2話 新たなる刺客
陰陽合一ノ神殺し~二刀の聖剣が一本の絆へと変わるとき~
力を使い果たし、荒い息をつくシン。だが、本当の絶望はここからだった。強大すぎるシンの目覚めの光は、より強力な『刺客』を呼び寄せていた。
「そこまでだ、悪魔の痣を持つ少年よ」
木々をなぎ倒し、白銀の甲冑を纏った男が現れる。
人間界最強と謳われる勇者一行の一人、魔法戦士カイルだった。彼は神カムルから「世界を滅ぼす悪魔を討て」との神託を受け、飛竜と鳳凰を殺しに来たのだ。
「飛竜と鳳凰と融合するとはこの少年はいったい何者なのだ。しかし 神の命に従い、聖獣の魂ごと君の息の根を止める」
「くそ……っ!」
シンはまだ力を上手く扱えない。二匹の魂は力だけを融合させて消滅してしまい、もう頭の中でアドバイスをくれることもない。カイルの放つ圧倒的な魔法剣の前にシンは防戦一方となり、瞬く間に全身を深く切り裂かれ、瀕死の状態で地面に倒れ伏した。
「これで終わりだ」
カイルが冷酷に、とどめの剣を振り上げた。その時、
「シン!!! どこにいるの、シン……っ!」
静まり返った夜の森に、少女の声が響いた。ユイだった。シンの身を心配して、夜の山奥まで探しに来てしまったのだ。
「ユイ……!? くるな、逃げろ……っ!」
シンの制止は間に合わなかった。カイルの振り下ろした魔法剣の残光が、シンを庇おうと飛び出してきた結依の身体を深く切り裂いた。
「……あ」
鮮血が夜の闇に舞い、ユイが力なく地面に崩れ落ちる。
「しまっ……!?」
カイルが驚愕の声をあげ、剣を引いた。民間人を巻き込むことは、彼の本意ではなかった。
だが、それ以上に、地を這っていたシンの内側から、世界を揺るがすほどの地響きのような怒りが湧き上がっていた。
「……よくも。僕の、たった一人の……ユイを……よくもぉぉぉッ!!」
ドクンッ!! とシンの右胸の聖痕が激しく脈打つ。
怒りに呼応して、シンは自分の意志で二本の剣を力任せに具現化させた。
「お前だけは、絶対に許さない――ッ!!」
シンは投げ出された野生の獣のようにカイルに斬りかかった。怒りの魔力で一時的にカイルを圧倒する。
「この少年は力はいったい…。」
だか、限界を超えた力の代償で、シンの視界が急速に暗くなっていく。
カイルが体勢を立て直し、再びシンへと剣を向けた。
「終わりだ少年、悪く思うな!」
勝負は決した――誰もがそう思った、その刹那。
――キィィィィン!!!
カイルの必殺の剣を受け止めていたのは、いつの間にかシンの前に立ちはだかっていた、古びた外套を纏う一人の男だった。
「……誰だ」
カイルが驚愕の目で見開く。自分の魔力剣を、ただの鉄の剣で事もなげに受け止める存在など、人間界にいるはずがなかった。
「神の犬に成り下がったか、勇者の仲間。相変わらず真面目すぎて、上の嘘も見抜けねえようだな」
男は渋い声を響かせ、太刀を一閃してカイルを力任せに弾き飛ばした。男は振り返り、倒れたユイを抱きしめるシンを見下ろした。
「俺の名はジン。……おい小僧、お前の左手の剣を見ろ。鳳凰は『不死と再生』の象徴だ。その剣の光を少女の傷口に当てろ!」
「頼む……助かってくれ、ユイ……っ!」
シンの必死の願いに呼応するように、左手の『月読』から温かい紅蓮の炎が溢れ出た。その炎がユイを包み込むと、深い傷口が見る見るうちに塞がっていく。ユイの命の危機は脱し、そのまま深い気絶へと落ちていった。
「魔法戦士、そいつを殺したけりゃ、もっと強くなって追いかけてきな」
ジンは不敵に笑うと、二振りの黒剣を抜き放ち、圧倒的な暗黒の波動で周囲の聖騎士たちを薙ぎ払った。そして、左手で懐から黒く濁った魔石を取り出し、地面に叩きつける。
パキィィン! と空間がガラスのように割れ、禍々しい紫黒の『次元の門』が口を開いた。
「人間界に未練はあるか? ないなら来い!」
「……ない。ユイが、ここにいてくれるなら、僕はどこへだって行く!」
シンは気絶したユイをしっかりと横抱きにすると、ジンの背中を追って、紫黒の闇が渦巻く次元の門へと迷わず飛び込んだ。行き先は、神カムルの支配が及ばない、弱肉強食の混沌の世界――『魔界』。
◆ (カイルの疑惑)
人間界から戻ったカイルは、まばゆい聖光に満ちた神界の中央神殿で、神の御前に跪いていた。
高座の御簾の向こう側から、冷徹な声が響く。
『――そうか。取り逃がしたか、カイル』
「……申し訳ございません。私の力不足です。しかし、少年に加担した男は、私の魔法剣を容易く受け流しました。神の御口から、あの男の正体をお教えいただけないでしょうか」
カイルは頭を垂れたまま、あえて疑問を口にした。
一瞬の、不自然な沈黙。
次の瞬間、御簾の向こうから放たれた強烈な「神威」が、重圧となってカイルの全身を押し潰した。
『お前は知らぬでよい』
「しかし…」
『カイルよ。お前は神の言葉を疑うのか?』
「く……っ! 滅相もございません……!」
床に伏せながらも、カイルの目は驚愕に見開かれていた。
いま、神カムルが放った魔力。その純白の輝きの奥底に、一瞬だけ、じっとりと肌にまとわりつくような「禍々しい魔気(闇)」が混ざっているのを、カイルは見逃さなかった。悪の影が、すでにこの時、神界の頂点に忍び寄っていたのだ。
(まさか、この御方は……本当に、我らが信じる『光の神』なのか……!?)
『少年は魔界の邪悪と結託した。勇者と共に魔界へ繋がる門を厳重に封鎖し、奴らが這い出てきた瞬間に確実に息の根を止めよ』
「……御意に」
カイルは拳を握りしめ、返答した。
(あの少年が持っていた二本の剣。あれは聖獣達の力……もし、騙されているのが、私たちの方だとしたら――)
人間界最強の魔法戦士カイルは、神カムルの命令に従うフリをしながら、独自に『世界の真実』を探ることを決意したのだった。
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