40話 土の略奪者
『陰陽合一ノ神殺し~飛竜と鳳凰の力を融合した俺、覚醒した二刀流の聖剣が一本の【神殺しの刀】へと至るとき~』
シンたちが偽神カムルを討ち果たし、神界が歓喜の光に包まれる、ほんの少し前のこと。
最高天の凄絶な決戦の場で、巨躯を冷たく横たえ、完全に息絶えた一頭の裏切り竜がいた。
龍神界の王マスタードラゴンの最高側近でありながら、神カムルと裏で深く内通していた巨竜――ドロス。
彼はマスタードラゴンたちの圧倒的な力によって、完全にその野望を砕かれ、引導を渡されたはずだった。
しかし、その巨体の死骸が冷たくなる前に、血に染まった戦場の片隅に、どす黒い闇のゲートが静かに開く。
そこから現れた魔獣界の王サタンの禍々しい魔力が、ドロスの骸を底なしの闇ごと包み込んでいった。
「……クク、カムルの犬め、無様に死んだか。だが、お前の中に燻るマスタードラゴンへの怨念……まだ、大いに利用価値がある」
サタンの強大な闇の力によって、ドロスの死体に無理やり現世の命の灯火が再点火される。
しかしそれは、かつて誇り高き竜族だったものの姿ではなかった。全身の美しい鱗は不気味な赤黒さに変色し、肉が腐り落ちて骨が剥き出しになった、禍々しき「アンデッド・ドラゴン」としての、おぞましき蘇生であった。
「……オ、オオオ……我が身体に満ちるは……死の力……!」
「行け、ドロス。マスタードラゴンが神界の決戦にかかりきりの今、龍神界はもぬけの殻だ。我がために『土のクリスタル』を奪ってこい」
ただの怨念の塊となったドロスは、サタンの命に従うまま、漆黒の死霊の翼を大きく広げ、手薄になったかつての故郷・龍神界へと向かって飛び立った。
――そして、シンとライトが合体必殺技でカムルを倒した、まさにその歓喜の瞬間。
龍神界の命の源たる『土のクリスタル』が、守り手のいない祭壇から無残に強奪され、龍神界全土に地割れを伴う凄まじい地鳴りが響き渡った。
大地の莫大なエネルギーが一瞬にして失われ、先刻まで緑豊かで美しかった世界が、見る影もなく急速に枯れ果て、灰色の荒野へと変貌していく。
神界での大戦をすべて終え、数日後にようやく龍神界へと帰還したマスタードラゴンの視界に飛び込んできたのは、その無惨に破壊され尽くした故郷の姿であった。
「な、何ということだ……! 誰がこんな真似を……!」
マスタードラゴンは誰もいない祭壇に残された、どす黒い魔力の残滓をじっと感じ取り、その険しい眼眸を大きく見開いた。
「この禍々しくも、あまりに見覚えのある竜の気配……まさか、ドロスか!? いや、奴は神界の決戦で確かに死んだはず……!」
巨躯を怒りと激しい戦慄に震わせるマスタードラゴンの脳裏に、最悪の予感がよぎる。
神界のカムルを倒した直後、休む間もなく、すでに世界はそれを遥かに上回る混沌と魔獣界の陰謀の渦に、完全に飲み込まれようとしていた。
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