20話 神界と勇者
陰陽合一ノ神殺し~二刀の聖剣が一本の絆へと変わるとき~
天空にそびえ立つ神カムルの神殿は、どこまでも冷徹な聖光に満ちていた。
その最奥、玉座の間。
世界の理を己の都合のいいように塗り替え、偽りの絶対神として君臨する『神カムル』の前に、一人の青年が重々しく跪いていた。
彼の名はライト。カムルから至高の聖剣『エクスカリバー』を授かった、この世界が讃える「人類の勇者」である。
カムルは冷酷な眼差しをライトへと向け、天から降るような声音で厳かに命じた。
「勇者ライトよ。お前に新たな任務を与える。龍神界の奥底に封印されている、一振りの刀を完全に破壊せよ。それは、失われた唯一神アデルを未だに崇める愚者どもが打った忌まわしき得物――『神殺しの刀』だ。お前が持つ聖剣エクスカリバーの絶対的な聖光を以てすれば、その闇の刀は塵一つ残さず消滅させることができるだろう」
ライトは何も言わず深く一礼し、静かに玉座の間を後にした。しかし、通路を歩く彼の心には、決して晴れることのない重苦しい雲が立ち込めていた。
神殿の真っ白な回廊に出たところで、ずっと柱の影で待っていた白銀の甲冑の青年――『魔法戦士カイル』が、ライトの前に一歩踏み出して引き止めた。
「ライト、待て。今のカムル様の命令、お前はどう思う。なぜ龍神界に眠る刀一振りを、神たる御方がそこまで恐れる? 何かおかしいとは思わないのか!」
カイルは正義感を何よりも重んじる真面目な騎士だからこそ、己の中に生じた神への不信感を、親友であるライトにぶつけずにはいられなかった。
あの日、「世界を滅ぼす悪魔」と信じてシンを殺しに行った時、シンを守ろうとした幼馴染のユイを深く切り裂いてしまった。民間人を巻き込むのは本意ではなかったカイルが驚愕する中、古びた外套の男――ジンが現れ、自分の放った決死の魔法剣を事もなげに素手で受け止めた。
そして、ジンに促されてシンが願った瞬間、シンの左手の『月読』から溢れ出た鳳凰の蒼き光が、ユイの絶望的な傷を一瞬で塞いだのだ。
あの時肌で感じた、本物の神アデルの慈愛に満ちた輝き。
そして、神カムルの放つ純白の神威の奥底に一瞬だけ見え隠れした、悍ましく禍々しい「魔気(闇)」を、カイルの鋭い感覚は見逃していなかった。
騙されているのは、自分たちの方ではないのか――と。
「そんなこと、俺にだって分からない……っ!」
カイルの鋭い追及に、ライトは悲痛な声をあげて顔を激しく歪めた。
二人が激しく揉めていると、異変を察知した賢者サーラが、長いローブの裾を揺らしながら慌てて回廊を駆け寄ってきた。
「二人とも、どうしたの? そんなに大きな声を出して……」
普段はおっとりとしたお姉さん気質のサーラが、心配そうにライトの肩にそっと手を置く。
ライトは、カムルから授かった聖剣『エクスカリバー』の柄を、指の関節が白くなるほど強く握りしめ、胸の内にある一番の痛みを吐き出すように叫んだ。
「カムル様から……命令を早くこなせば、行方不明のソフィアを神兵たちが総出で探してくれるって、そう催促されてるんだ……! ソフィアは、きっと……きっとカムル様に保護されているか、捕らえられているんだ……! だから、俺には疑問を持つ余裕なんてない! どんな命令だろうと、今は仕方なく従うしか、ソフィアを助け出す方法が無いんだよ……!!」
ライトの最愛の妹であり、一行のムードメーカーだった支援術師のソフィア。
彼女の行方を人質のように取られているライトには、立ち止まって考える選択肢など、最初から残されていなかった。
「ライト……!」
仲間思いなライトは、カイルたちの制止を振り切るように冷たく背を向け、一人で『神殺しの刀』が眠るという龍神界へと向かって、狂ったように飛び出して行ってしまった。
残されたカイルとサーラは、冷徹な聖光が差し込む誰もいない回廊で、重苦しい沈黙の中で顔を見合わせた。
「ライト……。ソフィアちゃんを想うあまり、完全に周りが見えなくなっているわね」
サーラは悲しげに目を伏せ、それから毅然とした表情で、自らの魔導書を胸の前でぎゅっと抱きしめた。
「カイル、貴方の言う通り、この神界は何かが狂っているわ。私の師匠であるヒミコ先生なら、こんな時にどう動くかしら……。ねえカイル、ライトが戻るまでの間、私たちはここで動くべきよ」
「……ああ、同感だ。神兵たちの監視は厳しいが、神カムルが俺たちに何を隠しているのか、あの絶対的な光の奥にある足元を徹底的に洗い出す」
魔法戦士カイルと、賢者サーラ。
二人はライトの後を追うのを一時踏みとどまり、この眩しすぎる光に満ちた神界の奥底に潜む「本当の闇」を暴くため――命がけの隠密調査を開始するのだった。
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