21話 最強の出撃と龍神界の危機
陰陽合一ノ神殺し~二刀の聖剣が一本の絆へと変わるとき~
「――シン、己の魂を解き放て!」
バハムートとマスタードラゴンという、二大世界の王が放つ絶大な魔力が『聖霊の間』を神々しく満たしていく。シンはゆっくりと目を閉じ、自らの魂の奥底、深い精神世界へとその意識を沈めていった。
彼の身体の周囲には、鳳凰の放つ紅蓮の炎と、飛竜の放つ黄金の雷光が激しいつむじ風のように渦巻き、一歩でも近づけば肉体が消し飛ぶほどの強固で神聖な結界が張られている。
シンが真の覚醒へと足を踏み入れた、まさにその瞬間だった。
『――何だと!?』
シンに莫大な魔力を送り続けていた龍神王マスタードラゴンが、突如として驚愕にその巨大な黄金の瞳を見開いた。その全身を覆う金色の鱗が、激しい怒りと共に見る見るうちに逆立っていく。
「どうした、マスタードラゴン殿。集中を切らすな」
バハムートが冷静に声をかけるが、マスタードラゴンの声はひどく切迫していた。
『我が龍神界の眷属から、緊急の念話が入った……! 神カムルの授けし聖剣エクスカリバーを持つ『勇者』が、突如として我が世界に侵入したと! 奴の目的は、我が地の最奥に封印されしアデル様の遺産――『神殺しの刀』だ!』
「何だって……っ!?」
ユイが弾かれたように息を呑み、ヒミコも「カムルの奴、もうそこに目をつけたのね……」と美貌を険しく歪めた。
モカとココアは「ゆ、ゆうしゃ!? すごく強いやつが攻めてきたの!?」と互いに抱き合ってガタガタ震え始める。
『くっ……! 今すぐこの我が戻り、不遜な勇者を叩き潰してやりたいが……しかし、今ここで我が魔力の供給を止めれば、シンの精神世界は崩壊し、飛竜も鳳凰も、シンの魂ごと完全に消滅してしまう……!』
マスタードラゴンはあまりにも残酷な苦渋の決断を迫られ、ギリッと激しく歯噛みした。
幻獣王であるバハムートもまた、シンの覚醒を維持するために己の全魔力を注ぎ込んでおり、この神殿から一歩も動くことができない。
最大にして最悪の危機。
その時、神殿の壁に背を預けていたジンが、ふっと喉の奥で低く笑った。
「だったら、留守番は俺たちに任せな」
ジンは腰に帯びた二振りの黒剣の柄に手をかけると、古びた外套を翻してゆっくりと前に出た。
その全身から、神界の絶対的な光を見限った、底知れない『暗黒闘気』のオーラが静かに、そして禍々しく立ち上り始める。
「ジンさん……!?」
驚きを見せるユイたちを余所に、ジンは横で退屈そうに寝そべっていた黄金のキラーパンサーを、つま先で軽く蹴り飛ばした。
「おいガイル。いつまで寝たフリしてやがる。バハのおっさんの次は、龍神界のデカブツにでかい貸しを作るチャンスだぞ。……暇つぶしには丁度いいだろ?」
ガイルはのっそりと巨体を立ち上げると、琥珀色の瞳を獰猛に光らせてグルル……と喉を鳴らした。
「ハッ、ジンのクソ野郎に顎で使われるのはひどく癪だが……。現役の『勇者』とやらがどれほどのものか、元・幻獣王の我が直々に揉んでやるのも悪くねえな。ちょうど身体が鈍って欠伸が出そうだったところだ」
大切な弟子のために、最強の二人が前線へと立つ決意を固める。
「ヒミコ、ユイ。ここはお前たちがしっかり守れよ」
ジンに背中越しに「守れよ」と言われたユイは、怯えるモカたちを両腕でしっかりと抱きしめながら、迷いのない瞳で頷いた。
「はい……! シンは、絶対に私たちが守ります!」
ユイはヒミコの魔導書を強く握りしめ、二人の背中を見送る。
「行くぞ、ガイル!」
「フン、遅れるなよジン!」
ジンが懐から次元の魔石を取り出し、思い切り地面に叩きつけると、パキィィン! と空間がガラスのように割れ、龍神界へと直通する禍々しい次元の門が口を開いた。
二人は一切の躊躇なく、その次元の裂け目の中へと飛び込んでいく。
大切な弟子の未来を守るため、かつて神界を捨てた最強の二刀流ジンと、伝説の元・幻獣王ガイル。
かつて世界を揺るがした最強の大人コンビが、勇者ライトの待つ龍神界へと、いざ出撃するのだった。
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