81話 灯る優しさ(ソフィアの光と、兄妹の愛)
「うう、あいたたた……。またやっちゃった……」
海底神殿の一角に設けられた特訓場。
ソフィアは頭をさすりながら、お尻をついて地面にへたり込んでいた。
「もう、ソフィア。いくらやる気があるからって、魔力を練り上げる前に勢いよく杖を振り回したら、自分の足に引っかかって転ぶに決まってるじゃない」
サーラが呆れたようにため息をつき、おでこを押さえる。
隣ではヒミコが「ふふっ、本当にシンにそっくりね。あの兄にして、この妹あり、といったところかしら」と、扇子で口元を隠してクスクスと笑っていた。
そう、ソフィアは元気いっぱいで、何よりお兄ちゃん(シン)のことが大好きなのだが、時折、勝負どころで妙などじを踏んでしまうところまでシンとそっくりなのだ。
「だって、お兄ちゃんがカイルさんたちとあんなにボロボロになって頑張ってるんですもん! 私も早く、みんなを守れる賢者になりたくて……!」
ソフィアは赤くなったおでこを擦りながら、むくっと立ち上がった。
「焦る気持ちはわかるけれど、賢者というのはあらゆる魔導の真理に達した者が至る境界よ。いきなりすべての属性を操るのは無理があるわ」
サーラが優しく、ソフィアの肩に手を置く。
「ええ。だからまずは、あなたの内側に眠る『本質』から目覚めさせましょう。……ソフィア、あなたは気づいていないかもしれないけれど、あなたには勇者ライトと同じ、純粋な『光』の適性があるのよ」
ヒミコが杖の先で、ソフィアの胸元を優しく指し示した。
「私に……お兄ちゃんと同じ、光の力が……?」
最高神アデルの加護を受け、その血脈を引く兄妹。
シンが胸のアザから「接着剤」としての聖光を放つように、妹であるソフィアの魔力の根底にも、温かく、そして力強い『光の性質』が眠っていた。
「光の魔法はね、ソフィア。『誰かを照らしたい』という強い祈りによってその輝きを増すの。あなたのその『お兄ちゃんを助けたい』という純粋な気持ちこそが、何よりの触媒よ」
サーラの言葉に、ソフィアはこくりと頷いた。
これまでは後ろから回復魔法をかけるだけだった。だけど、サマエルと対峙した時、ボロボロになっていくライトをただ見ていることしかできなかった悔しさが、彼女の心を突き動かす。
(もう、お兄ちゃんが傷つくのを見ているだけなんて嫌だ。今度は私が、お兄ちゃんを助ける光になるんだ……!)
ソフィアが愛用の杖をしっかりと両手で握りしめ、そっと瞳を閉じる。
イメージするのは、暗闇の中で自分たちを温かく導いてくれる、太陽のような優しい光。
「――光よ、集まって……。みんなを、お兄ちゃんを、守る盾になって……!」
ソフィアの全身から、ぽつり、ぽつりと、蛍のような温かい光の粒子が溢れ出し始めた。
それは回復魔法の柔らかい光ではない。悪しきものを退け、強固な拒絶の壁を構築する、紛れもない『結界・攻撃魔導』としての光の魔力。
「いいわ、その調子よ! その光を、目の前の標的に集中させて!」
ヒミコの鋭い声に、ソフィアはカッと目を開いた。
目の前に置かれた頑丈な訓練用の石碑。そこへ向けて、練り上げた光の魔力を一気に解き放つ――!
「いっけぇぇぇぇ! ――『ホーリー・レイ』!!」
シュバァァァァァッ!!!
ソフィアの杖の先から、目も眩むような一直線の光線が撃ち放たれた。
その光線は訓練用の頑丈な石碑に激突し、爆発音と共にそれを真っ二つに叩き割った。
「やった……! できたぁ!」
まばゆい光の余韻の中、割れた石碑を見てソフィアは飛び上がって喜んだ。
ただ癒すだけではない。ライトのように、邪悪な力を直接打ち払うための「攻防一体の光の魔法」の第一歩を、彼女は見事にその手で掴み取ったのだ。
「素晴らしいわ、ソフィア。初めてでこれだけの威力の光を指向性を持って放てるなんて、さすがね」
「これなら、ただの支援術師から、戦場を支配する『賢者』へ至る日も、そう遠くはなさそうね」
サーラとヒミコが心からの拍手を送る。
「えへへ、ありがとうございます! これでお兄ちゃんにも威張れ――きゃあ!?」
調子に乗ってぴょんぴょん跳ねていたソフィアは、地面に転がっていた自分の魔導書に思いきり足を滑らせ、そのまま派手に後ろへ転倒した。
どてーーーんっ!!
「いったた……お尻打ったぁ……」
「……やっぱり、そこもお兄ちゃんそっくりね」
「ふふ、でもその泥臭さとひたむきさが、あの兄妹の最大の強さなのかもしれないわね」
赤くなったお尻をさすりながら「てへっ」と照れ臭そうに笑うソフィア。
その瞳には、お兄ちゃんを守るための新しい『光の盾と矛』が、確かに、そして温かく宿り始めていた。
最後までお読み下さいましてありがとうございます。感想書いて貰えれば嬉しいです。 良い評価付けて貰えると励みになります。お願いします。




