51話 乙女たちの決意
魔王サタンが禍々しい笑いと共に魔獣界へと去った後、シンは神界の最奥、最高神アデルが展開する神聖な結界のただ中に横たえられていた。
幻獣王バハムートの放った『次元消滅 (ディメンション・エンド)・インパルス』による凄まじい外傷自体は、アデルの至高の癒やしの力によって完全に治癒していた。しかし、サタンに穿たれた根深い闇の呪いと、シン自身の体内に眠る『暗黒闘気』が今なお激しい拒絶反応を起こし続けており、シンは高熱にうなされたまま、一向に目を覚ます気配がない。
「アデル様……シンのこの呪縛を解く方法はないのですか……っ!」
ピクリとも動かないシンの熱い手を両手でぎゅっと握りしめながら、ユイが涙ながらに懇願する。アデルは痛ましげにその美しい目を伏せ、重い口を開いた。
「サタンの闇の呪いは、彼の過去の孤独――心の傷に深く根を張っている。……だが、ただ一つだけ、それを内側から洗い流す方法がある。聖獣の島のさらに奥深く――聖獣モカたちの故郷である『忘却の洞窟』。その最深部に湧き出る『癒やしの泉』の水があれば、シンを魂の内側から救うことができるはずだ」
「モカたちの故郷……!」
ユイがハッと振り返ると、彼女の肩に乗っていた聖獣のモカとココアが、小さく、しかし力強く首を縦に振った。
「うん! わたしたちの故郷の洞窟の奥にあるよ! でも……あそこは今、魔獣たちのテリトリーにすごく近くて、いまはとても危険な場所なの……!」
「今、魔獣界のサタンは不気味な沈黙を保っている。奴がいつこの幻獣界や神界へ総攻撃を仕掛けてくるか、分かったものではないな……」
先代幻獣王であるガイルが、悔しげに地面に鋭い爪を立てる。敵の本隊がいつ動くか分からない以上、戦力を大きく割くわけにはいかない。
すると、勇者ライトが一同を静かに見渡し、芯の強い真っ直ぐな声で告げた。
「……よし。僕たち男手とバハムート様、それにアデル様は、このまま幻獣界と神界の防衛に回るよ。サタンがいつどこから動いてもいいように、ここに絶対の防壁を築くんだ。だからシンを……僕の、みんなの大切な戦友を、どうかよろしく頼むよ」
ジンとカイルもライトの言葉に深く頷き、それぞれの武器を構えて防衛の陣を敷く。
「なら――その泉の水を汲みに往くのは、私たちに任せてください」
凛とした迷いのない声で一歩前に進み出たのは、ユイと賢者サーラであった。そして、ソフィアもその拳を強く握りしめ、強い決意を瞳に宿す。
「私たちが必ず、シンの呪いを解く手がかりを持ち帰ります」
頼もしく成長した二人の弟子を見守りながら、彼女たちの師匠であるヒミコが静かに、頼もしげに頷いた。
「行くわよ、みんな。ライトたちの守りがサタンに破られる前に、急ぎましょう」
「うん、任せてヒミコ様! わたしたちが案内するよ!」
モカとココアが小さな身体を光らせ、転移の先導を始める。
こうして、囚われた光の英雄を救い出すための「女性陣&妖精チーム」がここに結成された。
「待っててね、シン。今度は、僕があなたを絶対に助けるから――」
ユイは静かに眠るシンの額にそっと触れ、その温もりを確かめた後、師のヒミコ、サーラ、そしてソフィアと共に、モカたちが展開したまばゆい転移の光の中へと、迷うことなく足を踏み入れた。
大切な人を救うため、乙女たちは新たなる試練の地へと飛び立つ――。
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