6話 修行〜その3
陰陽合一ノ神殺し~二刀の聖剣が一本の絆へと変わるとき~
――ギィィィィンッ!!!
「甘い! 右の手元がおろそかになってるぞ! 飛竜の速さが死んでやがる!」
「ぐあぁぁっ……!」
魔界の荒野に、激しい金属音とシンの悲鳴が打ち打ち鳴らされる。
特訓開始から数週間。ジンの打ち込んだ暗黒闘気によって、シンは全身に薄い漆黒の衣を纏うことには成功していた。
だが、本当の地獄はそこからだった。
「いいか小僧! お前の右手には飛竜と太陽の『赤蓮(剛力)』、左手には鳳凰と月の『氷蒼(静寂)』が宿っている! 右手で剛力をもって叩き潰し、左手で静けさを保ち隙を突く……そのためには、右半身と左半身でまったく別の呼吸(魔力の波)を刻むんだよ!」
「剛と、静……別々の呼吸……っ!」
シンは歯を食いしばり、右手だけで『日輪』、左手だけで『月読』を具現化させようと意識を分断する。
しかし、右手の激しい炎の剛力に意識を引っ張られれば左手の繊細な氷蒼の刃が散ってしまい、左手の静けさに集中すれば右手の具現化が解けて霧散してしまう。頭が割れるような激痛と猛烈な目まいに、シンの視界がぐらぐらと歪んだ。
「くそっ……右は破壊、左は静寂……脳みそを二つに分けるみたいだ……っ!」
「へこたれてんじゃねぇ! 呼吸を分断しながら、全身の暗黒闘気も維持するんだ! 一歩間違えれば、自分自身の魔力の不協和音で体が内側から破裂するぞ!!」
ジンが無慈悲に繰り出す黒鉄の木刀が、容赦なくシンの体を撃ち抜く。
激痛と疲労で膝が折れそうになりながらも、シンは泥を舐め、血を吐きながら必死に二本の刃にしがみついた。
◆ 魔導書を捨てるとき
一方、隠れ家の庭先では、ユイが汗だくになりながら膝をついていた。
「はぁ……はぁ……っ! 『慈しみ深き……聖なる波よ……敵を退ける、光の壁となれ……っ!』」
ユイの目の前に、淡い桃色の小さな光の膜が広がる。
しかし、ヒミコが指先から放った小さな魔力弾が触れた瞬間、パリンッとあっけなく砕け散ってしまった。
「遅いわ、ユイ。本を見ながら呪文を詠唱している間に、実戦ならシンも貴女も命を落としているわよ」
ヒミコは冷徹に言い放つと、ユイが大事そうに抱えていた古びた魔導書を、ひょいと取り上げた。
「あっ……ヒミコさん!?」
「今日から魔導書は没収。呪文を口で唱えるのも禁止よ」
「えっ……!? だけど、本がないと私は魔法の回路が……」
「魔法の回路は、もう貴女の頭と体に刻まれているわ」
ヒミコはそう言うと、妖しく目を細めた。
「本に頼るから意識が遅れるの。呪文(言葉)じゃなく、『イメージ』で出しなさい。自分自身がシンの盾となり、傷を癒す温かい光そのものになるイメージを……一瞬で引き出すのよ!」
「呪文じゃなく……イメージで……」
ユイは自分の胸に手を当てた。魔導書の文字を追うのをやめ、じっと体内の「熱」を感じ取る。
いつも傷ついて帰ってくるシンの背中。あの子を絶対に死なせないという、言葉にならない強い想い。
「『守れ……ッ!!』」
ユイが叫ぶと同時に、両手から詠唱なしで、今までで最も密度の濃い桃色の結界がパッと瞬時に展開された。
ヒミコが飛ばした魔力弾が結界に衝突し、今度は砕けることなく、キィンと心地よい音を立てて弾き返されたのだった。
◆ 芽生え始めた希望
「あら……上出来じゃない」
ヒミコが驚きとともに笑みを深める。
ユイは自分の両手を見つめ、初めて自分の意志だけで魔法を形にできた実感を噛み締めていた。
「できた……! 本がなくても……出せた……!」
そして、荒野の方からは、相変わらず激しい爆発音が響いていた。
ジンの一撃を受け止めようと、必死に右手で赤蓮の刃を太く輝かせ、左手で氷蒼の柄を静かに握り直すシンの姿。
(もう少しだ……! 右で太陽の剛力を燃やし、左で月の静寂を研ぎ澄ます……! ジンの暗黒闘気と、俺の二刀の呼吸が……繋がり始めてる……!)
互いにボロボロになりながらも、それぞれの場所で二人は着実に「本物の力」を手に入れようとしていた。
最後までお読み下さいましてありがとうございます。感想書いて貰えれば嬉しいです。




