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74話 精霊の真意(託される火と雷の翼)

天に昇った『氷鏡の魔導灯(エーテル・ランタン)』が静かに弾け、戦場となった荒野全体を、光の粉雪のような優しい輝きが満たしていった。

その光に包まれた瞬間、火と雷の精霊の怒りに燃え盛っていた全身の魔力が、嘘のように穏やかに霧散していく。


「……あ、あぁ。何という、優しく、澄んだ気配だ……」


火の精霊が、自らの巨大な手のひらを見つめながら呆然と呟く。

光の粒子は、彼らの心へと直接語りかけていた。そこにあるのは、拉致や封印による苦痛などではない。一人の人間の少女を心から信頼し、彼女の清らかな魂の奥底で、共に新しい未来を歩むことを決めた『水の精霊』の、穏やかで幸福に満ちた『意志』そのものだった。


『――二人とも、怒りを収めて。ユイは私から力を奪ってなどいないわ。私は、彼女の優しさと、異なる力を包み込んで調和させる強さに惹かれ、自らの意志で隣にいるの』


ユイの胸の奥から、水の精霊の透き通るような思念が、火と雷の精霊の脳裏へと直接響き渡る。


『炎も、雷も、水も……かつてのようにただ反発し合うだけではなく、手を取り合えば、こんなにも美しい調和の光を灯すことができる。ユイたちは、それを証明してくれた。だから……信じてあげて』


「同胞……。そう、だったのか。お前は……自らの意志で、この娘を伴侶(パートナー)に選んだのだな……」


雷の精霊の瞳から、刺々しい紫電が完全に消え去り、穏やかな光へと変わる。

自分たちが水の精霊を心配するあまりに暴走し、その意思を無視して、彼女が選んだ大切な仲間たちを傷つけようとしていた――その事実に気づいた精霊たちは、静かにその巨躯を地上へと降ろした。


「……申し訳なかった、人の娘――いや、ユイ。我らの短慮、どうか許してほしい。同胞を愛するがゆえの過ちであったとはいえ、貴様たちの尊き絆を疑い、牙を剥いたこと……深く恥じる」


火の精霊が深く頭を下げると、雷の精霊もそれに倣った。


「ううん、顔を上げて。二人がどれだけ水の精霊のことを大切に想っているか、戦いの中でずっと伝わってきたから。……分かってくれて、本当にありがとう」


ユイは背中の水翼をそっと収め、疲れ果ててふらつきながらも、精霊たちに向かってどこまでも優しい微笑みを向けた。


それを見届けていた火の精霊は、隣に座り込んでいたモカに、雷の精霊はココアに、それぞれ視線を向けた。


「モカ、と言ったな。貴様の放った『業炎』……粗削りだが、その内には優しさと、ユイを支えんとする強い熱い意志が宿っていた。同胞である水の精霊がユイに力を貸すならば、我が火の力、貴様に託すにふさわしい」


「えっ……? ぼ、ぼくに……!?」

モカが驚きに目を丸くする。


「ココア。お前の『雷』は自由奔放だが、ユイの氷を突き破らんばかりの鋭い輝きがあった。どうだ? 我と手を取り合い、その雷撃をさらに高みへと進めてみないか?」


「わぁ……! 雷の精霊さん、ありがとうございます!」

ココアが小さな手をパタパタとさせて喜ぶ。


聖獣たちが二人の妖精に向けてそっと指先を差し出すと、モカの体には眩い深紅の火の紋章が、ココアの体には鮮やかな紫の雷の紋章が、それぞれ刻み込まれていった。

それは、神界の【火の精霊】と【雷の精霊】から直接、最高の加護(契約)を授かった証だった。


「これで、お前たち三人の『エーテル・ランタン』は、真の意味で精霊の調和を得た大魔法となるだろう。……ユイ、同胞のことを、これからもよろしく頼む」


「はい! 絶対に、大切にします!」


ユイが力強く頷くと、二大精霊は満足そうに微笑み、再び赤と紫の光の粒子となって、夜空の彼方へと静かに還っていった。


「やったね、ユイちゃん! モカちゃん、ココアちゃん!」


ソフィアがたまらず駆け寄り、三人をぎゅっと抱きしめる。


「ふぅ……一時はどうなることかと思ったけど、最高の結末になったじゃない。お見事よ、ユイ」

ヒミコも杖を収め、誇らしげに口元を緩めた。


「ユイ、凄かったよ! 本当に、ただ倒すだけじゃない、ユイらしい最高の勝ち方だ!」


シンが駆け寄り、ユイの健闘を心から称える。

ライトたち勇者一行も、「まさか精霊の加護をその場で得ちゃうなんてな!」「これでユイたちも、完全に神域の強さの仲間入りだぜ!」と、自分のことのように大はしゃぎで肩を叩き合った。


「……焦らず、少しずつ、だね、シン」


ユイはシンの顔を見つめ、今日一番の、最高に輝く笑顔を咲かせた。


シンが目指す二刀の極意『五魂神醒・双極斬』。

そして、ユイたちが完全に自らのものにし、さらに精霊の加護で強化された三位一体の合体魔法『氷鏡の魔導灯(エーテル・ランタン)』。

お互いに一歩ずつ強くなり、寄り添い合う若き英雄たちの未来を、幻獣界の蛍の光が、今度こそ静かに、そしてどこまでも優しく照らし出していた。


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