94話 双極の咆哮
「総員、突撃ィィ!! ヒミコたちの術式展開の隙を作れ!!」
ライトの咆哮を合図に、満身創痍の戦士たちが一斉に地を蹴った。
バハムートとマスタードラゴンが咆哮とともにサマエルの左右から猛烈な爪撃を繰り出し、ガイルが俊敏さで大地の牙を突き上げる。カイルの炎氷の刃が、ライトの白銀の剣光が、ジンの黒炎が、サマエルの神威の障壁へと波状攻撃を仕掛ける。
「不条理の壁だろうが、全員で叩けば亀裂ぐらい入るぜ!!」
ジンが叫ぶ。もちろん、サマエルの反撃は凄まじい。一振りの神威でライトたちが血を吐いて吹き飛ばされるが、それでも二頭の竜王が肉体を盾にしてサマエルの視界を遮り続ける。命を削り、全員で作る、たった一瞬の『隙』。
その直後、戦場の一角で、ユイがシンの背中に両手を当てて全魔力を注ぎ込んでいた。
「――『聖天至高癒』!!!」
「おおおあぁぁぁっ!!」
温かくも凄まじい光の奔流がシンの全身を駆け巡る。サマエルの攻撃でボロボロになり、骨が軋んでいたシンの肉体が、瞬く間に回復していく。陰陽の二刀に、濁りのない極限の魔力が満ち満ちていく。
「今よ! ――神殺しの檻、展開っ!!!」
ヒミコ、サーラ、ソフィア、あるいは風の精霊の歌声が重なり、荒野の大地に描き出された七色の魔法陣が爆発的な白銀の光柱となってサマエルを包み込んだ。
「……ぐ、ぬっ……!? これは、因果の鎖か……!」
さしもの始祖神サマエルも、全ての精霊の力が宿った究極の封印術には抗いきれず、その絶対的な身のこなしに「抵抗」の硬直が生まれた。第86話でシンを絶望させた、あの完璧だった神の構えに、明確な歪みが生じる。
「サマエル!! ――今だあぁぁ!!」
回復したシンが、光速を超えて踏み込んだ。
シンの背後に五つの異なる精霊の輝きが揺らめき、二振りの刃へと収束していく。先ほどは放つことすら許されなかった、特訓の結晶たる最高峰の合一技。
「――『五魂神醒・双極斬』!!」
シンが二刀をクロスさせ、右手の聖剣から紅蓮の陽エネルギー、左手の聖剣から蒼天の陰エネルギーを爆発させる。二つの相反する極大の力が、五つの精霊の魂によって無理矢理一本の因果へと編み込まれていく。荒野の空間そのものが、その莫大なエネルギーの密度に耐えかねて悲鳴を上げるようにパキパキと割れ始めた。
「これが……俺たちの、全開の力だぁぁぁっ!!!」
シンが咆哮とともに二刀を振り下ろす。
放たれたのは、世界の理を真っ向から否定するような、陰陽双極の巨大な光の十字嵐。
ドゴォォォォォォンッ!!!!
かつてない大爆発がサマエルを直撃した。
パリン……パリィィィン!! と、これまで二大竜王の攻撃すら無効化していたサマエルの「神威の障壁」が、ガラス細工のように粉々に砕け散っていく。
「な……に……!?」
サマエルの冷徹な瞳が驚愕に見開かれた。障壁を突き破った双極の嵐が、神の肉体を容赦なく切り裂く。凄まじい衝撃波とともにサマエルの巨躯が初めて荒野の地面を何十メートルも引きずられ、その胸元からは鮮血が迸った。
「我が……この世界を創りし我が、人間に、傷をつけられただと……!? 馬鹿な、あり得ん……!」
初めて味わう肉体の苦痛と、絶対に破られないはずの我が障壁を打ち破られた事実。絶対神サマエルの顔が、生まれて初めて「動揺」と「焦燥」へと激しく歪んだ。
『五魂神醒・双極斬』。それは、人間が神の領域へと刃を届かせた、歴史的な一撃となったのだ。
だが、サマエルの傷は浅い。動揺しながらも、その全身から怒り狂ったような狂気的な神威が膨れ上がり始める。
「おのれ……特異点めが……消え去れぃ!!」
「シン!! 呆けてる暇はねえぞ!!」
その時、吹き飛ばされた地面から、ジンが血まみれの顔を上げて叫んだ。
「その神の動揺を逃すな! 『アマテラス』を使え!! それこそが、世界に唯一残された、真の『神殺しの刀』だ!!!」
ジンの命懸けの一喝が響く。
シンは迫り来るサマエルの狂気的な魔圧を前に、不敵に笑み、黄金の光を放ち始めた空間へと手を伸ばす――。
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