84話 陰陽極致(五魂神醒・双極斬)
――ガギィィィィン!!!
「ぐ、あぁぁぁぁッ!?」
シンの身体が修練場の地面を激しく転がり、岩壁に激突した。
手からこぼれ落ちそうになる二振りの聖剣を必死に握り直すが、全身の筋肉は悲鳴を上げ、呼吸は完全に乱れている。
「どうしたシン! 右と左のバランスが最悪だぞ! それでは我らの風と大地の圧に押し潰されるだけだ!」
風の精霊が鋭い風刃を放ち、大地の精霊が重力波で追撃する。
ガイルもまた、獣の鋭い眼光でシンを睨みつけていた。
「ハァ……ハァ……クソッ……!」
シンは歯を食いしばり、立ち上がった。
焦りがあった。
ジンは『真なる闇の刃』を掴み、ソフィアは『光の魔法』に目覚めた。ライトとカイルは殻を破り、ユイたち3人は完璧な合体魔法を完成させた。
なのに、自分だけが、未だに新しい二刀流の極意を掴めずにいる。
「シン、一度頭を冷やせ。その二刀、それぞれが強力すぎるがゆえに、同時に操るには肉体の限界を超えているぞ」
見かねたガイルが、静かに特訓を止めた。
シンは俯き、己の両手の剣を見つめた。
以前の特訓では、右の日輪に飛竜の波動を通し、左の月読に蒼氷の静寂と暗黒闘気を通す『正しき配置』を掴み、この技の入り口に立ったはずだった。
右手の『日輪』は、太陽の破壊力を暗黒闘気と混ぜ合わせることで「紫黒の炎」へと昇華させ、飛竜の剛力を宿した巨大な大剣へ。
左手の『月読』は、鳳凰の不死の炎が痛みを眠らせる極限の治癒へと至り、月の静寂を絶対的な凍気へと変えた、鳳凰の羽が折り重なる神聖な細剣へ。
かつて掴んだ基礎の、その遥か先にある究極の二刀。
だからこそ、今のシンは最大の壁にぶち当たっていた。
(前は、右、左と順番に力を通して合わせることができた。だけど、サマエルの虚無を撃ち破るためには、そんな発動のタイムラグは許されない。この『剛炎の大剣』と『静氷の細剣』という、重さも速度も属性も完全に真逆の5つの力を、一瞬の狂いもなく【同時】に、完璧な一つの連撃として解き放たなきゃいけないんだ……。だけど、同時に操ろうとした途端、右の剛力と左の神速が脳の中で喧嘩して、どうしてもシンクロが崩れちまう……!)
「悩んでるね、シン」
ぽんと肩を叩かれ、シンが顔を上げると、そこには黄金の光のオーラを穏やかに纏ったライトが立っていた。
「ライトさん……。僕、どうしてもアデル様の聖光をうまく制御できなくて。右の重さと左の速さを【同時】に繋ごうとすると、光のクッションが反発に耐えきれずに弾けちゃうんです。……月読が、僕の体の中で冷たく激しく波打っていて……」
「それはね、シン。君が月読の『本当の優しさ』をまだ恐れているからじゃないかい?」
ライトの言葉に、シンは息を呑んだ。
「月読はかつて、ユイの命を救った不死と再生の『紅蓮の炎』だった。それが今の蒼氷の細剣に変わったのは、ただ熱く燃えるだけの炎じゃ傷ついた者の痛みまでは消せないからだ。命を救い、傷を癒し、すべての痛みを優しく包み込みたいという君の強い祈り……。その極限の『治癒と優しさ』が、鳳凰の炎から余分な熱を削ぎ落とし、すべてを穏やかに鎮める『蒼氷の静寂』へと昇華させたんだ。月読の氷は、君の優しい祈りの結晶なんだよ」
「僕の……祈りの結晶……」
シンは左手の月読の細剣を見つめた。
美しく折り重なる鳳凰の羽。それは冷酷な氷ではなく、傷を包み込み、熱を引かせ、痛みを眠らせるための、究極に優しい「生命の凍気」。
「ジンたちに教わった基礎は間違っていない。ただ、君は右と左の力を『無理やり均一にして同時に振ろう』としている。アデル様の聖光はね、力を抑え込む鎖じゃない。どんなに異なる力も包み込み、生かす『架け橋』だ。日輪の紫黒炎も、優しさが行き着いた月読の蒼氷も、光の橋の上でそれぞれの個性を100%暴れさせてあげればいいんだよ」
影から腕を組んで現れたジンが、フッと鼻で笑った。
「そうだ。お前が俺から学んだ『暗黒闘気』、ガイルから学んだ『波動』。そいつを、右と左を均等にするために使うんじゃねえ。極限まで練り上げた闘気と波動で『肉体そのものの軸』をガチッと固定しろ。軸さえブレなきゃ、右で山を砕こうが、左で風を凍らせようが、テメェの体は引き裂かれやしねえよ。前に進め、シン!」
「日輪の紫黒炎は、敵を打ち破る力。月読の蒼氷は、誰も傷つけずに守るための優しさ……! 二つとも、僕の心そのものだ!!」
シンは大地に両脚を踏みしめ、深く深く息を吸い込んだ。
ジンの暗黒闘気、ガイルの野生の波動――そのすべてを肉体の中心へと一から練り直し、絶対にブレない鋼の「軸」を作り出す。
そして、胸から溢れるアデルの聖光を、大剣と細剣を優しく包み込む『架け橋』として空間に展開した。
右手の『日輪』。
飛竜の破壊力と暗黒闘気が混ざり合う、紫黒の炎を纏う『剛力の大剣』。
左手の『月読』。
極限の優しさの果てに、痛みを眠らせる蒼い凍気へと昇華した鳳凰の『蒼氷の細剣』。
「日輪よ荒ぶれ、月読よ静まれ! ――僕の二刀で、みんなの未来を切り拓く!!」
シンの咆哮とともに、修練場全体の空気が一変した。
ゴォォォォォォッ!!!
右手の巨大な日輪から、すべてを叩き潰すような圧倒的な『紫黒の炎』が噴き上がる。
同時に、左手の細美な月読から、空間を一瞬で凍てつかせる神聖な『月の蒼氷』が静かに、しかし神速の鋭さで溢れ出した。
教わった正しい配置のまま、極限まで進化した非対称の二刀。
重厚な大剣の破壊力と、神速の細剣の静寂。
対極に位置する二つの軌道が、絶対にブレないシンの肉体と、アデルの聖光という「架け橋」の上で、一瞬のタイムラグもなく完全に【同時】に調和を果たしていく。
「素晴らしい……! ついに、真逆の二刀を完全に同調させたか!」
風の精霊が歓喜の声を上げる。
「行くぞ、シン! 我らの合体技、受け止めてみせよ!」
大地の精霊と風の精霊が、海底神殿が揺れるほどの極大の砂嵐と岩石の濁流をシンに向けて放った。
「――っ、はあああああッ!!」
シンが地を蹴った。
右腕は大剣を荒々しく振り下ろし、左腕は細剣で光速の突きを放つ。
異なる二つのリズムが、美しい一つのダンスのように噛み合い、シンの新技が神殿の空間を二色に切り裂く。
「――『五魂神醒・双極斬』!!」
放たれたのは、大剣から放たれた紫黒の竜の炎と、細剣から放たれた蒼氷の鳳凰の凍気が、聖なる光の螺旋を伴って絡み合う、次元の違う超極大の二重同時斬撃。
精霊たちの放った合体攻撃を瞬時に凍てつかせ、同時に焼き尽くすという矛盾した一撃は、ただ敵の力だけを完全に無へと還して見せた。
「……やった……」
静寂が戻った修練場で、シンは自身の二刀を見つめた。
基礎から一歩ずつ進み、二刀の究極の進化と非対称さに悩み抜いたからこそ、シンは『日輪』と『月読』の真の力を完全に同時に引き出す、最強の主人公の刃を完成させたのだ。
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