45話 悪魔の帰還(涙の叫び)
――ズゴォォォォン!!!
かつて穏やかな静寂に包まれていた辺境の村は、いまや天を衝く漆黒の爆炎と轟音に無残に包まれていた。
「ひ、悲鳴をあげるな! 悪魔だ……! あの時の、あの悪魔のガキが、村を滅ぼしに戻ってきたんだ!」
家々が燃え盛る中、村人たちは腰を抜かし、泣き叫びながら四方へと逃げ惑う。
その破壊の中心に、ただ一人静かに佇むのは――かつてこの場所で石を投げつけられ、執拗に罵倒され続けた少年、シンであった。
「……あはは、ハハハハ!」
シンの口から、かつての彼のものとは到底思えない、狂ったような引きつった笑い声が漏れる。
その瞳は光を失い、どす黒い底なしの闇に染まっていた。両手には、師・ジンの暗黒闘気を限界突破させて無理やり具現化した、世界のすべてを呪うかのような禍々しい『暗黒の二振りの剣』が固く握られている。
かつて自分を助けてくれなかった冷酷な世界への、制御不能な憎悪。サタンによって抉られた心の傷が、シンの理性を完全に塗りつぶしていたのだ。
シンが暗黒の剣を冷酷に振り上げ、村の象徴であった大樹をなぎ払おうとした――その刹那。
「――させないッ!!」
――キィィィィン!!!
まばゆい絶対的な黄金の光を纏った聖剣が、シンの放った暗黒の剣を真っ向から受け止めた。激しい闘気の衝突波が、周囲の地面をクレーター状に爆裂させる。
「シン! 目を覚ませ!!」
決死の形相で剣を押し返すのは、かつて敵対し、そして共に神を討った勇者ライトだった。
「ラ……イト……? 邪魔、するな……! こいつらは、僕を……悪魔だと……!」
シンの肉体から、さらにドクドクと膨大な暗黒闘気が噴き出す。その圧倒的な闇の圧力に圧され、ライトの足がズズズと力任せに地面にめり込んでいく。
「シン!!」
ライトの背後から、魔法剣を構えたカイルが瞬時に飛び出した。だが、カイルの瞳にあるのは敵意ではない。引き裂かれそうなほどの悔恨と、悲壮な決意だった。
「私の言葉を聞いてくれ、シン! 神託に騙されていたとはいえ、君を悪魔と呼び、君の幼馴染を傷つけたのはこの私だ! 君を『呪われ子』にしたのは、カムルの創り出した偽りの世界だ! 君は悪魔なんかじゃない……世界を救った、俺たちの本物の英雄なんだ!!」
カイルの魂の叫び。しかし、狂気に囚われた今のシンには、その言葉すらも届かない。
「うるさい……うるさい、うるさいッ!!」
シンは獣のように咆哮し、ライトとカイルの二人を二振りの暗黒剣で力任せに吹き飛ばした。二人は受け身を取りながら地面を激しく滑る。一国を代表する実力者である二人をして、暴走したシンのパワーは完全に規格外であった。
シンが再び絶望の剣を掲げ、かつて自分を虐げたすべてを無に帰そうとした、その時だった。
「――シン、もうやめて!!」
破壊された瓦礫を必死に乗り越え、一人の少女がシンの正面へと真っ直ぐに走り出た。
ユイだった。
後ろでジンやガイルが「危険だ!」と血相を変えて止めようとするが、ユイはそれを力強く振り切り、一切の武器も持たずにシンの暗黒の刃の、その目と鼻の先まで進み出たのだ。
「ユ、イ……? 逃げろ……僕の、中に……バケモノが……!」
ユイの姿をその瞳に捉えた瞬間、シンの全身から溢れていた暗黒闘気が、一瞬だけ激しく、狼狽するように揺らぎを見せた。
「シンはバケモノなんかじゃない! 誰も信じてくれなかった時も、私だけは知ってたよ。シンの手の温かさも、誰よりも優しい心を持っていることも!」
ユイはボロボロと大粒の涙を流しながら、かつてシンの『月読』の凍光に救われた、自らの胸の傷にそっと手を当てた。
「シンがどこへ行くなら、私はどこへだって行くって言ったの、覚えてる? ……だから、もしシンが暗闇に落ちちゃうなら、私も一緒に落ちる! でも、絶対にシンに人殺しなんてさせない。私の大好きなシンを、そんな悲しい顔にさせない!!」
「ユ、イ…………っ!!」
その叫びが引き金となり、シンの脳裏に、かつて暗闇の森で自分を身を挺して庇って倒れたユイの姿、そして自分のためにただ一人泣いてくれた彼女の涙が、鮮烈にフラッシュバックした。
「あ、ガ……ッ、あああッ!」
シンの両手にあった禍々しい暗黒の剣が、バチバチと音を立てて激しく明滅し始める。
精神の奥底に巣食うサタンの邪悪な呪縛と、シン自身の胸にある仲間たちとの強固な絆が、体内で激しい拒絶反応を起こし、ぶつかり合っていた――。
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