33話 因縁の黒剣
陰陽合一ノ神殺し~二刀の聖剣が一本の絆へと変わるとき~
地下での総力戦が繰り広げられているその頃、正面の広大な戦場は、完全に一つの圧倒的な『力』によって支配されていた。
「ク、クソが……ッ! 幻獣どもめ、なぜこれほどの手勢が残っていやがった……!」
大きく息を荒らげ、剛厚な鱗をボロボロに引き裂かれているのは、神カムルの腹心ドロスだった。
彼の周囲では、あれほど誇り高く並んでいた数千の神兵たちがことごとく叩き潰され、文字通りの全滅状態へと追い込まれている。
そのドロスの前に、天空を完全に覆わんばかりの、巨大な、あまりにも巨大な影が毅然と立ちはだかった。
『神の威光を借りて調子に乗ったな、矮小なる羽虫よ』
地鳴りのような重低音の声と共にドロスを見下ろしたのは、龍神界の最高至上――マスタードラゴンだった。その全身から放たれる黄金の龍気は、神界が誇る聖なる光すらも容易くかき消していく。
「調子に乗るなァァッ! 我が神カムル様から授かりしこの聖光の魔力で、トカゲごと消し飛べぇぇ!!」
半ば狂乱したドロスが、持てるすべての魔力を注ぎ込んだ最大級の光の奔流を放つ。
だが、眼前に迫る聖光に対して、マスタードラゴンは避ける素振りすら見せなかった。
『片腹痛いわ』
マスタードラゴンが大きく顎を開く。次の瞬間、神界の空間そのものを焼き尽くすほどの、純金色の龍息が猛然と放たれた。
――ドバァァァァァァァンッ!!!!!
「ぎゃあああああああああっ!?」
ドロスの放った光など一瞬で掻き消され、至高のブレスを正面から受けたドロスは、展開していた絶対防御壁ごと遥か彼方へと吹き飛ばされた。
文字通りの圧勝。神界の最高幹部の一角が、たった一撃のもとに沈んだ瞬間だった。
「ハッ! 流石は龍神の親玉、全盛期のキレのままだな!」
二振りの黒剣で神兵の残党を無慈悲に屠りながら、ジンが獰猛に笑う。
だがその瞬間、ジンの背筋を、これまでの人生で一度も経験したことのないほどの極限の悪寒が駆け抜けた。
「……ククク。地上の泥水をすすっていたにしては、随分と面白い玩具(黒剣)を手に入れたようだな、ジン」
闇そのものが凝縮したかのような不気味な足音と共に、ジンの背後に一人の男が姿を現した。
禍々しい漆黒の甲冑。そしてその手に握られているのは、ジンが持つものと瓜二つの、禍々しき暗黒の魔剣。
ジンは額から冷や汗を流しながらも、狂ったように口元を歪めて振り返った。
「……その声、そのドス黒い闘気。忘れもしねえぜ。まさか、こんな場所で拝める国があるとはな……サタン!」
サタンは冷酷な細い瞳を妖しく光らせ、手にした魔剣の柄を愛おしそうに撫でた。
「ジンよ。オレの暗黒闘気を盗み、ここまで生き長らえたその腕は見事だ。どうだ? 偽りの神カムルなど放っておき、オレと共に魔獣界の王・ルドルフ様の元へ来い。お前にさらなる深淵の闇の力を授けてやろう」
「ハッ、お断りだね」
ジンは即座にペッと唾を吐き捨て、二振りの黒剣を交差させて構えた。
「俺はシンのガキに、世界をひっくり返すって約束しちまったんでね。今さら魔獣界の犬になるつもりはねえよ!」
「……交渉決裂だな。ならば、少し遊んでやろう」
サタンが不敵に笑った瞬間、戦場に二つの圧倒的な『暗黒闘気』が爆発した。
――ガキィィィィィンッ!!!!!
激突する、師弟たる二人の魔剣。
ジンの猛烈な、嵐のような連撃に対し、サタンは片手だけで魔剣を扱い、すべての刃を完璧にいなしていく。格の違いは、誰の目にも一目瞭然だった。
ジンが血を吐きながらも、凄まじい気迫だけで喰らいついていくが、サタンはフッと動きを止めた。
「ククク、やはり楽しいな、お前との殺し合いは。……だが、遊びはここまでだ」
サタンは懐から、妖しく輝く『光のクリスタル』を取り出し、ジンに見せつけるように高く掲げた。
「オレの目的は達した。ルドルフ様の封印を解く鍵は、このオレの手にある。……神界の滅びを、せいぜい特等席で眺めるがいい」
「待て、サタン……ッ!」
ジンの鋭い制止も虚しく、サタンの背後に漆黒の次元の裂け目が出現する。
サタンは冷酷な笑みを残したまま、クリスタルを手に、一瞬にして魔獣界の闇へと消え去っていった。
「クソが……! 逃げ足だけは一級品だな……!」
ジンがチッと舌打ちをして剣を引き、忌々しげに地面を蹴る。
正面戦場が静まり返る中、再び、神界の遥か上空から、天地を真っ二つに割るような凄まじい地響きが鳴り響いた。
シンとライト――二人の宿命の死闘は、いよいよ引き返せない、魂の領域へと突入しようとしていた。
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