30話 神界全面戦争と二つの戦線
陰陽合一ノ神殺し~二刀の聖剣が一本の絆へと変わるとき~
シンが折れた天照の刀身を『日輪』と『月読』へとそれぞれ融合させ、そのまばゆい残光が神殿に収まった、まさにその直後のことだった。
――パキィィン!!!
聖霊の間の空間に再び紫黒の次元の裂け目が走り、中から白銀の光を纏った一人の女性が、命からがらといった様子で床へと倒れ込んだ。
「サーラ……っ!?」
ヒミコが、驚愕に目を見開いてその女性へと真っ先に駆け寄る。
賢者サーラは、その美しい法衣を激しく汚し、肩を大きく上下させて息を切らせながら、縋るようにヒミコの腕を掴んだ。
「ヒミコ、先生……っ! 助けてください……! 神界の地下が、大変なことに……!」
「落ち着きなさい、サーラ。一体何があったの?」
ヒミコが優しく手元から魔力を流し込むと、サーラは溢れそうになる涙を必死に堪えながら、神界で目撃した最悪の事態を、シンたちに向かって一気に吐き出した。
「ライトの妹の、ソフィアちゃんがカムルに捕まっています……! 理由は分かりませんが、彼女は大聖堂の地下深くにある禁忌区域の檻に幽閉されているんです……! 今も、魔法戦士のカイルが、ソフィアちゃんを守るために一人で無数の神兵を相手に戦っています……! でも、カムルの封印魔術が強すぎて、私の力じゃ檻を壊せなかった……! 先生、お願いです、みんなを、カイルを助けてください!」
「な、何だって……っ!?」
ジンやガイル、そしてバハムートたちが一斉に驚愕の声を上げた。
理由も分からぬまま、神カムルの地下牢に囚われてしまっていたソフィア。そして、彼女を守るために殿を買って出たカイル。カイルが命懸けで戦っている今、一刻の猶予もなかった。
「そういうことなら、私の出番ね。可愛い愛弟子のピンチを放っておくわけにはいかないわ。ユイ、モカ、ココア、貴女たちも来なさい。私たちはこれより神界の地下へ潜入し、カイルを助け、ソフィアを救い出す【隠密別働隊】を結成するわ!」
「はい! よろしくお願いします、ヒミコ先生!」
ユイは力強く頷き、モカとココアも「ボクたちのプチ魔法でカイルを助けに行くよ!」「お姉ちゃんたち、頑張ろう!」と小さくも勇敢に手を突き出した。
だが、問題はどうやって神界の目をその地下潜入から逸らすかだった。
その時、マスタードラゴンとバハムートが、同時に地響きのような猛烈な咆哮を上げた。
『別働隊が地下を動く間、神界の兵どもが地下へ向かわぬよう、正面から最大級の『陽動』を仕掛ける。我が龍神界とバハムート殿の幻獣界、全軍を以て神界へと宣戦布告し――【全面戦争】を勃発させる!』
ジンもまた、二振りの黒剣の柄をカチリと握りしめ、獰猛な笑みを浮かべた。
「ハッ、面白くなってきたじゃねえか。ガイル、行くぞ!」
「フン、全軍突撃だな。小僧、お前も遅れるなよ!」
大人たちの力強い言葉に、シンは自分の両手に宿る『日輪』と『月読』の柄を固く握りしめた。
その頃、天空にそびえ立つ神カムルの宮殿――。
最奥にある玉座の間で、カムルは龍神界から戻った腹心ドロスからの報告を受け、勝ち誇ったように醜く口元を歪めていた。
「ククク……ハハハハ! ついに神殺しの刀『アマテラス』は二つに折れたか! これで、このオレを倒せる存在は世界から完全に消え失せた! もはや何も恐れるものは無いわ!」
絶対の慢心。カムルは、天照の破片が少年の聖剣へと融合し、さらなる希望として再誕したことなど知る由もない。
カムルは玉座の前に倒れ伏していた勇者ライトの身体へ、まばゆい聖光の魔力を容赦なく浴びせた。その圧倒的な神の治癒によって、ガイルたちとの激闘で傷ついていたライトの肉体が、瞬く間に完全に塞がっていく。
「……う、あ……。俺は……」
ゆっくりと目を覚ましたライトに、カムルは高座から冷酷な命令を投げかけた。
「勇者ライトよ。お前の任務は見事であった。さあ、怪我は治してやったぞ。今、神界の門の前に、愚かな幻獣どもと龍神どもの連合軍が、全軍を率いて攻め込んできている。……行方不明のソフィアを無事に見つけ出したくば、お前が我が全軍の先頭に立ち、あの不届き者どもを一人残らず皆殺しにしてこい!」
「……御意に。カムル様の仰せのままに……。俺のすべてを懸けて、敵を討つ」
ライトは妹を救いたい一心で、再び聖剣エクスカリバーを強く握りしめ、烈火のような闘志を瞳に宿して立ち上がった。
カムルは全面戦争を自ら受けて立ち、神界の全兵力を正面の防衛線へと展開させる。
裏で結成され、暗闇の地下へと滑り込むヒミコたちの隠密別働隊。
正面の戦場から、世界の理を覆すほどの質量で激突する二大世界連合軍。
そして、どちらも「大切な者を救う」という絶対に負けられない理由を胸に、戦場で再び刃を交えようとするシンとライト。
すべての因縁と、世界の命運を巻き込んだ、神界全面戦争の火蓋が、今ここに切って落とされるのだった。
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