56話 決死の防衛線
――ギシャアアアアアアッ!!!
天空を不気味に切り裂いた空間の割れ目から、これまで見たこともない醜悪で異形な魔獣の群れが、まるで黒い津波のように幻獣界の地上へとひたすら降り注いでいた。空はサタンの放つ悍ましい闇に深く染まり、血の如く赤い日食が不気味な光で世界を冷たく照らしている。
「くそっ、キリがないな……! だけど、僕たちがここで一歩でも引いたら、神界のシンや、命懸けで水を汲みに行ってくれているユイたちの退路がなくなってしまう!」
勇者ライトが聖剣『エクスカリバー』を高々と天に掲げると、その身から放たれた眩い黄金のオーラが、どんよりと垂れ込める闇を鋭く切り裂いた。
「みんな、行くよ! ――『聖王十字斬』!!!」
ライトの一閃から放たれた光の斬撃が空間を埋め尽くし、迫り来る魔獣の群れを数十匹まとめて一瞬で光の塵へと還していく。
「ふん、神を超えたか知らんが、サタンのやることは相変わらず悪趣味極まりないな!」
どす黒い闘気を全身から爆発させ、ジンの握る二振りの黒剣が冷酷に閃く。その神速の双剣術は、近づく魔獣をことごとく一瞬で肉片へと変えていく。
「ライト、ジン! 地上は俺とカイルで完全に食い止める! お前らは上空に群がっているデカい奴らを頼むぜ!」
ガイルが、疾風のごとき圧倒的な速度で大地を駆け抜け、その鋭い爪で魔獣の喉笛を次々と正確に引き裂いていく。
「了解です、ガイルさん! ――『プロミネンス・バースト』!!」
カイルが魔力を充填させた魔法剣を力強く地面に突き立てると、巨大な火柱が地底から爆発的に噴き出し、ガイルの背後を取り囲もうとしていた敵を一網打尽に焼き尽くした。
「龍神界の仇、そしてこの世界のすべての命運……我が一撃に懸ける! ―――『次元消滅 (ディメンション・エンド)・インパルス』!!」
さらに遥か上空では、幻獣王バハムートがその巨体をダイナミックに翻し、口内から放たれた極大の光条が、空を埋め尽くしていた飛行魔獣の軍勢を一撃で完全に消滅させた。
男たちの命懸けの防衛戦。ライトの「僕たちが絶対に守り抜く」という強い意志の言葉通り、彼らは一歩も引くことなく、世界を埋め尽くす絶望の軍勢を正面から押し返していた。
――その頃、神界の最奥・最高神アデルが展開する結界の間。
「シン……! 待たせてごめんね!」
空間にまばゆい転移の光が炸裂すると同時に、ユイ、ヒミコ、サーラ、ソフィア、そして妖精のモカとココアが、滑り込むようにしてこの部屋へ合流を果たした。
部屋の中央では、最高神アデルが全身からこれまでにない神聖な光を放ち、外から津波のように押し寄せるサタンの闇の魔圧から、この部屋の空間を必死の想いで護り続けていた。その中心にあるベッドの上で、シンは未だにどす黒い呪いの霧に包まれ、高熱に浮かされながら苦しげに細い息を吐いている。
「よくぞ無事で戻ってくれた、ユイ! 水は……『癒やしの泉』の水は、間に合ったか!?」
アデルが魔力を放ち続けながら、切迫した声で叫ぶ。
「はい! ここに!」
ヒミコが神聖な刻印の施された器に満たされた、美しく翡翠色に輝く聖水を差し出す。そして、忘却の洞窟で水の精霊の加護をその身に宿したユイが、背中に輝く一対の水光の翼を羽ばたかせながら、愛するシンの枕元へと一瞬で駆け寄った。
「シン、僕の声が聞こえる……? 今、この水を飲ませてあげるからね……!」
ユイは震える手で器を持ち、翡翠色の美しい水を、シンの青白い唇へとそっと優しく流し込んでいく。
その瞬間、体内へと染み渡った清らかな翡翠色の水が、シンの身体の内側から一気に巡り、彼を今も苦しめ続けていたサタンの最も深い闇の呪いと激突した。
シンの体中からバチバチと激しい黒と青の火花が散り始め、部屋全体が異質な拒絶反応の波動によって激しく揺れ始める。
シンの魂の境界線上で、光と闇の最後の、そして最も過酷な戦いが始まろうとしていた――。
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