不敬なく、リジィー様の意思を叶えればいいのですわ。」
スロノドールのその答えに、ゴブリン達はこれ以上は何も聞きだせない事を悟る。
それと共に、彼らは彼女に、ひいてはその後ろにいるリジィー、という存在に抗う事を決意する。
当然である。誰が好き好んで自身の愛する家族を伴い、何をされるのかも解らないのに。隷属しなくてはいけないのだろうか。
たとえ、それが勝ち目の無い戦いだとしても、ゴブリン達はそれを受け入れる訳にはいかなかった。
それを理解してくれたのであろう、隠れるように指示を出していた女、子供達が、その手に弓と矢を抱え現れる。
それを各員が受け取りながら、スロノドールに弓につがえた矢を向ける。
「そうですか、残念ですわね。」
大して残念そうでは無い、そのスロノドールの声が合図となる。
ゴブリン達はその矢を一斉に放った。
一体どれだけの矢が放たれたのだろうか、黒い無数の影が、スロノドールへ殺到した。
その影は、スロノドールを串刺し、無数の穴を空けながら、空中からその姿を引きずり下ろす……はずだった。
「スピードスペル・ストップタイム」
発動したのは中級魔法。その効果を受けた無数の影は、慣性も余力も何もかもを無視し、その場に止まる。
「まぁ、貴方方の様な知能が低い魔族が、リジィー様の意思を叶えられるとは思えませんし……邪魔になる可能性があるのなら、排除すべきですわね。スピードスペル・リバース」
スロノドールは自身の考えを吐露すると共に魔法を紡ぐ。対象は自身に向かってきた全ての矢、それに力の向きを反転させる魔法を掛ける。
矢は時間停止を受けているので、動く事は無い、しかし、その効果が切れると共に、その効果は発揮されるだろう。
「……これだけの数を一度に掃除するのですから……これだと足りないですわね。スピードスペル・ロックターゲット、ルーツスペル・マルチロック」
ざっと数えただけでは、ただこのまま返すだけでは、矢の数が足りないと判断したスロノドールは、初級魔法の対象固定を発動すると共に、それを起源とした派生魔法、複数対象固定を発動する。
これにより、矢は無駄なく対象を貫いていくだろう。
「後は……スピードスペル・ブーストスピード……っとこんな所かしら。」
止めに唱えられたのは、対象の速度を増強する魔法、これで貫通した矢はその余力で、他のゴブリンを串刺しにするであろう。
ゴブリン達は、一種諦観の籠った瞳で、スロノドールがその最後の魔法を紡ぐのを待っている。
何故なら、どれだけ抗おうとも、その矢から逃げられるとは思えなかったからだ……
「それではゴブリンの皆さん、ご機嫌麗しゅう。……もう二度と会う事は無いでしょうが。」
その一言と共にスロノドールは、その無数の矢へ背を向け飛び始める。それと共に、時間停止の効果が切れた無数の矢が、ゴブリン達へ降り注いだ……
◇◆◇◆◇◆◇
ルウワーフは人狼である。
普段は人の姿をしているが、必要ならば、狼の姿にも変われるし、人と狼の中間の様な姿にも変われる。
そして、その腕力は10魔族の中でも1、2位を争うくらいに強かった。
それは、自身が日頃から欠かす事が無い鍛錬の賜物でもあった。
ただ、それを生かす機会がこの500年ほど、何もなかったのである。
だから、欲求不満とも取れる様な感情と共に、ルウワーフは目の前に対峙している魔族に、興奮を隠せなかった。
「やっぱり、二人から譲って貰って正解だった。これは楽しくなりそう。」
自身の引き絞られた体に、力が漲っていくのが解る。目の前に立つ魔族、巨大な鬼に反応しているのである。
その魔族の特徴は、並外れた腕力であるとどこかで聞いた事があった。その時から、いつか手合わせしたいと思う魔族の一つに、名を連ね続けていたのである。
そして、今日その願いが果たされる。
もちろん、我が王の御言葉は伝えた。しかし、それはすぐに拒否されたのである。ならば、その後はこの者達をどうしようと私の自由だろう。
鬼がその特異な形をした鉄棍棒を、自身の巨体を利用し、振り下ろしてくる。それを右手を突き出し、止める。
自身の攻撃を、右腕一本で止められたのが予想外だったのであろう。その顔には困惑が浮かんている。しかし、ルウワーフはそれには目も暮れない。
(……物足りないな。鬼の力もこの程度なのかな。)
ルウワーフには悲しい現実がそこにあった。多分、全力で振り下ろされたであろうその武器は、少しばかりの衝撃しか伝わってこなかったのである。
期待はずれ、そんな思いでいっぱいだった。
そんな事を思われているとは知らない鬼は、今度は横なぎに武器を振るう。ルウワーフはそれに合わせ、裏拳を棍棒へ当てる。
鈍く響き渡る大きな音と共に、鬼の手にした武器は粉々に砕け散ってしまう。
そこまで来ると、ルウワーフの鬼に対する期待は、跡形も無く消えていた。
だから、さっさとこの戦いを終わらせる事にする。
たんっ、と軽やかに地を蹴り、身長差で自身より高所にある、その鬼の顔の前に躍り出る……と共に、引き絞った右足を鋭く振るう。
鈍い打撃音と共に、肉が引きちぎれる音が辺りに響き渡り、その驚愕に彩られた鬼の顔は、遠くへ飛んで行った。
「これで、一体片付いた……っと」
独り言を呟くと共に辺りを見回す。そこには他の鬼達が目の前で繰り広げられた光景を、信じられ無い物でも見る様に見つめていた。
「まぁ、知恵も力も無い様な奴ら、隷属させても意味が無いでしょう。とりあえず、禍根が残らない様に、女子供含め全員殺しておこうかな。」
ルウワーフのその宣言は実行され。鬼という種の中にある一つの部族が、この日潰えた。
◇◆◇◆◇◆◇
人間世界から、とても遠くの地にあるとされる魔王城、その一室である工場では、この500年の内に無かった活気を取り戻していた。
鉄を叩く音から始まり、炎が竈の中で燃え滾る音、水が熱を冷やす音などなど。
かつて、人間と戦争をしている最中に鳴りやむ事が無かったその音が、今取り戻されていた。
その工場の主であるサロスは、その八本の腕を休む事無く動かし続けている。
忙しそうではあるが、それでもその口元に浮かぶ笑みと、本人ですら知らず知らずの内に口ずさんでいる鼻歌が、彼が上機嫌である事を表していた。
それも、当然だろう。サロスは物を作るという行為自体が好きだったのだから。
魔王亡き後、10魔族の食事を作り続けていたのも、それ自体に楽しみを見出していたからに過ぎない。
ただそれでも、自身の本職は食事では無く、マジックアイテムや武器防具などの生成なのである。やはり、今、現状が一番充実していると言っても過言では無かった。
絶え間なく動かし続ける腕に意識を向ける中、自身の後ろに何者かの気配が感じ取れる。それに目を向ける事も無く、サロスは作業を続ける。
「……サロス。これはどこに置けばいい?」
それに業を煮やしたのだろうか、少し不機嫌そうに、それでも抑揚の乏しい声ではあったが、その気配が問いかけてくる。
「ヨルか、ありがとう。其処に適当に置いといてくれ。」
「……解った。他に必要なのは?」
「今はいい、必要な物があったら呼ぶから、それまで自由にしてくれ。」
数度の会話が終わり、ヨルは工場を出ていく。サロスはこの場に一人となる、別に寂しくは無い、それは彼の望む所でもあったからだ。
サロスは、自身の行動範囲に、思い通りに動かない者がいるのが煩わしいのである。それを他の者も理解しているから、サロスの望みを、出来る限りで叶えてくれている。
それは、自身の敬愛する王も同じであった。彼は、サロスにとんでもない宝を渡しだのである。
「ふふっふふふふふふふふっ、しかしリジィー様もすごいな、まさかこんな設計図を思いつくなんて。」
工場に響き渡るその声は愉悦に満ち、それをかき消す様に、様々な音が反響するのであった。
◇◆◇◆◇◆◇
ニルブニルは巨大なドラゴンである。
自身のその体を疎ましく思った事はほとんどない。ただ、この時ばかりはそうは言っていられなかった。
「だぁぁぁぁぁぁっぁ!!こんなの取れるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
精神を憑依させたゴーレムを操り、魔王城の略奪された物と残っている物の纏めをしている最中。その絶叫は響き渡った。
「なんで、こんな豆粒みたいなマジックアイテムがあるんだよ!!こんな物何に使うんだよ!!」
ゴーレムは石を積み上げ魔力を付与した人形である。一応、手と呼べるような部分はあるのだが、その指に使われている石の大きさはちぐはぐであり、細かい作業に向いているとはとても言えなかった。
その結果がこのニルブニルの絶叫である。
彼の、ゴーレムの前に在るのは、少し大きめの箱、その中に詰め込まれた数々の小さなマジックアイテムである。そして、それらはゴーレムの手ではまともに数える事が出来そうになかった。
一瞬、自身に対する嫌がらせかとも思ったが、自身の敬愛する彼が、そんなちゃちな嫌がらせをするとは思えなかった。
それに、自身は特に悪い事をした覚えがないのだ。……この500年ほど、ほぼほぼ寝て過ごしてはいたが……それでも、侵入者自体がいなかったので、問題は無いだろう。
そこまで考えて、ふとある人物に思い当たる。
「……アグリウス、あいつまさかリジィー様に告発したのか!!」
あのいたずら好きな悪魔の事だ、その可能性も十分にある。その結果、大々的に罰するつもりが無いリジィー様は、この苦行を成す事で、それを罰とするつもりなのだろうと考える。
アグリウスの行動には、少しばかり怒りが感じられたが、それでもその原因を作ったのは自分自身だ、なら甘んじて受け入れるしかあるまい。
自身をそう考える事でなだめつつ、ニルブニルは作業を続けていった。
自身の知らぬ所で、見当違いの恨みを持たれているアグリウスをそのままに、
「ああ!!また落としちまった!!」
そのニルブニルの絶叫が、終始途絶える事は無かった。
◇◆◇◆◇◆◇
誰もいない巨大な部屋の中、ロロスは黙々と岩を積み上げる。
その姿は人間の青年と変わらない。しかし、その誰もが魅了される様な整った顔立ちの青年は、彼の本来の姿では無い。なら何故この姿をしているかと言うと、こういった細かい作業を行う際、此方の方が何かと都合が良かったのだ。
その顔には笑みが浮かんでいる。無理も無いだろう、ロロスはその作業を楽しんでいたのだから。
……別にロロスは単純作業が好きなわけでは無い、むしろ変化の無い事は嫌いな方であった。
それでも、自身が今作り出しているゴーレム、その完成形は心躍る物があった。
アグリウスから渡された指示書、その中に書かれた内容にロロスは初め驚きこそした物の、よくよく考えてみれば、これほど人間相手に効果的で尚且つ面白い物は無かった。
だからロロスは黙々と岩を積み上げる。その完成形を空想しながら。
魔王城の中の一室、其処では、全長にして20mほどの作りかけのゴーレムが鎮座している。それの完成はまだまだ遠く、それが完成する頃には多くの岩が使われる事になる。
◇◆◇◆◇◆◇
リジィーがシュリを連れ立って、人間世界へ旅立った其の直ぐ後。
各員がその与えられた役割をこなす為に、それぞれの持ち場へ向かった後の話である。
魔王城の廊下をコツコツと歩く一つの影があった。その影の名はアグリウス。
その頭は牡牛の姿に似ており、立派な巻角は羊を思わせる。10魔族の一人であった。
彼の現在の役割は連絡係である。それは重要な役割でもある。
当然だ、各員の作業の進捗を把握し、遅れているのであれば、それに対する打開策考えると共に、リジィー様に確認を取らなくてはいけないのだから。
だから、彼に休む暇は無い。ただただ、今後の行動を頭の中で組み立てながら、目の前の問題を片づけていくだけである。
……だからこそ、できれば、問題は起こしてほしくは無いのである。
「……いい加減にしてくれませんか?リナシー。そろそろ私も怒りますよ。」
いい加減、引きずりながら歩くのに疲れたアグリウスは、その腰に両腕を回し、一向に離れようとしないリナシーへ向けて声を掛ける。
少しばかり盗み見た彼女の顔は、泣き腫らしたかのように赤くなり、その顔に魅了されない男性はいないであろうと思わせる物であった。
だが、アグリウスには意味が無い、彼女は仲間であると共に、その思いを向けている相手を理解しているからである。
たとえ、リジィー様にその気が無かったのだとしても、そんな感情を向けようとは思わなかった。
「リジィー様にぃぃぃ!!リジィー様にお取次ぎをぉぉぉぉ!!」
リナシーの主張は腰に抱き着き、そのまま引きずられ始めたころから一貫して変わらない。
正直、めんどくさかった。
「その必要はありません、リジィー様の指示は貴方も受けたはずです。他の者のサポートだと。」
「何故ですか!!何故私だけ名前を呼ばれなかったのですか!!私は……私は何も悪い事をしていないのに!!」
(昨夜の事を忘れたのか、貴方は……)
昨夜というのはもちろん、リジィー様に対する夜這いの件である。
そんな、呆れの感情を抱かれているとは思わないリナシーは続ける。
「皆はしっかり指示を出されました!!なら、私にも何かの指示があるはずです。それを確認しないのは不敬なのではないのですか!?」
アグリウスの意見をはっきり言うのであれば、リジィー様はリナシーに指示を出すのを忘れていたのではないかという事……いや、それしか考えられなかった。
つまり、彼女には現状、リジィー様にとって重要な役割を与えられていないという事を意味した。
それを告げる事を、アグリウスは躊躇った。同情からでは無い、これ以上面倒な事になってほしくなかったからだ。
「そもそもリナシー、それを確認しなかった貴方の不手際なのではないですか?」
「確認しに行きました!!でも、その時にはもう玉座の間にいなかったのです!!何かの用ですれ違ったのかもしれません!!」
「………………」
返す言葉が無かった。それでも、連絡を取る事は躊躇われた。
何故なら、リジィー様は人間に囲まれているのが簡単に想像でき、わざわざ人気のない所にご足労を願い、ありもしない指示を聞きだす事が躊躇われたからである。
「……リナシー、貴方に与えられたのは皆のサポートです。その役割を果たしてください。」
「だからリジィー様に確認を!!確認を取ってください!!」
一向にリナシーはアグリウスから離れず、それに取り合おうとしないアグリウスは、彼女を引き摺りつつ歩く。
そんな自身の姿を客観的に捉えながら。アグリウスは、自身の主の苦労が少しだけ解ったような気がしていた。
次回は本編の続きとなります。
魔王様は人間に一回負けた事で、すごい慎重になっているので全然話が進んでないです。すみません。
ではまた次回の機会に。




