25話 決死の防衛線と繋がれる希望
陰陽合一ノ神殺し~二刀の聖剣が一本の絆へと変わるとき~
「ソフィアちゃん……っ!」
大聖堂の地下深く、冷たい闇の奥に設えられた薄暗い牢獄。
そこに、頑丈な鎖で繋がれ、力なく意識を失っている支援術師ソフィアの姿があった。いつも兄であるライトの横で、天真爛漫に笑っていた一行のムードメーカーの、あまりにも痛々しい姿。
「ソフィア……! 今助けてやる!」
カイルが白銀の魔剣を引き抜き、檻の格子を叩き斬ろうと一歩踏み出した。
しかし、刃が冷徹な格子に触れる寸前、カッと眩い純白の光――神カムルの呪印が浮かび上がり、大気を激しく震わせるほどの凄まじい神威の衝撃波が、カイルの屈強な巨体を容赦なく弾き飛ばした。
「くっ……あぁっ!」
白銀の甲冑が不快な金属音を立てて強固な壁に叩きつけられる。
「カイル! 大丈夫!?」
サーラが慌ててカイルへ回復魔法の光を飛ばしながら、その両手を冷酷な牢獄へと向けた。
「これほどの封印魔術……。右手で解呪の術式を、左手で魔力の出力を最大に……はあああっ!!」
サーラは自らの持つ特異な才能『マルチキャスト(多重詠唱)』の能力を限界まで引き出し、神の仕掛けた結界を力任せに抉り開けようとした。
しかし、偽りの絶対神カムルの術式はあまりにも強固で、底が知れなかった。純白の聖光の奥で、まるで生き物の影のような悍ましい闇の呪印がドクドクと脈打っている。
どれだけ膨大な魔力を注ぎ込んでも格子はびくともせず、逆に冷酷な拒絶の波動が、魔力を流し込むサーラの手のひらの皮膚をじりじりと焼き焦がしていった。
「だめ……っ、強すぎる……! 私たちの力じゃ、この光の皮を被った呪いはびくともしない……!」
サーラは激痛に耐えながら、初めて絶望にその表情を青ざめさせた。
――ウゥゥゥゥーーーーンッ!!!
その時、閉ざされた地下の回廊全体に、耳を突き刺すようなけたたましい魔導の警報音が鳴り響いた。結界に無理に触れたことで、侵入者の存在がカムル側に完全に露見したのだ。
遠くから、統率された無数の神兵たちの冷徹な足音が、こちらへと急速に近づいてくるのが聞こえる。
「チッ、ここまでか……!」
カイルは壁に手をついて泥臭く立ち上がると、魔剣に魔法の炎を限界まで激しく纏わせ、回廊の入り口へと毅然と背を向けた。
「サーラ、作戦変更だ。このままここにいても、三人まとめてカムルに消されるだけだ。俺がここで神兵どもを食い止める!」
「カイル、何を言っているの!? 貴方を置いていけるわけ――」
「お前しかいないんだ、サーラ!」
生真面目なカイルの、芯にある熱い叫びがサーラの言葉を強く遮った。
「神カムルの封印を破れる者が世界にいるとすれば、お前の師である、あの『ヒミコ』という規格外の魔導士しかいない! お前は一度この神界を退き、その足でヒミコの元へ向かえ! 助けを乞うんだ!」
「カイル……」
「頼む、ライトの妹を、ソフィアを救ってくれ。俺の命に代えても、ライトが戻るまでソフィアの身は俺が必ず守ってみせる!」
カイルの白銀の甲冑が、闇の向こうから迫り来る神兵たちの槍の光をパチパチと反射する。
その背中に、カイルという一人の騎士の、絶対に折れない誇りを見たサーラは、溢れそうになる涙を堪えて唇を強く噛み締め、深く頷いた。
「わかったわ、カイル。……死なないでね。絶対に、先生を連れて戻ってくるから!」
サーラは両手を天へと掲げ、ヒミコから直伝された最高位の退却用次元魔導を全力で紡ぎ始めた。
直後、神兵たちが怒涛の勢いで回廊へとなだれ込み、カイルの魔剣が激しい炎を撒き散らしながら、その一陣と真っ向から激突する。
「開け……ッ 先生の所に!!」
サーラの悲痛な叫びと共に空間が縦に大きく引き裂かれ、彼女の身体は眩い光の中に包み込まれた。
目指すは、かつて師が旅立った混沌の世界――シンたちが真の覚醒を待つ、幻獣界。
神界の命運を分ける決死の潜入劇は、カイルの孤独な防衛戦と、サーラの未来を繋ぐ必死の逃亡劇へと分かれていくのだった。
(ライト……どうか俺たちがソフィアを助け出すまで、生きて、持ちこたえてくれ……!)
遠く離れた親友の無事を心の中で祈りながら、二人の姿はそれぞれ、戦火と暗闇の奥へと消えていった。
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