18話 魂の奥底の叫び
陰陽合一ノ神殺し~二刀の聖剣が一本の絆へと変わるとき~
幻獣王バハムートの静かな導きによって、僕は神殿の最奥にある『聖霊の間』へと足を踏み入れていた。
神秘的な蒼い光が満ちるその厳かな空間で、バハムートは静かに僕の前にその巨体を伏せ、再び僕の胸のあたりをじっと見つめた。
『お前の魂の奥底で泣いているのは、我が幻獣界の至宝……鳳凰だな』
その名をバハムートが口にした瞬間、僕の胸がカッと焼けるように熱くなった。
同時に、生まれつき僕の右胸にある、あの不気味で醜い『黒いアザ』が、まるで自らの意志を持つ生き物のようにドクンドクンと激しく脈動し始める。
今まで感じたことのない、激しい「怒り」と「悲しみ」が内側から濁流のように湧き上がってくる。それは僕自身の感情ではない――僕の魂と融合している鳳凰の、積年の無念の叫びだった。
バハムートの神聖な魔力に呼応するように、僕の脳裏に、かつて二匹の魂と初めて出会ったあの日の記憶が、強烈にフラッシュバックした。
暗転する幻獣界の空。
世界の理を強引に歪め、偽りの神として君臨した『神カムル』の容赦なき降臨。その恐るべき世界の異変にいち早く気づいたのは、幻獣界の鳳凰と、龍神界の飛竜――ただ二匹だけだった。
他の幻獣の仲間たちは、何が起きているのかさえ分からないまま、成す術なく次々と力尽き、消えていく。二匹は必死に抵抗し、天を焦がす炎を放ったが、大切な仲間たちを一人も救うことができなかった。
命からがら肉体を捨て、魂だけで人間界へと逃げ延びた二匹が、まだ無力な子どもの僕の前に現れた、あの絶望の瞬間。
『チッ……こんなところに人間だと……? おいお前、オレたちの姿が見えているのか……!?』
荒々しいが、どこか弱り切った飛竜の声が、僕の脳内に直接響いた。
『まさか、この少年の右胸……。失われたはずの『本当の御方』の加護が眠っている……?』
鳳凰の気高い声が、驚きに震えていた。
しかし、傷ついた二匹に隠れる猶予などなかった。追ってきたカムルの『神兵』たちが、標的を僕から二匹の魂へと変え、無慈悲に武器を振り上げる。
『ここまで、か……。神界も、人間界も、すべて奴の手に……』
絶望し、目を閉じる鳳凰。
その時、幼い僕の胸の奥で、今まで感じたことのない熱い衝動が突き上げてきた。僕の右胸の黒いアザ――幽閉された本物の神『アデル』の恩恵が、未来を託すべき二匹の魂を受け入れるように、暗闇の中で激しく輝いたのだ。
それを見た二匹は、僕のクソ度胸とアデルの加護に、全てを賭ける決意をした。
『……ハッ! 気に入ったぜ、クソ度胸のあるガキだ! おい鳳凰、オレたちの最期の力、こいつに賭けるぞ!』
『ええ、喜んで。少年――いえ、シン。私たちの力を、あなたの意志で扱いなさい!』
二つの眩い光が、僕の胸へと飛び込む。
融合した瞬間、爆発的なエネルギーが僕の身体を駆け巡った。右胸の黒いアザが、まばゆい金色と紅蓮の光を放ち、竜の鱗と鳳凰の羽が美しく折り重なった『聖痕』へと生まれ変わったのだ。
「うっ……、くそっ……! 胸が、熱い……!」
あまりにも重すぎる感情の奔流と、右胸の『聖痕』から溢れ出す膨大な熱量に、僕は胸を強く押さえてその場に膝をついた。
ユイが「シン!?」と顔を青くして駆け寄ろうとするが、ガイルがそれを大きな前足で制した。ガイルもまた、琥珀色の瞳を険しく光らせ、僕の右胸の聖痕を凝視している。
「あの誇り高き鳳凰が、魂だけにされて人間に縋るしかなかったか。……だが小僧、お前のその右胸にある聖痕、ただの呪いじゃねえな。カムルの野郎すら怯むほどの、本物の神アデルの気配がしやがる」
バハムートは悲痛な、しかし確かな希望を見出した眼差しで、僕の魂と聖痕の輝きを見つめていた。
『かつての戦友の無念、しかと受け取った。そしてシン、お前がその生まれ持った『アデルの恩恵』、あるいは竜と鳥の羽が重なる『聖痕』を以て、鳳凰の悔しさを背負う器であるなら……我が全魔力を以て、その魂の檻を開放しよう』
バハムートが大きな蒼き翼を広げると、周囲の光がさらに輝きを増した。
『今からお前の精神世界へ干渉する。そこにいる鳳凰の無念を、絶望を、お前自身の波動で包み込み、聖痕に宿る真の力へと変えてみせよ。己の心に飲まれるなよ、シン』
「はい……! あの日、二匹が僕に賭けてくれた想いも、鳳凰の無念も、全部僕の力に変えて前に進みます!」
僕は溢れそうになる涙をグッと拭い、まっすぐにバハムートを見据えた。
右胸の聖痕に眠る鳳凰の、哀しき、しかし大いなる覚醒の儀式が今、始まろうとしていた。
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