61話 凱旋の宴
絶対の魔王サタンが光の塵となって完全に消滅し、世界を絶望で覆い尽くしていた血の赤き日食が完全に晴れ渡った、幻獣界の広大な青空。
そこには、戦いの終わりを告げるような、どこまでも清々しく心地よい柔らかな風が静かに吹き抜けていた。
「はは……本当に、本当に全部終わったんだな……」
人類の希望である勇者ライトは、傷だらけの聖剣『エクスカリバー』をゆっくりと鞘へと収めると、張り詰めていたすべての緊張の糸が一気に切れたように、その場に大の字になって豪快にひっくり返った。
「おいおい、世界を救った勇者様が、随分とだらしねえ格好をしてんじゃねえよ」
ジンが二振りの黒剣を背中に背負い、ニヤリと不敵に笑いながら歩み寄る。そして、その隣に並ぶシンも、絶対の神威を放っていた漆黒の刀『アマテラス』を消滅させ、寝転ぶライトの顔を優しく覗き込んだ。
「ライトさん、ただいま。……僕を最後の最後まで信じて、ここで待っていてくれて、本当にありがとう」
シンが穏やかな笑みを浮かべて右手を差し伸べると、ライトは勢いよく飛び起き、その手をガシッと力強く握りしめた。そして、そのままお互いの拳と拳を熱く、力強くぶつけ合う。
「おかえり、シン。僕たちの……いや、命を懸けて自分に打ち勝った、君の大勝利だ!」
「シンーーーーっ!!」
そこへ、もう我慢の限界を迎えていたユイが、背中の水の翼を大きく羽ばたかせながら猛ダッシュで突っ込んできて、シンの華奢な胸へと全力で飛び込んだ。
「もう、もうどれだけ心配したと思ってるんだからぁ……! バカ、バカ、シンのバカぁ……っ!」
「わわ、ご、ごめんねユイ。でも、ユイが暗闇の底から僕の名前を何度も呼んでくれたから、僕は迷わずに戻ってこれたんだ。本当に、ありがとう」
胸の中で泣きじゃくるユイを前に、顔を真っ赤にしておろおろと謝るシンの姿を見て、背後にいたカイルやガイルが「ひゅ〜!」「お熱いねぇ!」と意地悪そうに口笛を吹く。それを見たサーラとソフィアも、顔を見合わせながらクスクスと楽しそうに笑っていた。
「本当、手のかかる自慢の弟子たちだわ。でも、これ以上ないほどに素晴らしい戦いだった。今回の実戦、文句なしの合格よ」
彼女たちの師匠であるヒミコが、どこか誇らしげに満足そうな笑みを浮かべ、腕を組んで深く頷いた。
『ハッハッハ! 見事なまでに闇が綺麗に晴れ渡ったな、バハムート殿よ!』
遥か上空では、龍神王マスタードラゴンがその黄金の巨躯を太陽の光に眩しく輝かせながら、嬉しそうに旋回していた。
『フン、我が極大の一撃の威力にサタンの奴も怯んでいたからな! おい、マスタードラゴン殿、今夜は神界に眠る最高神の特上酒をすべて俺たちの部屋へ持ってこさせるぞ!』
『よかろう、今日のところは幻獣王の奢りだな!』
世界最高峰の二大巨頭であるはずの王様コンビが、まるで少年のように大はしゃぎしながら、どこまでも広がる青空を仲良く飛び回っている。
「それなら、わたしたちも聖獣の島の特製ハニージュースをたくさん持ってきてあげるよ!」
「お祝いだー! 今日は朝までどんちゃん騒ぎだよ!」
案内役のモカとココアも、ライトやカイルの頭の上へとパタパタと降り立ち、嬉しそうにくるくるとダンスを始めた。
「よし! それじゃあみんな、神界に残っている最高神アデル様をひっくり返して驚かせるくらい、歴史に生き続ける盛大な勝利の宴を始めよう!」
勇者ライトの快活な号令に、その場にいる全員が、溢れんばかりの笑顔で拳を天に突き上げて応えた。
雲一つなく晴れ渡った天空から差し込む太陽の光はどこまでも温かく、過酷な運命を乗り越え、見事に世界を救い出した若き英雄たちの眩しい笑顔を、いつまでも、どこまでも輝かしく照らし続けていた。
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