70話 魔獣界の新たな王
「――というわけなんじゃよ。魔獣界で新たな動きがあり、どうやら『新しい王』を名乗る者が現れて、魔獣たちを統率し始めているという情報が入っての」
神界の神聖な会議室。
頭を抱える最高神アデルを前に、黄金の勇者ライトは、愛剣『エクスカリバー』を肩に担ぎながら、あくび混じりにケラケラと笑った。
「え〜? 新しい王って言っても、どうせ消滅したサタンの下っ端の残党でしょ? アデル様、ほんとに大丈夫〜? 警戒しすぎだって」
「ライト、少しは緊張感を持ちなさい。……と言いたいところだけど、私も同意見ね。サタンのあの圧倒的な闇の力のあとに、いまさら大人しく隠れていられなかった残党が出てきたところで、知れているわ」
賢者サーラが、ふぅとため息をつきながら隣で水晶玉を片付ける。
魔法剣士カイルも、腰の剣に手を当てながら苦笑いした。
「まあ、放っておいてまた変な宗教でも作られたら面倒だしな。さっさと行って、その『新王』とやらを小突いて大人しくさせてくるよ」
「おお、行ってくれるか! 頼んだぞ、勇者一行よ!」
アデルがホッとした表情を浮かべたその時、ライトが何かを思い出したようにポンと手を叩いた。
「あ、そういえばさ、ソフィアって今、有給休暇(アデル公認)をもらってシンのところに遊びに行ってるんだよな?」
「ええ、そのはずよ。そろそろジンさんの家に着いている頃かしらね」
サーラの言葉に、ライトの目がらんらんと輝き出す。
「よし決まった! 魔獣界でサタンの残党をチャチャッと片付けたら、そのままの足でシンのところへ行くぞ! ソフィアを迎えに行くって言えば、ジンさんのところへ顔を出す良い口実になるしな!」
「はは、お前らしいなライト。よし、そうと決まれば急いで片付けるか!」
シンの顔を見に行くという最大のモチベーションを得たライトたちは、意気揚々と魔獣界への転移陣へと飛び込んでいった。
不気味な赤黒い雲が立ち込める、混沌の魔獣界。
その中心にある荒廃した玉座に、一匹の巨大な魔獣がふんぞり返っていた。かつてサタンの軍勢で中堅幹部を務めていた、自称・新魔王『ゾルゲ』である。
「ヒャーッハッハ! サタン様が消え去った今、この俺様こそが魔獣界の頂点! そして、油断してやってきた神の眷属どもを皆殺しにし、俺様が新たなる世界の支配者となるのだ!」
ゾルゲが咆哮すると、周囲に集まった下級魔獣たちが一斉に雄叫びをあげる。
そこに、転移の光と共に、ライト、カイル、サーラの3人が、まるで行楽地にでも来たかのような軽い足取りで姿を現した。
「おっ、あれが新しい王様? 確かにサタンの足元にも及ばないオーラだね」
「そうね。魔力の質がスカスカだわ。あんなのを新しい王なんて呼んだら、サタンが草葉の陰で泣くんじゃないかしら」
「おいおい、相手も一応やる気満々だ。失礼だぞ、二人とも」
カイルが苦笑しながらも、すでにその手には魔力を帯びた剣が握られている。
「ぐ、愚かな人間どもめ! 俺様をサタン様の下っ端と侮ったこと、あの世で後悔させてくれるわ! 喰らえ、我が暗黒魔導――」
「はいはい、お喋りはそこまで。――行くぞカイル、サーラ!」
「おう!」
「一瞬で終わらせるわよ」
ゾルゲが魔力を練り上げるよりも早く、ライトが神速の踏み込みで距離を詰める。
「なっ、速――」
「『シャイニング・スラッシュ』!」
黄金の閃光が一閃。
ゾルゲの自慢の硬い皮膚が、豆腐のように容易く切り裂かれる。
「ギャァァァッ!? し、しかし、これしきの傷、我が超再生能力で――」
「再生させる暇なんて与えると思うか? 『プロミネンス・バースト』!」
カイルが剣を地面に突き立てると、ゾルゲの足元から巨大な火柱が噴き出した。超再生の源となる魔力部位を、完璧な精密さで焼き払う。
「あ、熱つぅぅぅ! お、おのれ、ならば我が軍勢よ、一斉に襲いかか――」
「無駄よ。――『アース・グラビティ』」
サーラが杖を軽く一振りすると、周囲の魔獣たちが、凄まじい重圧によって地面に這いつくばり、ピクリとも動けなくなった。
「う、嘘だろ……!? 俺様は……これから魔王になって、世界を……」
ボロボロになり、涙目で震えるゾルゲの目の前に、ライトが黄金のエクスカリバーを突きつける。その顔には、最高に爽やかで、同時に最高に容赦のない笑顔が浮かんでいた。
「悪いね。俺たち、これから親友のところに遊びに行く予定があって急いでるんだ。大人しく魔獣界の隅っこで良い子にしてるか、ここで俺たちに消されるか、どっちがいい?」
「いい子にしますぅぅぅ!!! ごめんなさいぃぃぃ!!!」
魔獣界の新しい「王」は、玉座から転げ落ちて、地面に激しく頭を擦り付けた。
こうして、魔獣界の新たなる危機(自称)は、ものの数分で完全にお笑い草となって鎮圧されたのだった。
「よし、片付いたな! じゃあサーラ、ジンの家に向けて転移魔法を頼む!」
「はいはい、本当に人使いが荒いんだから。……ふふ、でも、久しぶりにシンやユイの顔が見られるのは楽しみね」
「ああ。あいつら、どんな修行をしてるか楽しみだぜ!」
サタン亡き後の世界で、勇者一行の実力はもはや次元が違うレベルに達していた。
ライトたちは晴れやかな笑顔で、愛する仲間たちが待つ修行の地へと旅立つのだった。
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