27話 魂の試練と二振りの具現化
陰陽合一ノ神殺し~二刀の聖剣が一本の絆へと変わるとき~
気がつくと、僕はどこまでも真っ白な、深い静寂の空間にぽつんと立っていた。
神殿を満たしていた激しい滝の水音も、ユイやヒミコ先生たちの話し声も、すべてが遥か遠くの世界へ消え去っている。
ただ、右胸の『聖痕』だけが、ドクンドクンと僕自身の心臓の鼓動よりも速く、そして熱く脈動していた。
(ここは……僕の心の中? それとも、アデル様の加護が遺された空間なのかな……)
バハムートさんとマスタードラゴンさんという、二大世界の理を震わせるほどの莫大な魔力。それに背中を強く押されるようにして、僕は自分の魂の最奥へと引き込まれたのだ。
その時、白い世界の虚空から、パチパチと空間を激しく焼き焦がすような黄金の雷光が奔り、同時にすべてを包み込むような温かく苛烈な紅蓮の炎が燃え上がった。
『――待っていたぞ、クソ度胸のあるガキ。よくここまで辿り着きおったな』
地響きのような、荒々しくもどこか懐かしい声。
『ええ、お待ちしておりました、シン。あなたが私たちの宿る聖痕を、真なる力へと変えるその時を』
炎と雷光の向こうから姿を現したのは、かつて肉体を失い、僕の魂と融合したはずの二匹の至高の存在――龍神界の『飛竜』と、幻獣界の『鳳凰』だった。
精神世界の中で巨大な霊体として顕現した二匹の圧倒的な威圧感は、外の世界で対峙したガイルさんやバハムートさんにも決して引けを取らない。
けれど、その瞳に宿っているのは敵意ではなかった。ただ、世界を神カムルから救うために、すべてを託した僕への『真剣な眼差し』そのものだった。
「飛竜……鳳凰……。あの日、ジンさんに助けられてから、僕は二人の力を借りて何度も戦ってきた。でも、まだその力を百分の一も引き出しきれていないんだ。……カムルを倒して、アデル様を救い出すために、僕に本当の力を貸してほしい!」
僕がまっすぐに二匹を見上げて叫ぶと、飛竜は黄金の牙を覗かせてクククと不敵に笑った。
『ハッ、言うじゃねえか。だが小僧、オレたちの力を完全に引き出すってことは、カムルに滅ぼされたあの日の幻獣たちの凄まじい無念、仲間を救えなかったオレたちの特大の後悔――そのすべてをお前の貧弱な肉体で、一生背負い続けるってことだぞ。そのハラは本当に据わってんのか?』
『私たちはただ、アデル様の加護を宿すあなたを信じて融合しました。しかし、カムルの力は絶大です。私たちの力を完全にあなたの意志で扱うためには、お前の魂の器がどれほど強固か、ここで示さねばなりません』
鳳凰の気高い声が、白い空間に厳かに響き渡る。
二匹の重い言葉に、僕はあの日、自分のすぐ目の前でカイルの魔法剣に斬りつけられ、鮮血を流して倒れたユイの姿を思い出していた。
あの時、僕の左手の剣から溢れた鳳凰の炎がユイの命を救ってくれた。でも、もし僕に最初からもっと力があれば、ユイが傷つくことなんてなかったんだ。
「……できてるよ。覚悟なら、ずっと前からできてる」
僕は右胸の脈打つ聖痕にそっと手を当て、まっすぐに顔を上げた。
「ユイを守るためなら、二人の無念だって、後悔だって、全部僕の身体に詰め込んで前に進んでやる。だから、試してよ! 僕は、絶対に負けない!」
僕の魂の叫びに呼応するように、両手のひらからカッと眩い光が爆発した。
右手に赤蓮の光が限界まで収束し、太陽の破壊と飛竜の剛力を宿す具現化聖剣『日輪』が姿を現す。
同時に左手には静謐な蒼氷の輝きが満ち、月の静寂と鳳凰の治癒を宿す具現化聖剣『月読』が実を結んだ。
紅と蒼、二振りの聖剣を固く構え、僕は飛竜と鳳凰へと向かって一歩、強く地を踏みしめた。
『ハハハ! いい眼だ! おい鳳凰、ガキの分際でオレたちを従えようってんだ、極上の洗礼をくれてやろうじゃねえか!』
『ええ。シン、あなたのその不屈の意志が本物か、私たちのすべての力を持って確かめさせていただきます!』
黄金の雷が世界を裂くように咆哮を上げ、紅蓮の炎が天を焦がすように舞い踊る。
外の世界で神殺しの刀『天照』が折れ、世界が未曾有の危機に直面しようとしているまさにその時――。
少年シンは真の力を掴み取るため、自身の魂を懸けた鳳凰と飛竜との最終試練へと、果敢に飛び込むのだった。
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