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63話 二つの猛特訓

新章スタートです。よろしくお願いします

――ガァァァァァッ!!!


「うわっとっと!? ちょ、ガイルさん、いくら何でも速すぎ……グハッ!?」


のどかな鳥のさえずりが響くジンの家の裏庭に、シンの情けない悲鳴が木霊した。

世界を救ったはずの『神殺し』の少年は今、地面を転がり、泥だらけになって喘いでいる。


「オラオラ! 世界を救った大英雄が聞いて呆れるぜ、シン! 動きが鈍すぎる!」


キラーパンサーのガイルが、獣特有の低重心から繰り出される神速のフットワークで、シンの死角から容赦なく牙と爪を剥いて突進してくる。

サタンとの決戦を終えて数日。シンを待っていたのは、涙の感動に包まれた生活……ではなく、心身を徹底的に叩き直すための地獄の猛特訓だった。


「よそ見してんじゃねえぞ、シン。――ほら、次だ!」


「ひぃっ!?」


間髪入れず、上空から降ってきたのは師匠ジンの鋭い木刀の一撃。

シンは反射的に二振りの剣――ではなく、一本の美しい日本刀『アマテラス』を抜刀してそれを受け止めるが、ジンの二振りの木刀から放たれる『神速の双剣術』の圧倒的な手数と、ガイルの野生のコンビネーションの前に、完全に防戦一方に追い込まれていた。


「刀を『陰陽合一』させたはいいが、お前はその強大すぎる神威の力にまだ振り回されてる。体幹がブレてんだよ! ガイルのスピードに追い付けねえのも、目と足じゃなく『力』で解決しようとしてるからだ!」


ジンがニヤリと不敵に笑い、さらに木刀の風圧を上げる。


「はい、ジンさん……! だけど、二人がかりはちょっと――!」


シンは泥を拭い、漆黒の刀身を構え直す。強大な力を手に入れたからこそ、イチから心を鍛え直す。ジンとガイルの愛の鞭(サタンの闇より圧倒的に痛い物理攻撃)を全身に浴びながら、シンの瞳には再び熱い闘志の火が灯っていた。


――ドゴォォォォォン!!!


ところ変わって、同じくジンの敷地内にある開けた荒野。

そこでは、大地を大きく揺るがす凄まじい魔力の爆発音が響き渡っていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……っ! ――『氷連・三連陣』!!」


背中に美しい水光の翼を羽ばたかせたユイが、精霊の氷剣を虚空に生み出し、目にも留まらぬ速さで前方の魔力標的へと射出する。

しかし、その十数本の氷剣は、目標に届く手前で「パチン」とガラスが割れるような音と共に、一瞬で霧散させられてしまった。


「ダメね。水の精霊の魔力に意識が引っ張られて、氷の『硬度』と『指向性』が甘くなっているわ。それでは高位の魔獣の皮膚一枚破れないわよ」


腕を組み、冷徹なまでの美貌でユイを見据えているのは、至高の魔術師ヒミコだった。

ユイもまた、シンの隣に立ち続けるため、そしてライトたち勇者一行のサポートをより完璧にするため、ヒミコに頼み込んで魔法の猛特訓を受けていたのだ。


「はい……! もう一度、もう一度お願いします、ヒミコ先生!」


ユイは額の汗を拭い、その大きな瞳に強い決意を宿して再び魔力を練り上げる。


「モカ、ココア! あんたたちも遊んでる暇は無いわよ。サタンを驚かせた『合体魔法』の術式構成、あれの魔力効率が悪すぎるわ。私の『アルテマ』の術式をベースに、イチから基礎を組み直しなさい」


「ひええぇぇ!? ヒミコ先生、鬼だよー!」

「モカ、泣いてる暇はないよぉ! 怒られる前に魔力を練らなきゃ!」


空中では、ヒミコの放つプレッシャーに冷や汗を流しながら、聖獣のモカとココアが必死に手を取り合い、小さな体からありったけの魔力を絞り出している。

水の精霊の力を極限まで引き出そうとするユイと、究極魔法の深淵に触れてパニックになる妖精コンビ。こちらの女性・聖獣陣の特訓もまた、男たちに負けず劣らずの地獄絵図(?)と化していた。


夕暮れ時。

赤く染まった空の下、全身泥だらけで文字通りボロボロになったシンが、よろよろとジンの家のリビングへと戻ってきた。


「あはは……今日のジンさんとガイルさんの連携、本当に死ぬかと思ったよ……」


「それはこっちのセリフよ、シン……。ヒミコ先生の魔力コントロールのしごき、一瞬でも気を抜いたら消し飛ばされそうだったんだから……」


リビングには、同じく魔力を使い果たして机に突っ伏しているユイ、そして力尽きて煎餅のようになって転がっているモカとココアの姿があった。


お互いの凄まじいボロボロ具合を見て、シンとユイは思わず顔を見合わせ、それから「ふふっ」と同時に小さく吹き出した。


きつい、痛い、死にそうに苦しい。

だけど、そこにはかつてのような「暴走への恐怖」や「孤独」は一欠片もなかった。お互いが、そして仲間たちが、それぞれ上を目指して全力で走っている。その事実が、心地よい疲労感と共に二人の心をじんわりと満たしていく。


「おい、お前ら! 飯ができたぞ、しっかり食って明日も日の出からしごいてやるからな!」


厨房からジンが豪快に大皿料理を運んでくる。

少年たちの新しい日常、そして更なる高みへの挑戦は、まだ始まったばかりだ。


最後までお読み下さいましてありがとうございます。感想書いて貰えれば嬉しいです。 良い評価付けて貰えると励みになります。お願いします。

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