36話 再誕・陰陽合一の刃
陰陽合一ノ神殺し~二刀の聖剣が一本の絆へと変わるとき~
「アデル様が幽閉されていたなんて……。僕は、そんな邪悪な存在のために、ソフィアを人質に取られ、言いなりになって戦っていたのか……!」
勇者ライトは己の無知と、神カムルのあまりの狡猾さに、激しい怒りと悔しさで全身を小刻みに震わせた。
そして、ユイに肩を貸されて辛うじて立っているシンの方へと真っ直ぐに向き直ると、深く、深く頭を下げた。
「すまなかった、シン……っ! 僕の独りよがりのせいで、君をここまで傷つけた。どんなに罵られても文句は言えない。だが、もし許されるなら……僕も一緒に戦わせてほしい。カムルは、この僕の手で絶対に討ち果たす!」
ライトが初めて少年の名を呼び、現世の守護者としての共闘を誓う。
シンは痛む身体のまま、その言葉に、フッと優しく、どこまでも穏やかな微笑みを返した。
「頭を上げてください、ライトさん。あなたの妹を想う気持ちは本物でした。それが分かったから、僕はあなたを恨んだりしません。……さあ、一緒に世界をひっくり返しに行きましょう!」
「ええ、二人ともよく言ったわ。でも、そのボロボロの身体じゃ神の前に辿り着く前に死んじゃうわよ。――サーラ、ユイ、行くわよ!」
ヒミコの凛とした号令が響く。
人間の最高峰たる魔術師、清廉なる賢者、そして、全ての始まりとなった人間の少女。3人が同時に、シンとライトへ向けてそっと手をかざした。
3人の紡ぐ莫大な魔導が美しい和音のように共鳴し、崩壊した天空の庭園を、眩い新緑と純白の救済の光が優しく包み込んでいく。
『「「聖天最高位・完全回復」」』
光が鮮やかに収まったとき、シンとライトの全身を苛んでいた無数の傷は完全に塞がり、枯渇しかけていた魔力と闘気は、全盛期をも遥かに超える最大出力となって体内で満ち満ちていた。
「すごい……! 体中から、信じられないくらい力が溢れてくる……!」
完全復活を遂げた二人の元へ、地下から救出された最高神アデルの厳かな思念が、直接脳内へと響き渡る。
『若き英雄たちよ、聞くがよい。カムルは本来、至高の聖剣アマテラス(天照)でしか傷をつけることはできぬ絶対的な存在。……だが、奴の頭上に輝く【神の光輪】、あれこそが神界の加護の源。何としても奴の隙を突き、あの光輪を破壊するのだ。さすれば神の力は霧散し、お前たち全員の攻撃が奴に届くようになるだろう』
「カムルの頭の輪を壊せば、勝機はある……! 感謝します、アデル様!」
シンが二振りの聖剣の柄を、より一層強く握り直した。
全ての真実は白日の下に晒された。人質だったソフィアは救い出され、勇者ライトという、これ以上ない最大の戦友が味方に加わった。もう、迷うものなんて何一つない。
「行くぞ、シン! 神界の最高天へ!」
「はい、ライトさん!」
二人の英雄を先頭に、カイル、ユイ、そして別働隊の全員が、偽神カムルの待つ最上階の玉座の間へと一気に駆け上がっていく――。
白亜の宮殿の最上階。世界の頂点に位置する玉座の間。
そこには、神聖な光を背負いながらも、その奥に悍ましい傲慢さを隠し持った偽神カムルが、泰然と腰掛けていた。
その神の軍勢を前にして、一人の少年が静かに二つの異なる輝きを放つ剣を構えていた。
右手に持つは、太陽の破壊と飛竜の剛力を宿し、紫黒の炎を吹き上げる巨大な大剣『日輪』。
左手に持つは、月の静寂と鳳凰の治癒、そして絶対的な凍気を宿す神聖な細剣『月読』。
「お前が、あの二匹の力を奪った泥棒猫か」
玉座の上から、神カムルが虫ケラを見るかのような瞳で、不敵に、そして傲慢に嗤う。
青年――シンは、その挑発に何も答えず、ただ静かに、二つの剣を胸の前で十字に交差させた。
『力を使う覚悟はいいな、シン』
かつて自分を闇から救い出し、この二刀の剣技を泥臭く叩き込んでくれた死んだ師匠――ジンの不敵な声が、今、確かな温もりを伴って脳裏に蘇る。
「ああ、いくよ、ジン。――【陰陽合一】」
刹那、シンの両手にあった二本の聖剣が、世界の全てを塗り替えるほどのまばゆい陰陽の光に包まれた。
そして、光が収束すると同時に、二振りの刃は融解し、一本の、あまりにも美しく静謐な『日本刀』へと姿を変えた。
刀身は、神界のあらゆる聖光すらも無限に吸い込んでいくような、絶対の漆黒。
その刀が、シンによって鞘から静かに引き抜かれた瞬間、――ゴゴゴゴ、と世界の理が書き換わり、神の領域の白亜の空が、境界線なく完全に「夜」へと反転した。
天照の破片を宿し、陰と陽を一つに束ねた、神殺しの真なる形態。
「お前が偽りの神か」
この刀には皆の想いが宿っている。
「――飛竜と鳳凰の仇、ここで討つ」
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