68話 聖女の休日(氷の鏡と三位一体の目覚め)
「ユイちゃん、モカちゃん、ココアちゃん! やっと会いに来れました〜っ!」
ジンの家の玄関を開けて飛び込んできたのは、神界の復興を手伝っていたはずのソフィアだった。いつも通り少しおっとりとした、けれど見ているだけで周囲を浄化するような笑顔に、連日の猛特訓で限界を迎えていたユイたちの顔が一気に綻ぶ。
「ソフィアちゃん! 久しぶり! 神界の復興は少し落ち着いたの?」
ユイが嬉しそうに駆け寄ると、ソフィアは「はい! アデル様から『たまには有給休暇を取りなさい』って特上のお菓子を預かってきたの!」と、神界特製の包みを掲げてみせた。
この日ばかりは、ヒミコも「よし、今日の魔法特訓は全面休みね」と宣言。リビングでみんなでアデル特製のお菓子を囲む、温かくて賑やかなお茶会が始まった。
「へぇ〜! ユイちゃんたちは、モカちゃんたちの炎と雷を氷で包む合体魔法を練習しているの。凄い……!」
ソフィアは、お互いの手のひらを見せ合いながら特訓の悩みを話すユイの姿を、慈愛の瞳で見つめていた。
「でもね、ソフィアちゃん。どうしても最後、モカの『業炎』とココアの『雷』を私の氷で閉じ込めようとすると、内側からの反発と圧力に耐えきれなくて、ドームが粉々に霧散しちゃうの……」
ユイの悩みを聞いたソフィアは、人差し指を顎に当てて「うーん」としばらく首を傾げていたが、やがてポンと手を叩いた。
「あの、専門的な攻撃魔法のことは分からないけど……支援魔術の『結界』の視点から見てもいい?」
ソフィアは優しく微笑み、ユイの手元をそっと包み込んだ。
「ユイちゃん、炎と雷を氷で『力づくで閉じ込めよう』って無理に壁を厚くしてない? ぶつかる衝撃を全部氷の壁で受け止めるから壊れちゃうの。そうじゃなくて、氷の内側に、熱と衝撃を優しく受け流す『鏡の術式』を薄く張ってみるのはどう? 力を閉じ込めるんじゃなくて、内側をツルツルの鏡にして、炎と雷のエネルギーをドームの中で『ぐるぐる循環させる』イメージかな」
「炎と雷を、内側で循環させる……鏡の術式……!」
ソフィアのその何気ない言葉は、ユイの脳裏の霧を完璧に晴らす、一筋の雷光だった。
「ヒミコ先生! モカ、ココア! ちょっとだけ、もう一回だけ試させてください!」
ソフィアのアドバイスに居ても立ってもいられなくなったユイたちは、お休みのはずの荒野へと飛び出していった。それを見守るソフィアと、どこか面白そうに腕を組むヒミコ。
「いくよ、ココア! 今度こそ成功させよう!」
「うん、モカ! びりびり、ドカン、だよ!」
モカの両手から立ち上るのは、周囲の空気を歪ませるほどの真っ赤な『業炎魔法』の火柱。
同時にココアが小さな手を天に掲げると、バチバチと紫電を散らす激しい『雷の魔法』が虚空を走る。
二つの魔法が交差しようとした瞬間、凄まじい反発による衝撃波が生まれそうになる――。
「させない……っ! 水の精霊よ、氷の壁に『光の鏡』を写し出せ! ――ハァァァッ!!」
ユイが二人の間に割って入るように両手を突き出す。
背中の水翼から放たれた圧倒的な蒼氷の魔力が、二人の炎と雷を包み込んでいく。そして、その氷の内側には、ソフィアのヒント通り、エネルギーを反射する薄い鏡の術式が綺麗に展開された。
キィィィィィン……ッ!!!
「わあぁぁ!? ドームが壊れない! 炎と雷が中でまわってるよぉ!」
「術式安定……! 氷の内側で、二人の力が完璧に溶け合っていく……!」
炎の赤、雷の紫、そして氷の蒼。
三つの色がユイの氷の鏡の中で反発することなく綺麗に円を描いて循環し、凄まじいエネルギーを秘めたまま、奇跡的なバランスで球体となって固定された。
「……できた……! これが、私たちの本当の合体魔法……!」
ユイがそっと手を引くと、三色の球体は荒野の空へと昇り、夜空を彩る美しいオーロラのように静かに霧散していった。
遠くで見守っていたヒミコが、ふっと満足そうに微笑む。
「ふん、お節介な娘ね。でも……これでようやく、私の『アルテマ』に並ぶ新魔法のベースが完成したわ。いい形になったじゃない、ユイ」
夕暮れ時。
リビングに戻ってきたユイたちは、昼間よりもずっと晴れやかな顔をしていた。
ソフィアのアドバイスによって、三位一体の合体魔法はついに「いい形」へと完全に昇華されたのだ。
「ふふ、お役に立てて良かった! 旅に出て、色んな経験をしてきて本当に良かった……!」
嬉そうにアデルのお菓子を頬張るソフィアを囲み、ユイは、大切な仲間との絆の温かさを改めて噛み締めながら、次なるステップへの確かな手応えを感じていた。
最後までお読み下さいましてありがとうございます。感想書いて貰えれば嬉しいです。 良い評価付けて貰えると励みになります。お願いします。




