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52話 魔導の共鳴(忘却の洞窟)



聖獣の島の最果て、薄暗い不気味な紫の霧がどんよりと立ち込める『忘却の洞窟』の入り口。

空間を切り裂くまばゆい転移の光とともに、ユイたち一行がその不毛な地へと力強く足を踏み締めた。


「うう……いつ来ても不気味なところだね、ココア」


「うん、モカ。魔獣界の領域が近くなってから、嫌な魔獣の気配がずっとしてるの……」


案内役を務める聖獣のモカとココアが、ユイの肩のあたりで小さな身体を寄せ合ってブルブルと震えている。


「大丈夫だよ、二人とも。私たちがついてるからね」


ユイは不安をかき消すように優しく微笑みかけた。師のヒミコから伝授された魔術の灯りを自身の指先にともすと、洞窟の奥深い暗闇がほんのりと黄金色に照らし出される。


「ユイ、あまり最初から魔力を無駄遣いしては駄目よ。この先、何が潜んでいるか分からないのだから」


背後からそう言って鋭く戒めたのは、一行の先頭を毅然と歩くヒミコであった。彼女は賢者サーラの師であり、ユイにとっても偉大な魔導の先駆者。その背中には、師匠としての圧倒的な威厳と、何者にも動じない安心感が満ちていた。


「はい、ヒミコ先生」


「ソフィア、あなたも緊張しすぎて魔力の流れが乱れています。落ち着いて、私が教えた通りに深く息を整えなさい」


優秀な魔導師であるサーラが、隣を歩くソフィアの強張った肩にそっと優しく手を置いた。

仲間を強化・回復する高度な魔法を操る支援術師のソフィアは、現在この神界への行軍の中で、サーラから熱心に魔法の指導を受けている最中だったのだ。


「あ、はい……! すみませんサーラさん。シン君のことが心配なのと、お兄ちゃんの信頼に絶対に落とし前をつけなきゃ……じゃなくて、応えなきゃって思ったら、つい力が入っちゃって……」


神界を発つ直前、勇者ライトが真剣な眼差しで「僕たちの戦友をよろしく頼むよ」と自分に託してくれた姿が、今も鮮烈に目に焼き付いている。兄のため、そして何より大切な仲間のため、ここで失敗することなど絶対に許されない。


「――来るわ! ソフィア、すぐに支援を! ユイ、サーラ、呪文の詠唱を始めなさい!」


ヒミコの鋭い警告の声が、静まり返った洞窟内に一瞬で響き渡った。

直後、暗闇の奥深くから、ギラギラと飢えた数条の赤い眼光が次々と浮かび上がる。魔王サタンが放つ不気味な闇の魔力の影響を受け、完全に理性を失い狂暴化した魔獣の群れが、鋭い牙を剥き出しにしてこちらへ向かって一斉に飛び出してきたのだ。


「はいっ! ――『プロテクション・オラクル』!」


ソフィアがサーラから叩き込まれた最新の呪文を淀みなく唱え、杖を地面に突き立てる。

瞬時にまばゆい聖なる光の防護壁が展開され、襲い来る魔獣の爪を弾き飛ばしてユイたちの身体を強固に守り抜いた。


「行くわよ、サーラ! 私たちの最古の魔導の力、あの化け物どもに見せてあげるわ!」


「ええ、ヒミコ先生! 遅れは取りません!」


ヒミコがその白皙の手を前方へとかざすと、忘却の洞窟全体がミシミシと激しく震えるほどの、膨大な、圧倒的な魔力の奔流が空間を満たしていく。

サーラ、そしてユイもその圧倒的な波動に自身の魔力を完全に呼応させ、魔獣の群れを迎え撃つべく、一糸乱れぬ美しい詠唱を同時に紡ぎ始めた。


愛するシンを絶望の淵から救い出すための、女性陣の命懸けの本当の戦いが、今ここに幕を開けたのだった――。

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