29話 失われぬ希望と陰陽合一
陰陽合一ノ神殺し~二刀の聖剣が一本の絆へと変わるとき~
「……ふぅ」
僕がゆっくりと目を覚ますと、そこはまだ蒼く神秘的な光が満ちる幻獣界の神殿――『聖霊の間』だった。
全身の細胞を駆け巡る、これまでとは比べ物にならないほど濃密で強大な魔力の波動。
右胸の『聖痕』を中心に、飛竜の剛力の力と鳳凰の静寂の力が、僕の魂と完全に一つになって脈動しているのが分かる。
「シン……! 目が覚めたんだね!」
ユイが涙を浮かべて僕の手を強く握りしめた。モカとココアも「シン、すごい強そうなオーラが出てるよ!」、「おめでとう、シン!」と大はしゃぎで僕の肩へと飛び乗ってきた。
バハムートとマスタードラゴンが、安堵したようにその巨体を静かに揺らす。
『見事だ、シン。己の器を以て、至高の二匹を完全に制御してみせたな』
僕が自らの手のひらを見つめ、過酷な試練の末に掴み取った「真の二刀流聖剣」の感覚を確かめていた、まさにその時だった。
――パキィィン!!!
聖霊の間の空間がガラスのように激しく割れ、次元の門から、ジンとガイルが転がり込むようにして帰還した。
しかし、二人の表情はいつになく険しく、殺気立っていた。
ジンさんは、古びた布に包まれた「二つの重い金属の塊」を、神殿の床へと静かに投げ出した。
「ジンさん、ガイルさん……! 龍神界での戦いはどうなったんですか……?」
僕が尋ねると、ガイルが琥珀色の瞳を血走らせ、忌々しげに喉を鳴らした。
「チッ、不覚を取ったわ。勇者ライトをギリギリまで追い詰めたが、奴の聖剣エクスカリバーの暴走によって『神殺しの刀』は破壊されてしまった。だが、その後だ。あの龍神界の腹心『ドロス』の野郎……あいつカムルと裏で繋がっていやがった。オレたちが折れた刀に気を取られている一瞬の隙を突かれ、気絶したライトを神界へと連れ戻された!」
「ドロスが、裏切り者……!?」
マスタードラゴンが激怒の咆哮を上げ、神殿全体が激しく揺れ動いた。
だが、それ以上に僕たちに衝撃を与えたのは、ジンが床の布を乱暴に広げた瞬間だった。
そこに転がっていたのは、無残にも真ん中から綺麗に二つへとへし折れてしまった、伝説の神殺しの刀『天照』の姿だった。
「そんな……アマテラスが、折れてしまったというのか……!」
「これでは……これではもう、カムルを倒す手段は世界から完全に失われてしまった……!」
集まっていた龍神たちが、深い絶望に声を震わせて天を仰いだ。せっかく僕が鳳凰と飛竜の力を覚醒させたのに、神を殺すための唯一の得物が失われてしまったのだ。
重苦しい絶望の空気が、神殿を冷たく支配していく。
しかし、その絶望を切り裂くように、ユイの師匠であるヒミコが、フッと妖艶な笑みを浮かべて一歩前に進み出た。
「ふふ、何をそんなに絶望しているのよ、王様たち。このままでは、確かにカムルを殺すことはできないわ。……でもね、『二つに折れた』のなら、話は別よ」
「……どういうことだ、ヒミコ」
ジンが怪訝そうに眉をひそめて尋ねると、ヒミコはまっすぐに僕を見つめた。
「シン。貴方のその覚醒した二振りの聖剣――『日輪』と『月読』を見せなさい」
「え……? はい!」
僕は言われるがまま、精神世界で真の姿へと進化させた二本の聖剣を現世に具現化させた。
右手に、飛竜の剛力を宿し紫黒の炎を吹き上げる巨大な大剣『日輪』。
左手に、鳳凰の治癒と月の凍気を宿す神聖な細剣『月読』。
「折れたアマテラスの『陽』の半身を、右手の『日輪』へ。
そして『陰』の半身を、左手の『月読』へとそれぞれ融合させるの。
貴方の中に宿るアデル様の加護と、ガイルから学んだ波動の調和があれば……二振りの聖剣を一つに合体させる『陰陽合一』が使えるはずよ」
ヒミコの言葉に、神殿にいる全員がハッと息を呑んだ。
「二つの折れた刀を、僕の二本の聖剣に宿して、一つに合わせる……」
僕はゆっくりと歩みを進め、床に転がる折れた天照の前に跪いた。
そして、右手を『陽』の破片へ、左手を『陰』の破片へとそれぞれかざし、優しく包み込むようにガイルさんから教わった波動の力を流し込んでいく。
――ジジジジ……!
折れた天照の刀身が、僕の具現化聖剣に応じるように眩い光を放ち、まるで液体のようにドロドロと溶けて、それぞれの刃へと吸い込まれていった。
日輪の紫黒の炎がさらに激しく狂い咲き、月読の絶対的な凍気がより一層鋭さを増していく。
「……すごい、アマテラスの力が、僕の剣の中に馴染んでいくのが分かる……」
『陰陽合一』――二振りの聖剣を真に一つに合わせ、己の力で天照を戦場に再誕させるための究極のシステム。
神殺しの刀は、決して失われてなどいなかった。
少年の二本の手の中に、より強大で確固たる希望となって、静かにその爪牙を研ぎ澄ましているのだった。
最後までお読み下さいましてありがとうございます。感想書いて貰えれば嬉しいです。 良い評価付けて貰えると励みになります。お願いします。




