82話 殻を破る刃(ライトの光、カイルの二重魔刃)
「――くっ、ああァァッ!!」
まばゆい黄金の光を放つ聖剣エクスカリバーを両手で構え、ライトは【光の精霊】へと果敢に切り込んでいた。
しかし、光の精霊は実体を持たないかのように滑らかに動き、ライトの鋭い一撃をことごとく最小限の動きで回避していく。
「どうした、勇者。それでは『聖剣を振らされている』に過ぎんぞ」
光の精霊の冷徹な一言とともに、放たれた光の波動がライトの胸元を直撃する。
「がはっ……!」
ライトは地面を激しく転がり、聖剣を杖代わりにしながらなんとか立ち上がった。
「お前は、聖剣エクスカリバーの絶対的な力に頼りすぎている。剣が放つ光の余波で敵を圧倒しているだけだ。それでは、サマエルのような真の虚無を前にしたとき、剣ごと光を喰い尽くされるぞ」
光の精霊の言葉が、ライトの胸に深く突き刺さる。
確かに自分は、世界最強の聖剣を手に入れたことで、どこか慢心していたのかもしれない。剣の出力に頼り、自分自身の肉体から紡ぎ出す『光の闘気』の練成を怠っていたのだ。
「己の魂から光を湧き上がらせろ。聖剣は、お前の光をただ通すだけの『導管』に過ぎない。お前自身が、光そのものとなるのだ!」
「僕自身が……光に……!」
ライトは目を閉じ、聖剣の輝きをあえて一度、完全に消した。
頼るべき絶対の刃を排し、己の奥底に眠る、アデルから受け継いだ純粋な闘気の源流へと意識を沈めていく。
一方、別の特訓スペースでは、カイルが汗だくになりながら剣を振るっていた。
対峙するのは、凄まじいプレッシャーを放つ光の精霊の分身。
「ハァッ! ――『ファイア・スラッシュ』!」
カイルの放つ炎の魔剣が、正確無比な軌道で分身の首筋を捉える。
だが、分身はその軌道を完全に読み切っていたかのように、最小の盾の防御でその一撃を受け流し、カウンターの風刃を放ってきた。
「くっ……!」
カイルは咄嗟に身を翻して風刃を避けたものの、その頬には一筋の血が伝う。
「カイルよ。お前の剣は美しい。教科書通りで、型としては満点だ」
その様子を見ていた指南役の精霊が、腕を組んでカイルに告げる。
「だが、真面目すぎるがゆえに、あまりにも予測がしやすすぎる。お前自身、あの戦いの後に言ったはずだ。『始祖の無効化には、今のままでは敵わない』と。そのことを誰よりも理解しているお前が、なぜまだ『正しいだけの剣』に固執しているのだ。それでは始祖の前で一歩も動けずに無力化されるぞ」
「始祖の、無効化……。そう、今の私たちがどれだけ綺麗に刃を振るおうと、あの絶対的な拒絶の前には無意味だ……」
カイルは自身の剣を握りしめ、歯を食いしばった。
始祖の持つ、あらゆる力を無に帰す絶対の拒絶。
「今のままでは敵わない」と自分自身が身をもって知ったからこそ、綺麗に整った騎士の剣を振るっているだけでは駄目なのだ。
始祖の予測を、思考を、その能力の展開すらも完全に狂わせる「不条理な一撃」が必要だ。
「予測され、無効化されるというなら……。絶対に予測できない、矛盾を突きつけるまで」
カイルが静かに集中を高める。
剣の右半面には、激しく燃え盛る「炎の魔導」。
そして左半面には、すべてを凍てつかせる「氷の魔導」。
「なっ……相反する属性を同時に一振りに宿すというのか!? 暴走すれば、お前の魔力回路ごと右腕が吹き飛ぶぞ!」
「常識に従っていては、始祖には勝てない! 炎と氷、二つの反発する魔力を剣の中で無理やり鬩ぎ合わせ、調和ではなく『超高密度の衝突』を起こす。これこそが、私の殻を破る、新しい剣だ!」
カイルの右腕が激しく震え、炎と氷が反発し合って凄まじいスパークが散る。
あまりの魔力の負荷に皮膚が裂けそうになるが、カイルは泥臭く、しかし執念深くその暴れ馬のような魔力を剣の上に繋ぎ止めた。
「おおおおおおっ!!! ――『炎氷二重魔刃』!!!」
光の精霊の分身が「防ぐべきは炎か氷か」と演算の矛盾に一瞬だけ硬直したその瞬間、カイルの剣は完全に敵の予測の裏をかき、相反する二つの螺旋となって分身を木端微塵に両断した。
「やった……。これが、始祖を欺く私の刃だ……!」
カイルの覚醒に応えるように、隣のエリアから、凄まじい地鳴りとともに圧倒的な「光の津波」が溢れ出した。
「おおぉぉぉぉぉぉッ!!!」
ライトの咆哮。
その手に握られた聖剣エクスカリバーは、先ほどのような「外からの輝き」ではない。ライト自身の体表から噴き出す、限界まで高められた『光の闘気』が、聖剣を黄金の炎のように包み込んでいた。
「これだ……これが、僕自身の光……! これなら、剣を喰い尽くされようと、俺自身が輝き続ける!」
ライトが鋭く踏み込み、一閃を放つ。
光の精霊がこれまでのように避けようとした瞬間、ライトの肉体そのものが光の速度でブレ、追撃の横薙ぎが精霊の直前で炸裂した。
ドォォォォォン!!!
「……素晴らしい。剣の力に溺れず、己を光の源流としたか。これぞ真の勇者の輝きだ」
光の精霊が、光の粒子となって退きながら、その成長を称賛した。
ライトとカイル。
一方は、頼るべき最強の武器を越えて「己自身の光」を掴み、
もう一方は、自身の予測されやすい殻を破って「相反する二重魔刃」という変幻自在の戦術を手に入れた。
「カイルさん、すごいじゃないですか。その剣、めちゃくちゃ格好いいですね。」
「ライトこそ……その光の闘気、以前とは密度がまるで違います。これなら、始祖の壁だって……!」
二人は互いの成長を確信し、力強く拳を交わした。
サマエルの深淵、そして始祖の無効化を切り裂くための、新しい光と混沌の刃が、ここに完成した。
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