71話 賑やかな来訪者
――バァンッ!
「おーい、シン! ユイ! 遊びに来たぞーーっ!」
ジンの家のリビングの扉が勢いよく開き、勇者ライトが、太陽のような笑顔で飛び込んできた。その後ろから、やれやれと肩をすくめるカイルと、クスクスと楽しそうに笑うサーラが続く。
「ライトさん! カイルさんにサーラさんも!」
シンが驚いて立ち上がると、ライトは突進するような勢いでシンの肩を組んだ。
「久しぶりだな、シン! 神界の復興もちょっと一区切りついたし、ソフィアを迎えに行くっていう建前……じゃなくて、最高の口実ができたから、速攻で魔獣界の残党を片付けて飛んできた!」
「ふふ、お帰り、みんな! 本当に早かったね」
ソフィアが嬉しそうにパタパタと駆け寄り、ユイも「みんな、久しぶり!」と満面の笑みで三人を出迎える。
ジンは「おいおい、勝手に上がり込みやがって。……まあ、お前らが来ると一気にやかましくなって退屈しねえがな」と、口元を緩めながら大皿の料理をさらに追加するために厨房へと引っ込んでいった。
サタンとの死闘を乗り越えた仲間たちが、再び一つのリビングに集う。
その温かくて賑やかな空気は、連日の地獄の特訓で張り詰めていたシンとユイの心を、心の底から解きほぐしていった。
「へぇ! ユイちゃんとモカ、ココアちゃんが、そんな凄い合体魔法を……!」
ジンが腕によりをかけて作ったご馳走を囲みながら、サーラが感心したように目を丸くした。
「うん! ソフィアちゃんのアドバイスのおかげで、昨日やっと『いい形』になってね。幻獣界の蛍の中で、名前も決めたんだ。――『氷鏡の魔導灯』って言うの」
ユイが少し照れくさそうに笑うと、モカとココアも「わたしたちの炎と雷がね、ユイの氷の中でぐるぐる回るんだよ!」「凄くキラキラしてて綺麗なんだからぁ!」と、身振り手振りを交えて大はしゃぎで自慢する。
「『エーテル・ランタン』……か。いい名前だ。ユイ、本当にお前は強くなったな」
カイルが優しく微笑み、ユイの成長を心から称える。
ライトも、隣に座るシンの肩を小突きながらニヤリと笑った。
「おいおい、シン! ユイちゃんたちがそこまで進化してるんだ、お前もぼさっとしてられないぞ?」
「あはは、分かってるよ。僕もジンさんにヒントをもらって、二刀流で新しい技に挑戦してるところなんだ。まだまだ一歩目を踏み出したばかりだけどね」
シンが右手の『日輪』と左手の『月読』を意識するように自身の両手を見つめると、ライトはその鋭い眼光でシンの変化を察知し、「へえ……以前よりさらに力のバランスが洗練されてる。手合わせするのが楽しみだな」と闘志をのぞかせた。
笑顔と笑い声が絶えない、最高の夜。
しかし、そんな温かいお祝いの席に、突如として『異変』が訪れた。
ピキィィィン……ッ!!!
突然、ジンの家の防壁結界が、外側からの凄まじい「魔力の共振」によって甲高い悲鳴をあげた。
「……ッ!? この魔力は……!」
ヒミコが鋭い視線を窓の外へと向け、ジンもまた厨房から一瞬でリビングへと戻り、腰の二振りの黒剣に手をかけた。ガイルが喉を低く鳴らして唸り声を上げる。
空気が、一瞬にして異常な「熱気」と「電撃」に支配されていく。
それは、魔獣や闇の軍勢の禍々しい気配ではない。どこまでも純粋で、それゆえに容赦のない、圧倒的な『大自然の怒り』。
「神界の……火の精霊と、雷の精霊……!? なんで、こんな辺境に……!」
サーラが慌てて懐から取り出した水晶玉が、赤と紫の異常な光を放ってひび割れていく。
窓の外を見ると、暗い夜空が、まるでお昼時のように真っ赤な炎と、激しい紫の稲妻によって二色に引き裂かれていた。
その光の渦の中心に浮かび上がるのは、人智を超えた威厳を放つ、二つの巨大な精霊の影。
「――水の精霊よ……! 我らの同胞よ、どこへ消えた……!!」
「――水が失われし地より、冷たき魔力を感知したぞ……! 人の娘よ、水の精霊をどこへ隠した……! 我らに返さねば、この地を全て焼き尽くし、消し去ってくれる……!!」
火と雷の精霊の怒りの咆哮が、地響きとなってジンの家を激しく揺らす。
その矛先は、真っ直ぐに――ユイへと向けられていた。
「水の精霊が、いなくなった……? 違う、そんなの違うよ……っ!」
ユイは怯むことなく、自らの胸に手を当てて夜空の精霊たちを見上げる。
しかし、怒り狂う大自然の化身たちに、その声が届く様子はなかった。
ユイたち女性・聖獣チームにとって最大の『試練』が幕を開けようとしていた――。
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