42話 四つの鍵(真の脅威)
「――龍神界が、滅びただと……!?」
ボロボロの身体で創世の間に飛び込んできた龍神王マスタードラゴンの、血を吐くような悲報。
それを聞いた全知全能たる最高神アデルの顔が、かつてない衝撃と焦燥に染まった。神殿の床を微かに揺らすほどに、主神の神威が激しく乱れる。
そのただ事ではない様子に、創世の間全体に凍りつくような緊張が走った。
アデルは即座に、再建中の神界にいる主要な者たちをすべてこの『創世の間』へと召集した。
集まったのは、神界の勇者一行――ライト、カイル、賢者サーラ、ソフィア。
そして地上から共に戦い抜いてきたシンの仲間たち――ユイ、ジン、ヒミコ、聖獣のモカとココア。
さらに、ユイの腕の中で大人しく丸まっていた三毛猫の姿のガイルも、その場の尋常ならざる空気を察して、鋭い眼光を覗かせている。
「みんな、急に集めてすまない。……事態は一刻を争う。先ほど、龍神界の『土のクリスタル』が何者かによって強奪された」
アデルの重々しい言葉に、その場の一同が揃って息を呑む。
「クリスタル……? アデル様、それは一体何なのですか?」
シンが素朴な疑問を投げかけると、アデルは深く息を吐き、ゆっくりと重い口を開いた。それは、この世界の根幹に関わる、はるか昔の「大戦」の記憶であった。
「今から語るのは、カムルが生まれるさらに前、この世界が真の絶望に瀕した時の話だ。かつて魔獣界には、ルドルフという最悪の王が君臨していた。奴は世界中の『闇の力』を無限に吸収し、神をも凌駕する絶対的な強さを得たのだよ」
アデルの深い双眸に、当時の凄惨な戦いの記憶がありありと蘇る。
「私と、前龍神王マザードラゴン、 そしてそこにいる前幻獣王ガイル。我ら三界の長が命を賭して戦ったが……それでも闇を宿したルドルフは強すぎた。当時の我らの力を持ってしても、奴を討ち滅ぼすことは不可能だった。……ゆえに、我らは奴を『封印』するしかなかったのだ」
アデルの話が進むにつれ、その悍ましさに聖獣のモカとココアはガタガタと震えだした。ライトやカイルもまた、自分たちの想像を超える歴史の規模の大きさに圧倒されている。
「その大戦で、龍神界の偉大なる王マザードラゴンは命を落とした。そして私たちは、ルドルフの魂を四つに引き裂き、二度と復活せぬよう厳重に鍵をかけた。それこそが、世界のエネルギーを秘めた『四つのクリスタル』だ。私はそれぞれの界を信頼し、クリスタルを分散して保管させた……」
アデルがそこまで話した、その時だった。
ユイの腕の中から、一匹の三毛猫がするりと床へ飛び降りた。
ポン、と軽い白い煙が立ち上がると、そこに現れたのは――愛らしい猫などではなく、鋭い牙と美しい斑紋を持つ、周囲の空気を圧するほどの威厳を放つ巨大な魔獣――キラーパンサー・ガイルの真の姿だった。
大戦後、周囲の人間に無用な恐怖を与えないために可愛い猫に化けていた前幻獣王は、険しい顔でアデルを見つめた。
「アデル殿、クリスタルが奪われたってのはマズいな。サタンの野郎、すでに光と闇のクリスタルを持ってやがった。そこに龍神界の『土』が渡ったってことは……」
「ああ」
アデルが重々しく頷く。
「残された最後の鍵は、ただ一つ。幻獣界にある『風のクリスタル』のみ。サタンの目的は、四つのクリスタルをすべて揃え、魔獣界の元王ルドルフを完全復活させることだ。もし奴が目覚めれば、世界は今度こそ終わる……!」
最高神アデルの悲痛な警告が、創世の間に重く響き渡る。
神界を支配していた偽神カムルとの激闘を終えたばかりのシンたちの前に、世界を完全に滅ぼし尽くす「真の脅威」が、いま再びその巨大な黒い姿を現そうとしていた。
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