41話 創世の真実(絆の証明)
神界観光の賑やかで穏やかな空気から一転、シンは最高神アデルの直属である賢者サーラに連れられ、再建中の白亜の神殿の最奥、世界の理が満ちる『創世の間』へと足を運んでいた。
「アデル様。シンをお連れいたしました」
賢者サーラが恭しく一礼し、静かに一歩下がる。
そこに佇んでいたのは、偽神カムルの長きにわたる幽閉からついに解放され、全知全能の絶対的な神威を取り戻した最高神アデルであった。その存在感は、ただそこにいるだけで周囲の空間を清らかな光で満たすほどに神聖で、偉大だった。
アデルは静かにシンの前に立つと、彼の衣服の隙間から覗く、生まれつきの不思議な【アザ】へと視線を落とした。
「よくぞ参った、シン。……そのアザを見るたびに、私にかけられた呪縛を打ち破り、過酷な運命の旅を生き抜いてくれた君の強さに、深く感謝せねばと思う」
「アデル様……。このアザには、あなたの加護があると聞きました。僕の過去に、一体何があったのですか?」
シンが真っ直ぐに尋ねる。アデルは全宇宙を見通すような深い双眸でシンを見つめ、静かに語り始めた。
「かつてカムルが私を最下層に幽閉し、神界を乗っ取った時、私は残された最後の神力を振りしぼり、人間界の一人の赤子に未来を託した。それが君だ。私の加護を刻んだそのアザは、君がどんな絶望に直面しようとも、その魂を決して曇らせないための絶対の道標なのだよ」
孤児だった自分の始まりに、最高神の意志があったことを知り、シンは厳かな気持ちで己の手のひらを見つめた。アデルはさらに、愛おしそうに目を細めて言葉を続ける。
「そして私がカムルの闇に囚われる間際、神界の光を一本の矢に換え、一人の男へと放った。元・神界の最強の黒剣使いであり、私が最も信頼を寄せる男――ジンへとな。私はその光の意志を通じて、ジンに伝えたのだ。『どうか、この子を見守ってくれ。いつか世界をひっくり返す、希望の光となる子だ』とね」
「……! 師匠が僕を助けてくれたのは、アデル様の……」
シンは胸が激しく震えるのを感じた。あの不器用で、いつもぶっきらぼうな師匠が、なぜあの場に現れ自分を助けてくれたのか。その本当の理由が、最高神との「世界をひっくり返す」という約束を守るためだったのだと、ようやくすべての線が一本に繋がった。
すると、アデルの表情が、神としての深い悲しみと慈愛の色に染まった。
「……シン。もう一つ、君に伝えておかねばならないことがある。カムルが私を幽閉したあの時……私の異変にいち早く気づき、救い出そうと真っ先に動いてくれたのが、飛竜と鳳凰だった。しかし、当時のカムルの偽りの神力は凄まじく……二匹は力及ばず、その肉体を滅ぼされ、一度は命を落としたのだ。我が身の不徳ゆえに、忠義なる聖獣たちに命を散らせてしまったこと、本当に申し訳なく思う……」
最高神アデルが、かつて自分たちのために犠牲になった二匹の死を悼み、静かに目を閉じる。
その言葉に呼応するように、シンの両手が眩いばかりの光を放ち始めた。
今や飛竜と鳳凰の魂は、シンと完全に融合している。シンがその力を解き放つと、彼の右腕から激しい炎を纏った『日輪の剣』が、左腕から美しく輝く氷の衣を纏った『鳳凰の剣(月読)』が、まばゆい光の粒子から現実世界へと具現化し、作り出された。
さらにシンがその二本の剣を胸の前で重ね合わせると、光は一つに混ざり合い、すべての光を吸い込むような漆黒の日本刀『アマテラス』へと姿を変える。
創世の間に、二匹の聖獣の神聖な意志が満ちていく。
シンの肉体を通じて現実世界へとその力を顕現させた二匹の剣は、最高神アデルの前に進み出るシンの動きに合わせ、静かにその刃を伏せた。それは、かつて仕えた主神への、至高の敬意と変わらぬ忠義の証明だった。
『アデル様、お顔をお上げください。我らはシンと共に、偽神を討ち果たしました。今こうして、あなた様の前へ戻れたことこそが、我らの誇りにございます』
シンの魂の奥から、鳳凰の清らかな鈴の音が響き、飛竜もまた、静かにアデルを見つめて同意を示す。
シン、アデル、そして二匹の聖獣。過去の因縁と深い絆が、いま完全に一つに結ばれた。
敬意を示し終えると、漆黒の日本刀は再び光となってシンの両手に優しく吸い込まれた。
しかし、その神聖な沈黙を破るように、創世の間の重厚な扉が激しく開け放たれた。
「アデル様! ――シン! 大変だ!」
息を切らせ、満身創痍の様子で飛び込んできたのは、龍神界へ戻ったはずの龍神王――マスタードラゴンだった。
「龍神界が……『土のクリスタル』が、何者かに奪われた……!」
その言葉に、創世の間の空気が一瞬にして凍りつく。神界を救った勝利の余韻は掻き消え、新たなる巨悪の足音が、シンの耳にハッキリと聞こえ始めていた。
最後までお読み下さいましてありがとうございます。感想書いて貰えれば嬉しいです。 良い評価付けて貰えると励みになります。お願いします。




