69話 神秘の夜へ
「……わぁ……! すごい、本当に星屑が地面から湧き上がっているみたいです……!」
夜の帳が下りた幻獣界の深い森。
ソフィアが両手を胸の前で合わせ、少女のように瞳を輝かせて吐息を漏らした。
特訓の大きな一歩を踏み出し、すっかり緊張の解けたユイたちは、ソフィアの「幻獣界の蛍が見てみたい」という可愛い願いを叶えるため、ジンの家から少し足を伸ばしてこの神秘的な森へとやってきていた。
頭上を覆う巨木の葉の隙間から、満天の星空が覗いている。
そして周囲の暗闇を優しく照らしているのは、青や緑、そして淡い金色に瞬きながら、ゆっくりと宙を舞う無数の『幻獣界の蛍』の光だった。
その光は、まるで意思を持っているかのように、ユイたちの周りを優しく包み込むように飛び交っている。
「本当に綺麗……。人間界の蛍よりも、ずっと光が柔らかくて温かいね」
背中にうっすらと水の翼の光を滲ませたユイが、手のひらをそっと差し出す。一匹の青い蛍が、その指先にそっと止まり、優しく明滅した。
「でしょでしょ〜! 幻獣界の蛍はね、綺麗な魔力に集まる習性があるんだよ!」
「ユイの精霊の魔力が心地いいんだねぇ。モカたちのもとに寄ってくる蛍は、ちょっと熱そうだけどぉ」
モカが自慢げに胸を張り、ココアがクスクスと笑う。実際、火の魔力を持つモカの周りには赤みを帯びた蛍が、雷の魔力を持つココアの周りにはパチパチと瞬く紫の蛍が集まっており、まるで小さな光のドレスを着ているようだった。
蛍たちの光が織り成す、赤、紫、そして蒼の淡いグラデーション。
その美しい光景を見つめていたユイは、ふと、今日みんなで掴み取った『合体魔法』の光の球体を思い出していた。
「……ねぇ、モカ、ココア。そして、ソフィアちゃん。今日みんなで成功させた、あの魔法の名前なんだけど……」
ユイが切り出すと、切り株に腰掛けていたソフィアが「あ、気になる!」と身を乗り出した。
「モカの激しい炎と、ココアの鋭い雷。それを私の氷の鏡が包んで、中でぐるぐると循環して、一つの綺麗な光になっていくあの魔法……。何か、ぴったりの名前はないかな?」
「うーん、僕の炎とココアの雷だから、爆発的な名前がいいな!」
「でも、ユイの綺麗な氷で包まれてるから、お星様みたいにキラキラした響きがいいよぉ」
聖獣コンビが頭を突き合わせて悩んでいると、ふわりと、ユイの指先から旅立った青い蛍が、ソフィアの持つランタンの周りへと舞い上がった。
蛍の淡い光が、周囲の闇をそっと押し広げていく。
それを見たソフィアが、おっとりと、けれどどこか確信に満ちた声で呟いた。
「氷の中に閉じ込められた、決して消えない炎と雷の輝き……。まるで、夜の闇を優しく照らす『ランタン』のようだね。ユイちゃんたちの絆が、暗闇を照らす温かい灯火になりますように、って……」
「ランタン……」
ユイはその言葉を口の中で繰り返した。
水の精霊の蒼氷。その鏡の内側で、炎と雷が混ざり合い、永遠に輝き続ける光。
それはまさに、暗い夜道を歩む自分たちを、そして隣を走るシンを照らし出す、美しくも力強い『ランタン』そのものだった。
「……決めた。その名前、すごく素敵。モカ、ココア、いいかな?」
「うん! すっごく可愛い!」
「私たちの魔法にぴったりだよぉ、ユイ!」
ユイは立ち上がり、幻獣界の夜空を見上げて微笑んだ。
「私たちの三位一体の合体魔法――名前は、『氷鏡の魔導灯』。いつか、シンやみんなの道を照らす光になりますように」
その言葉に応えるように、周囲の蛍たちが一斉に光を強く放ち、夜空へと舞い上がっていく。
まるで、新しい奇跡の魔法の誕生を、世界が祝福しているかのように。
ソフィアとの束の間の休日は、ユイたちの心に、決して消えない温かい光の絆を刻み込んでくれたのだった。
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