24話 禁忌の地下迷宮と暴かれた欺瞞
陰陽合一ノ神殺し~二刀の聖剣が一本の絆へと変わるとき~
勇者ライトが龍神界で血を流しながら、孤独で壮絶な死闘を繰り広げている、まさにその裏で――。
まばゆい聖光に満ち溢れた神カムルの宮殿は、どこまでも冷徹な静寂が支配していた。
その光すらも届かない、大神殿の地下深くにある禁忌区域。
――コツ、コツ。
白銀の甲冑が立てる微かな音すらも極限まで消しながら、カイルは薄暗い回廊を慎重に進んでいた。その隣には、普段のおっとりとした佇まいからは想像もつかないほど、真剣な眼差しをした賢者サーラが並んで歩いている。
「カイル、この先よ。神兵たちの巡回ルートは、私が術式で攪乱しておいたわ。……でも、気をつけて。このエリアに満ちている光は、何かを無理やり『隠す』ために放たれている気がするの」
「ああ、分かっている。以前、俺が人間界でシンを取り逃がしたとカムル様に報告した時、御簾の向こうから放たれた神威の奥に、一瞬だけ禍々しい闇の気配が混ざっていた。あの時の俺の直感は、やはり間違いじゃなかったんだ」
カイルの騎士としての鋭い勘が、この神界の歪みを正確に捉えていた。
二人がさらに奥へと進むと、神カムルの紋章が禍々しく刻まれた、強固な魔導結界の施された鉄の扉が行く手を阻んだ。
「サーラ、頼めるか」
「ええ、任せて」
サーラは両手を、それぞれ重厚な扉へと突き出した。
彼女の持つ特異な才能――『マルチキャスト(多重詠唱)』。
右手から結界を強制解除する『解呪魔法』を放ち、同時に左手から周囲の魔力の流れを完全に欺く『隠蔽魔法』を放つ。
二つの異なる高等魔術が完全に同時に展開され、神の仕掛けた高度な偽装がみるみるうちに剥ぎ取られていった。
――パキィン……。
ガラスが割れるような美しい音が響き、結界が消滅した。
その瞬間、扉の向こうから、じっとりと肌にまとわりつくような、吐き気を催すほどの『禍々しい魔気(闇)』が激しく溢れ出してきた。
「っ……!? なんだ、この悍ましい気配は……! これが、光の神を自称するカムルの本性だというのか……!」
カイルは白銀の甲冑を怒りに震わせ、強烈な嫌悪感に表情を歪めた。
しかし、サーラはその闇の奥をじっと見つめ、ハッと息を呑んだ。
「カイル、待って。この禍々しい闇の、さらに一番奥の底から……微かに、暖かくて騒がしい魔力が聴こえるわ。不器用だけど、いつも私たちの身体を芯から温めて、前線へと押し出してくれた、あの優しい支援の光……!」
「まさか……ソフィアか!?」
「間違いないわ、ソフィアちゃんよ! 彼女、ここに生きて捕らえられている!」
サーラの言葉に、カイルは固く拳を握りしめた。
神カムルはライトに『刀を壊せばソフィアを総出で探してやる』と言いながら、実際には最初からソフィアをこの神殿の地下に幽閉し、都合のいい人質としてライトをパシリに利用していたのだ。
カイルの生真面目な騎士としての怒りが、静かに、しかし激しく燃え上がる。
「あの冷酷な偽神め……! ライトが龍神界で命を懸けて『神殺しの刀』を破壊し終えれば、用済みとなったソフィアは間違いなく消される。ライトの真っ直ぐな想いを利用し、弄びおって……っ!」
「カイル、すぐにライトを連れ戻さないと……! ライトは今、一人で、何も知らずに戦っているのよ!」
サーラが焦燥に声を震わせる。しかし、カイルは深くフードを被り直し、カチリと腰の魔剣の音を静かに響かせた。
「いや、俺たちが今から龍神界へ向かっても間に合わない。それに、ライトが刀の破壊を躊躇えば、ソフィアの命が危うくなる可能性もある。……サーラ、作戦変更だ。ライトが向こうで時間を稼いでくれている今こそ、俺たちの手でソフィアをここから直接救い出す」
「カイル……」
「仲間を、ソフィアを救うんだ。……そして、ライトの覚悟を無駄にはさせない」
騙されていたのは、自分たちの方だった。
本当の真実をその手に掴んだカイルとサーラは、囚われのソフィアを救い出すため、神カムルの膝元である大聖堂の地下へと、静かに武器を構えて深く突入していくのだった。
(ライト……どうか俺たちがソフィアを助け出すまで、生きて、持ちこたえてくれ……!)
遠く離れた戦友の無事を祈りながら、二人の姿は暗闇の奥へと消えていった。
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