4話 修行〜その1
陰陽合一ノ神殺し~二刀の聖剣が一本の絆へと変わるとき~
――ドゴォォォン!!!
魔界の紫色の台地が激しく爆発し、シンの身体が派手に宙を舞った。
地面をごろごろと転がり、シンは口の中に溜まった血をペッと吐き捨てる。
「ぐ、あ……っ!」
「どうした小僧! 飛竜と鳳凰の力を宿しておきながら、俺のただの木刀一本すら受け止められねえのか!」
シンの前に立ちはだかるジンは、先ほど部屋で見せた温厚な料理人の顔を完全に消し去っていた。ジンの両手には、魔界の黒い鉄でできた二振りの訓練用木刀。それが、目にも留まぬ速さと風を切り裂く重さでシンを襲う。
「痛てぇな……っ! ジンさん、動きが早すぎて見えないよ!」
「当たり前だ! 自分の足元すら固まってねぇ奴が、俺の動きについてこられるわけがねぇだろうが!」
「いきなり両手で二刀を出そうとするな! 欲張るんじゃねぇ! ユイが傷つけられた時は、感情のままに具現化出来ただけだ!」
「まずは一刀を確実に出せるように飛竜の魂を感じろ!」
ジンの喝が飛ぶ。シンは必死に魔力を練り直し、まずは右手だけに意識を集中させた。
(まずは右手……! 飛竜の力を、一本の刃として形にする……!)
パチパチと日輪の炎が走り、右手に『日輪』の柄と刃が形作られ始める。しかし、ジンの木刀が一閃した瞬間、具現化が不完全だった刃は激しい衝撃に耐え切れず、あっけなく霧のように弾けて消えてしまった。
「なっ……!?」
「甘い! 片手すら満足に実体化できてねぇだろうが! 具現化させた刃は、お前の精神と魔力の直結体だ。根っこになる『身体の強度』と『魔力の密度』が足りなきゃ、叩かれた衝撃で簡単に霧散する!」
ジンは追撃の蹴りをシンの腹に叩き込んだ。ドスッという重い音とともに、シンは再び地面を転がる。
「うぐっ……ハァ、ハァ……!」
立ち上がろうとするシンの膝が、ガクガクと震える。
息を荒げるシンを見下ろし、ジンはふうと溜め息をつくと、自身の全身から凄まじい漆黒のオーラを立ち昇らせた。ただの木刀が、ジンのオーラによって黒く輝き、周囲の空間を歪ませるほどの質量を持ち始める。
「いいか小僧。片手ずつ刃を固定するためにも、まずはその体表に『暗黒闘気』を纏え。魔界の環境から身を護る鎧であり、具現化した刃の土台になる力だ」
「暗黒闘気……。でも、どうやって出すのか全然感覚が掴めないよ……!」
そう食ってかかるシンに対し、ジンは無言で歩み寄ると、シンの胸元をガシッと掴み上げた。
「――なら、身体で直接覚えろ!」
「がぁっ……!?」
ジンが掌から、自身の荒々しい暗黒闘気をシンの体内へと容赦なく叩き込んだ。
その瞬間、シンの全身の血管に黒い毒流が流し込まれたかのような、凄まじい激痛が走る。
「ぐあぁぁぁぁぁッ!? 熱い……体が内側から焼き切れそうだ……っ!」
「暴れさせんな! 泣き言言ってねぇで、俺の闘気がお前の体をどう駆け巡ってるか集中して感じ取れ! 血管の隅々まで黒い衣を張り巡らせる感覚を、死に物狂いで脳に焼き付けろ!!」
ジンの怒声が響く。
あまりの激痛に視界が真っ赤に染まる中、シンは歯が砕けるほど噛み締め、体内で暴れ狂うジンの暗黒闘気の「流れ」を必死に追いかけた。
(熱い……! だけど、わかる……! 魔力を外に出すんじゃない、皮膚の表面に『密閉』させて循環させてるんだ……!)
「ハァ……ハァ……っ!」
ジンが手を離すと、シンはその場に膝をつき、激しい吐気と激痛に悶絶した。
だが、そのシンの体表には、力なく揺らぎながらも、薄っすらと漆黒の闘気が産声を上げるように揺らめいていた。
「……フン、筋は悪くねぇ。感覚は掴んだな?」
ジンは再び木刀を構え、凶悪な笑みを浮かべた。
「そいつを自力で完全に制御できるようになるまで、休む暇はねぇぞ!」
自らの体内で掴んだ「漆黒の感覚」。
激痛に耐えながら、シンの地獄の特訓が本格的に幕を開けたのだった。
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