83話 三位一体の灯火(ユイ、モカ、ココアのシンクロ)
「ハァァァァッ!! ――『プロミネンス・バースト』!!」
海底神殿の特訓場に、モカの元気な叫び声が響き渡った。
モカが突き出した両手から放たれたのは、かつて彼が一生懸命放っていた可愛らしい「プチ・ファイヤー」の面影など微塵もない、すべてを消し炭にするような凄まじい『業炎』の渦だった。火の精霊の加護を得た彼の火力は、大人顔負けの領域に達している。
「モカ、威力はバッチリ! 次は私の雷と合わせるよ! ――『ライトニング・ディスチャージ』!!」
ココアがキリッとした表情で叫び、両手を前に突き出す。
かつては仲間を後ろから支えるサポート魔法しか使えなかった彼女だが、今はその手のひらから、激しい音を立てて紫電が迸る。雷の精霊の力が、彼女に「敵を穿つ牙」を授けていた。
「うん、二人ともすごい威力! ――私も合わせるよ!」
ユイが二人の中央で、自身の両手を前に掲げた。
かつてはヒミコに貰った大切な魔道書を必死にめくり、そこに記された術式をなぞらなければ魔法を使えなかったユイ。しかし今の彼女に魔道書も、杖も必要ない。内なる魔力を直接手のひらへと収束させ、精霊の力と直接リンクして水を、氷を創り出していく。
「――『エーテル・ランタン』!!」
ユイの水の魔力が、モカの業炎とココアの雷を包み込み、巨大な三色の魔力の灯火――合体魔法を形作った。
ドォォォォォン!!!
しかし、放たれた灯火は、訓練用の標的に届く前に空中でお互いの魔力が反発し、不規則に弾けて霧散してしまった。
「あ、あれぇ……? また失敗しちゃった……」
モカが頭を掻きながら、がっくりと肩を落とす。
「もう! モカが焦って火の出力を上げすぎるからよ! 私の雷とズレちゃったじゃない!」
「ココアだって、ちょっとタイミング遅かっただろ!」
「遅くないわよ! ユイちゃんの水の膜が展開するのを待ってたんだから!」
「あはは……二人とも、ケンカしないで」
いつものように言い合う二人を、ユイが苦笑いしながら宥めた。
「威力は十分に上がっているわ。けれど、サマエルのような次元の違う敵を相手にするなら、発動までのラグ――『スピード』が致命的に足りない。そして、お互いの魔力が噛み合う『シンクロ率』をもっと高める必要があるわね」
特訓を見守っていたサーラが、水晶玉を優しく撫でながらアドバイスを送る。
「シンクロ率と、スピードアップ……」
ユイは自分の手のひらを見つめた。
魔道書を捨て、直接手から魔法を放てるようになった自分。それは、魔力を変換する効率が圧倒的に速くなったことを意味する。ならば、モカとココアの魔力を「待つ」のではなく、自分が二人の魔力の波長を瞬時に感じ取り、手の中で「誘導して合わせる」ことができれば――。
「モカ、ココア。もう一度やろう。今度は、私の呼吸に合わせて魔力を練り上げてみて」
ユイの真剣な瞳に、モカとココアも表情を引き締めた
「わかった! ユイに合わせる!」
「うん。ユイちゃん、いつでもいけるよ!」
3人は一列に並び、そっと瞳を閉じた。
聞こえてくるのは、深海の神殿に静かに響く水の音。そして、お互いの呼吸。
モカの胸の中にある、負けず嫌いで熱い、爆発的な火の波動。
ココアの胸の中にある、みんなを守りたいと願う、鋭くも優しい雷の波動。
ユイは、手から紡ぎ出す水の揺らぎを、まるで二人の鼓動を繋ぐ細い糸のように、そっと滑り込ませていく。
(もっと速く……お互いの魔力の『ゼロ地点』を感じ取るの……!)
ピタッ、と。
3人の魔力の波形が、完全に一本の美しい波へと重なった。
「――今だ!!」
ユイが目を開くと同時に、魔導書も杖も介さず、両手から極限まで圧縮された水のドームを前方に展開する。
「いくぞぉぉぉ! ――『業炎』!!」
「撃ち抜いて! ――『紫電』!!」
モカの放つ凄まじい業炎と、ココアの放つ鋭い雷撃が、ユイの展開した水のドームへと「同時に」吸い込まれた。
シュウウウウウッ!!!
反発するはずの火と雷、そして水が、ユイの手のひらの精密なコントロールによって一瞬の狂いもなく融合していく。
その間、わずか一秒足らず。
以前とは比べ物にならない圧倒的な発動速度――スピードアップを成し遂げた合体魔法が、神殿の空間を眩しく照らし出した。
「――『氷鏡の魔導灯・シンクロバースト』!!!」
3人が同時に放ったその魔法は、七色のプリズムのような美しい光の奔流となり、特訓場に設置された最硬度の障壁を一瞬で消し去り、背後の岩盤ごと蒸発させた。
ドガァァァァァァン!!!
「やったぁぁぁ! 今の、めちゃくちゃ速くて強かった!?」
モカが嬉しさのあまりピョンピョンと跳ね回る。
「うん……! 魔力の反発も全然なかったわ。ユイちゃん、すごいいいコントロールだった!」
ココアも興奮した様子でユイの手を握りしめた。
「ふふ、二人ともありがとう。魔道書を持たずに、手から直接二人の力を感じ取れたから、うまく繋げられたんだと思う」
ユイは自分の両手を見つめ、嬉しそうに微笑んだ。
本をめくっていたかつての少女はもういない。
仲間と心を合わせ、手から直接奇跡を紡ぎ出す、立派な魔導士としての強さが、ユイにはしっかりと宿っていた。
サマエルの虚無を撃ち破るための、三位一体の最強の灯火が、今ここに完成した。
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