17話 幻獣王バハムート
陰陽合一ノ神殺し~二刀の聖剣が一本の絆へと変わるとき~
前王の洗礼たるゴーレムたちを撃破し、開かれた岩壁の先を進む。
霧の向こうへと足を踏み入れた僕たちの前に姿を現したのは、天をも突くほど巨大で、あまりにも荘厳な白亜の神殿だった。
ここが、幻獣界の最深部――現・幻獣王バハムートの居城。
「うわあ……もの凄く大きいね、シン」
「うん、圧倒されるよ……」
僕とユイがその圧倒的なスケールに息を呑んでいると、神殿の巨大な門の前に、一筋の凄まじい雷光が天空から激しく落ちた。
――バリバリバリッ!!!
激しい青白い火花が散る中から姿を現したのは、全身を漆黒の竜鱗の鎧で包んだ、屈強な幻獣の守護騎士だった。
その手に握られた巨大な槍からは、先ほどのゴーレムたちとは比べ物にならないほどの、濃密で鋭い魔力が容赦なく溢れ出ている。
「そこまでだ、人の子らよ。ここから先は幻獣王バハムート様の絶対領域。何人たりとも、立ち入ることは許されん」
守護騎士の兜の奥から覗く鋭い眼光が、僕たちをピシャリと射抜く。
モカとココアが「ひゃあ! 本物の竜騎士だよ!」と情けない声を上げてユイの背後に隠れた。
しかし、その守護騎士の視線が、僕たちの後ろに佇む黄金のキラーパンサーに留まった瞬間、その強靭な身体がびくりと激しく強張った。
「……そ、その姿は、先代の幻獣王、ガイル様……!? なぜ人間の子供などに手を貸し、このような場所に……!」
ガイルは歩みを止めることなく、のっそりと前に出ると、退屈そうにフンと鼻を鳴らした。
「おいおい、相変わらずあのトカゲ野郎の部下は融通が利かんな。用があるから通らせろ。それとも、我が力ずくでその門ごと叩き潰してやろうか?」
「くっ……! いかに先代の王と言えど、バハムート様への事前の許可なき立ち入りは、この私が命に代えても防ぎます!」
守護騎士はガチガチに緊張し、冷や汗を流しながらも、ガイルに向かって必死に槍を構え直す。
一触即発の不穏な空気がその場に流れ、僕は思わず『日輪』と『月読』を具現化しかけた――その時だった。
『――そこまでにせよ、我が忠義の騎士よ』
突如、神殿の奥深くから、世界の理そのものを心地よく震わせるような、深く荘厳な声が響き渡った。
同時に、固く閉ざされていた白亜の門がゆっくりと開き、中から圧倒的な、けれど不思議と少しも威圧感を感じさせない、温かく澄んだ魔力が溢れ出てくる。
「ば、バハムート様……!」
守護騎士が慌てて槍を引き、その場に深く跪いた。
僕たちが身構えていると、眩い光の向こうから、ゆっくりと姿を現したのは、神々しい蒼き鱗を纏った、息を呑むほどに美しく巨大な竜――現・幻獣王バハムートだった。
バハムートはその静かで知性あふれる瞳で僕たちを見つめると、驚くほど穏やかな笑みを浮かべた。
『遠路はるばるよく来たな、人の子よ。そして先代の王ガイル殿、あなたがこうしてまた足を運んでくれたこと、嬉しく思うぞ』
「フン、相変わらず甘っちょろいトカゲだな、バハムート。この小僧がジンに頼まれて、お前に用があるって言うから、暇つぶしにここまで連れてきてやっただけだ」
元王から相変わらずの「トカゲ」呼ばわりをされても、バハムートは気を悪くする風でもなく、フフフと大らかに笑っている。
『構わんさ。……しかし、シンと言ったな。お前が何も語らずとも、その魂を見れば、ここへ至った全てが私には伝わってくるぞ』
バハムートの静かな瞳が、僕の胸のあたりを深く、優しく見つめた。
その眼差しはどこまでも温かく、しかし同時に、これから始まる大いなる宿命の重みを感じさせるものだった。
『お前の魂の奥底で、かつての我が戦友が泣いているな……。皆を奥へ案内しよう。話はそこからだ』
現・幻獣王バハムートの、あまりにも温かい迎え入れ。
僕たちは守護騎士の驚愕の視線を背中に浴びながら、開かれた白亜の門をくぐり、未知なる神殿の奥深くへと静かに進んでいくのだった。
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