79話 それぞれの限界(海底神殿の大特訓!)
「時間がねぇ。あのサマエルって野郎がいつこの神殿を見つけ出すか分からん。シン、シゴいてやるから覚悟しろ!」
海底神殿の広大な修練場。
ガイルが喉を低く鳴らしながらシンを睨みつけた。その左右には、美しい羽衣をなびかせる【風の精霊】と、岩盤のような重圧を放つ【大地の精霊】が控えている。
「はい……! よろしくお願いします!」
シンは『日輪』と『月読』を構え、全身の感覚を研ぎ澄ます。
シンの課題は、実戦の激しい速度の中で「聖光」のクッションを維持し、五つの力を完全に二刀へ馴染ませること。
「行くわよ、シン! 私の風の速度に、その二刀の思考が追いつけるかしら!」
「我が大地の重撃、二本の刃で受け止めてみせよ!」
シュパァァァッ!!
風の精霊が放つ神速の風刃が、あらゆる角度からシンを襲う。シンは紙一重でそれを躱し、あるいは『日輪』で弾き返すが、そこへすかさずガイルが野生の闘気を纏った超高速の爪撃を叩き込み、大地の精霊が放つ重力波がシンの足元を泥のように重く縛り付ける。
「くっ……、うあぁぁぁっ!?」
速度と重さ、そして野生の直感。
それらが同時に襲いかかる超極限の環境の中で、シンは泥を吐きながらも、必死に胸のアザから聖光を引き出し、二振りの剣の「調和」のピッチを極限まで速めていった。
修練場の別の一画では、別の熱い火花が散っていた。
「光の精霊よ! 僕たちの剣では、あいつの『虚無』に届かなかった! だから、あなたの力を僕たちに貸してくれませんか! 剣に本物の光を宿す方法を教えてほしいんです!」
ライトがエクスカリバーを突き出し、黄金に輝く【光の精霊】へと真っ直ぐに特訓を申し出ていた。カイルもまた、真剣な瞳でそれに続く。
「……面白い人間たちですね。世界が消え去る恐怖を前にして、これほどに瞳を輝かせる者がいるとは。よいでしょう、我が『原始の光』、その身で耐えられるか試して差し上げます」
光の精霊が微笑むと、太陽の如き眩い熱線が二人を包み込んだ。
さらにその最深部、光すら届かない影の領域では――。
「……闇の精霊。あんたが『本物の闇』だっていうなら、俺のこの濁った暗黒闘気、どうすればもっと尖らせられるか、教えてもらおうか」
ジンが二振りの黒剣を静かに抜き、目の前の影に向かって冷たく言い放つ。
「クク……よかろう、暗黒闘気の剣士よ。貴様の底知れぬ渇望、我が漆黒の闇で満たしてやろう……」
【闇の精霊】が影を広げ、ジンを暗闇の奥深くへと引きずり込んでいく。男たちもまた、サマエルを今度こそ切り裂くための「牙」を研ぎ澄ましていた。
「モカ、そこはもっと炎を圧縮して! ココア、雷撃のテンポが少し遅れてるわ!」
「う、うん……! こう、ぎゅーっと集めればいいんだよね!」
「もう、モカはすぐ力んじゃうんだから! 私が周りを雷で固めるから、焦らないで!」
ユイの指示のもと、モカとココアが必死に汗を流していた。
モカは「僕だって、昨日より凄い火を出せるんだ!」と踏ん張り、しっかり者のココアがそれをサポートする。精霊の力を得た三人の『氷鏡の魔導灯』は、昨日とは比べ物にならないほどの爆発力を秘めつつあった。
そして――。
「サーラさん、ヒミコさん……! 私に、攻撃の魔法と、より高度な術式を教えてください!」
神殿の一角で、ソフィアが二人の大魔導士に向かって深く頭を下げていた。
「ソフィア……。支援術師としてのあなたの力は、すでに一級品よ。どうして今、急に……?」
サーラが不思議そうに尋ねる。
ソフィアは拳をぎゅっと握りしめ、顔を上げた。その瞳には、かつてないほどの強い決意の光が宿っていた。
「昨日、お兄ちゃんたちがボロボロになってやられそうになった時、私は後ろで見ていることしかできませんでした……。私は、お兄ちゃんたちを守りたいんです。ただ後ろから回復するだけじゃなくて、みんなが傷つく前に、私も一緒に戦って、敵を退けられる……そんな『賢者』になりたいんです!」
その強い誓いの言葉に、ヒミコはフッと妖艶に笑い、サーラも嬉しそうに目を細めた。
「いいわ、その意気よソフィア。支援の術式をベースに、相手の防御を打ち破る属性魔導、そして防御壁の反転術式……。一から百まで、徹底的に叩き込んであげる!」
「覚悟しなさいね、ソフィア。私の特訓は、あのジンのしごきよりも厳しいんだから」
「はいっ!!」
サマエルという絶対的な絶望を前に、誰も下を向いてなどいなかった。
海の底の神殿は、それぞれの決意と、限界を超えるための熱い魔力の咆哮に、絶え間なく揺れ続けていた――。
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