75話 勇者の鉄槌
「僕だって、あと一歩で倒せたんだからね! ほんとだよ!?」
ジンの家の朝食のテーブル。
モカが顔を真っ赤にしながら、スープの入ったお皿を前に、一生懸命に身振り手振りを交えて主張していた。昨日の火の精霊との戦い、ユイに守ってもらったことが嬉しくもあり、同時に男の子として少しだけ悔しかったのだ。
「もう、モカはすぐそうやって見栄を張るんだから!」
ココアが呆れたようにため息をつきながら、モカの前にコトッと追加のおかずのお皿を置いた。
お姉さん気質で面倒見のよい彼女は、そう言いながらも、モカがスープをこぼさないようにさりげなくお皿の位置を直してあげたり、汚れたモカの口元を甲斐甲斐しく布巾で拭いてあげる。
「み、見栄なんか張ってないやい! あとちょっと時間があれば、僕の火の魔法でドカンとやっつけてたんだ!」
「はいはい。だったら、次からは見栄を張る前に、しっかり私のアシストに合わせること。わかった?」
「うぅ……わかったよぉ……」
「あはは……二人とも、朝から元気だね」
そんな二人の微笑ましい掛け合いを見ながら、ユイがクスクスと笑う。ユイの胸元では、新しく契約した精霊の印が優しく瞬いていた。
「……なぁ、シン」
ジンがずずっと味噌汁をすすり、ふと箸を置いて、隣で静かにパンを噛み締めていたシンに視線を向けた。
「ユイたちがあそこまで化けたんだ。お前もその二刀流、そろそろ本気で次のステップに進みたいだろ」
「え……? はい。ユイたちの特訓を見ていて、僕も五つの力を繋ぎ止める『アデル様の聖光』の扱いに、ようやく自分なりの感覚が掴めてきたんです。でも、まだ実戦の速度の中でそれを維持できる自信がなくて……」
「だったら、ちょうどいい獲物がそこに転がってるじゃねえか」
ジンが親指でピッと指し示した先には、まだ半分寝ぼけた顔で肉を頬張っているライトと、爽やかにコーヒーを飲んでいるカイルがいた。
「せっかく神界から本物の『勇者』が遊びに来てんだ。シン、ライトたちに稽古をつけてもらえ。サタンを討ち取った本物の剣だ、お前の今の二刀を揉んでもらうには、これ以上ない相手だろ?」
「――ッ!!」
シンの目が、一気に覚醒したように見開かれた。
「いいねぇ、シン! そうこなくっちゃ!」
荒野に移動するや否や、ライトが愛剣『エクスカリバー』を抜き放ち、黄金の魔力を全身から立ち上らせた。その笑顔はいつもの陽気なものだが、放たれるプレッシャーは冗談抜きで一国の軍隊を退けられるほどに重い。
「シン。今回は手加減なしで行くよ。君が目指す二刀流がどれほどのものか、僕たちの肌で確かめさせてもらう」
カイルもまた、風と火の魔力を剣に宿し、シンの死角へと滑り込むように構える。
黄金の勇者と、至高の魔法剣士。かつて共にサタンを打倒した最強の二人が、シンの前に立ち塞がった。
「よろしくお願いします……! ――ハァァァッ!!」
シンが両手を開くと、右手に紫黒の炎を宿す『日輪』、左手に蒼氷の魔力湛える『月読』が握られた。
その中央、胸のアザから放たれるアデルの聖光を、自らの意志と魔力でコントロールし、二つの力の「接着剤」として絶妙なバランスで挟み込んでいく。
「――軽い! これなら、いける!」
シュパァァァッ!!
シンが地を蹴り、まずはカイルの懐へと飛び込んだ。
右手の『日輪』から放たれる飛竜の重低音のような一撃が、カイルの魔法剣と激突する。
キィィィィィン!!!
「重い……! でも、甘いよシン!」
カイルが風の魔力でシンの剣を受け流し、すぐさま体勢を崩したシンの喉元へ向けてカウンターの刺突を放つ。
以前のシンならここで防ぎきれずに下がっていた。しかし、今のシンの左手には、すでに冷徹な闇を湛えた『月読』が、暴走することなく完全にシンの意志の制御下で動き始めている。
「――『月読』、静寂をここに!」
キィィィン! と、月読の蒼氷の刃がカイルの突進を完璧に凍てつかせ、その動きを一瞬だけ止めた。
「なっ……動きを止められた!?」
「そこだ、ライト――!!」
動きの止まったカイルの背後から、黄金の光を纏ったライトが音速の踏み込みでシンの正面へと躍り出た。
エクスカリバーから放たれる、容赦のない光の斬撃『シャイニング・エッジ』がシンの脳天へと降り注ぐ。
「――っ、聖なる光よ、二つの刃を繋ぎ止めろ!!」
シンは、襲い来るライトの黄金の剣に対し、右手の日輪と左手の月読を交差させ、聖光のクッションで限界までお互いの反発を抑え込みながら、真っ向から受け止めた。
ドゴォォォォォォン!!!
荒野に、昨日以上の大爆発を伴う衝撃波が吹き荒れる。
シンは十数メートルも地面を削りながら後退したが、その二刀は――ライトの最大一撃を受けても、なおパチパチと神聖な5色の光のオーラを維持し続けていた。
「……へえ。僕の一撃を、二つの力で分散させて完全に受け流したか。シン、君の新しい二刀流……本当に、とんでもない領域に届きかけてるね」
ライトが、エクスカリバーを肩に担ぎ直し、最高に楽しそうにニヤリと笑った。
「まだまだ……です。でも、ライトさんたちのおかげで、技の『本物』の手応えが、今掴めました……!」
シンは息を荒くしながらも、その目はかつてないほど鋭く輝いていた。
勇者一行との極限の稽古が、シンの『五魂神醒・双極斬』を、ついに完成の向こう側へと押し上げようとしていた。
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