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89話 大地の咆哮 ガイル 

神殿の各所で繰り広げられていた死闘が次々と決着していくなか、その身に受ける戦波を静かに感じ取りながら、ガイルは四肢で大地を力強く踏みしめ、微動だにせず眼前の敵を見据えていた。


その姿は、美しくも獰猛な、幻獣界の頂点に君臨していた伝説の獣――キラーパンサー。


四駒の最後の一体である、神聖なる麒麟の姿を模した駒『σ(シグマ)』が、全身から始祖神の加護を受けた白銀の雷光をバチバチと放ち、周囲の空間を威圧するように歪めている。


「ライトも、ジンも、カイルたちも……見事な戦いぶりだ。ならば、最後は我が締め括らねば、元幻獣王としての面目が立たんな」


ガイルが低く、地響きのような声で呟く。その佇まいには、かつて幻獣界を統べ、全ての獣を従えていた『王』としての絶対的な威厳が満ち満ちていた。

大地の精霊が畏敬の念を抱くようにキラーパンサーの巨躯へと寄り添い、茶褐色の重厚な魔力をその鋭い毛並みへと宿らせる。


オォォォォォン!!!


シグマが短く吼えた瞬間、その巨躯が文字通り「光速」で動いた。白銀の雷を纏った突進。それは残像すら残さない神速の、一撃必殺の体当たりだった。


「――浅いな、始祖神の駒よ」


ガイルはシグマの速度に目を追うことすらしない。肉球を通じて足の裏から伝わる床の「微振動」だけで敵の軌道を完璧に察知し、ただ静かに前脚で地面を踏み抜いた。


ドゴォォォン!!!


シグマが激突する直前、神殿の床から強固な岩石で形成された巨大な『大地の壁』が凄まじい勢いで突き出す。


バリィィィィン!!!


シグマの纏う雷光が壁を激しく砕くが、ガイルはその瞬間にしなやかな跳躍で壁の影へと身を隠し、直撃を完全に回避。砕け散る岩石の隙間を縫うように、すでにシグマの死角へと回り込んでいた。王の戦いには、一抹の無駄も、焦りもない。


「いくら神速を誇ろうと、地べたを走る以上……この大地の前では児戯に等しい」


冷徹なまでの王の言葉と共に、ガイルの血脈が熱く、しかしどこまでも冷静に昂っていく。大地の精霊との同調が深まるにつれ、彼の内に眠る『波動』がさらなる変貌を遂げようとしていた。


ドクン、と心臓が大きく跳ねる。

ガイルの身体から立ち上る魔力のオーラが、ただの泥臭い土の魔力から、まるで大地そのものが怒り狂っているかのような、圧倒的なプレッシャーを放つ漆黒の波動へと膨れ上がっていく。

その波動の濃度は先ほどの特訓時すらも遥かに臨駕し、幻獣界を統べていた頃の『覇王の闘気』そのものへと昇華していた。


『申し子よ……いや、幻獣界の王よ。お前の野生が、大地の底に眠る真の力を呼び覚ましているぞ……!』

精霊の声がガイルの脳内に響き渡る。


「応よ……。我の歩む道こそが、大地そのものだ」


魔力と波動が限界突破したガイルの覇気に、シグマは危険を察知したのか、その角に全霊の雷光を集束させた。神殿の天井を突き破らんばかりの巨大な雷の槍が形成されていく。


だが、波動をさらに増したキラーパンサーの機動力は、もはや聖獣の速度を上回っていた。


「これで終わりだ、始祖の駒よ。王の力を前に、平伏せ」


ガイルが大地を蹴ると、その一歩だけで神殿の床がクレーターのように陥没した。一瞬でシグマの頭上へと、天を突くほど高く跳躍したガイルは、野生の波動のすべてを右の前脚へと集約させる。その鋭い爪と肉球は、まるで巨大な隕石のような質量と、王者の威光を放っていた。


「――『ガイア・グランド・ナックル』!!!」


ドガァァァァァァンッ!!!!


限界を超えた波動を纏ったガイルの渾身の烈爪が、シグマの脳面へと真っ向から炸裂した。

始祖神の強固な障壁ごと、聖獣の巨躯が神殿の床へと叩きつけられ、粉々に粉砕される。大地の咆哮のような大爆音と共に、最後の駒であるシグマは光の塵となって完全に消滅していった。


「……ふぅ。見事な幕引きだな」


ガイルが静かに着地し、自身の前脚を見つめる。

キラーパンサーとしての荒々しさと、かつて世界の一角を統べた王としての誇りと気高さが、今ここに完全に取り戻されていた。

四駒との死闘は、完全勝利で幕を閉じたのだった。


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