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50話 禁忌の儀式



「――おのれ、おのれ勇者どもめ……! あと一歩、あと一歩で、世界のすべてが我が手に入るところを……!」


魔獣界の最奥、どす黒いマグマが不気味に煮えたぎる大宮殿。

幻獣界から無様に逃げ帰ったサタンは、漆黒の玉座の前で、激しい怒りのままに獣のように咆哮していた。彼の周囲に浮かぶ3つのクリスタル――『光』『闇』、そして龍神界から強奪したばかりの『土』が、主の激昂に呼応して禍々しくギラギラとまたたいている。


「サタン様、ご無事ですか……!」


生き残っていた下級の魔獣たちが恐る恐る近寄るが、サタンはその忠言に一瞥(いちべつ)すら与えない。


「幻獣界の防衛結界を破れなんだ以上、最後の『風のクリスタル』を力ずくで手に入れるのは容易ではない。ライトどもだけでなく、あの幻獣王バハムートまでが完全に警戒を高めているからな……」


サタンは忌々しげに顎(あご)に手を当てると、宮殿のさらに奥、巨大な鉄格子の先にある闇を見つめた。

そこには、遥か神話の時代に最高神アデルたちが命懸けで封印した、魔獣界の最悪の王――ルドルフの肉体が、無数の神聖な鎖によって幾重にも縛り付けられていた。


本来、4つのクリスタルがすべて揃わなければ、この強固な封印を完全に解き、ルドルフの魂をこの世に復活させることはできない。

だが、サタンの燃え盛るような紅蓮の眼眸(がんぼう)が、ふっと狂気に歪んだ。


「……フフフ、アハハハハ! そうか……何も生きて復活させる必要などないのだ。ルドルフよ」


サタンはゆっくりと封印の祭壇へと歩み寄ると、手元にある3つのクリスタルを天高く掲げた。


「四つの鍵が揃わぬのなら、完全な復活は諦めよう。だが……その代わりに、お前がその肉体に眠らせている膨大な『闇の力』、この私がすべて直接吸い上げ、我が肉体に肉付けしてくれようぞ!」


それは、世界の理(ことわり)を完全に無視した、禁忌の中の禁忌。

復活できないルドルフの肉体から、3つのクリスタルの力を媒介にして、その底なしの魔力だけを強引に奪い取り、サタン自身が『神を超える絶対的な化け物』へと進化しようという狂気の作戦であった。


「光、闇、そして土のクリスタルよ! 我が意志に従い、ルドルフの魂を内側から融解せよ!」


サタンが禍々しい呪文を唱えると、3つのクリスタルからどす黒い光線が放たれ、封印されたルドルフの肉体を無残に貫いた。


『――グ、ガ、ア、ア、ア、ア、ア…………ッ!!!』


意思を持たないはずのルドルフの封印の肉体が、苦悶(くもん)の地鳴りのような悍ましい音を立てて激しく震え出す。

肉体から引きずり出された、世界を呑み込むほどに純粋な『闇のエネルギー』の奔流。それが、クリスタルを経由して、サタンの身体へと容赦なく流れ込み始めた。


「ウオオオオオオッ!! 素晴らしい……! 身体が、魔力が、無限に膨れ上がっていくぞ……!」


激しい闇の力を吸収し、サタンの肉体がバチバチと黒い稲妻を放ちながら膨張していく。


「見ていろライト、シン……! 次にまみえる時が、お前たちの、そして世界の最期だ!!」


魔獣界の濁った空が、これまでにない禍々しい紫黒の雷雲に包まれていく。

サタンが真の怪物へと完全な変貌を遂げるまで、もう残された時間はわずかであった――。


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