15話 幻獣王
陰陽合一ノ神殺し~二刀の聖剣が一本の絆へと変わるとき~
虹色リンゴでしっかりとお腹を満たした翌日。
僕たちは再び、現・幻獣王バハムートの待つ最深部を目指して歩き出していた。
進むにつれて周囲の霧はだんだんと濃くなり、時折、遠くの地平から大気を激しく震わせるような強力な幻獣の遠吠えが聞こえてくる。
僕は前を歩く、気高き黄金の巨大な背中を見上げ、ずっと気になっていた疑問を尋ねてみた。
「あの、ガイルさん。現・幻獣王のバハムートさんって、やっぱりものすごく強い人なんですか……?」
僕の問いかけに、ガイルは歩みを止めることなく、フンと鼻で笑った。
「強い? 誰がだ。あのトカゲ野郎がか?」
「ト、トカゲ野郎……?」
僕とユイは思わず顔を見合わせた。一界を統べる現・幻獣王に対して、あまりにも不敬すぎる呼び方だったからだ。
「ガイル様、バハムートって今の幻獣界のトップでしょ? そんな言い方したら怒られちゃうよ?」
「そうだよ! ボクのプチ・サンダーの百倍くらい強いんじゃないの?」
ユイとモカが恐る恐る口を開くと、ガイルは喉の奥で、低く凶暴に笑った。
「現・幻獣王などと偉そうに玉座にふんぞり返っているがな、あんなものは我が王の座を放り投げたから、代わりに就いただけの若造に過ぎん。我が現役だった頃は、あいつがどれだけ束になってかかってこようが、前足一本で捻り潰してやったわ。今の奴の力など、オレの全盛期の足元にも及ばんさ」
元・幻獣王としての、絶対的なプライドと余裕。
バハムートを完全に格下と見なしているその口ぶりに、ココアが「お、王様の上下関係って怖いのね……」と小さく身震いしている。
「……ま、あの生真面目なトカゲ野郎なら、お前の中の鳳凰を目覚めさせる手伝い(パシリ)くらいには丁度いいだろう。早く会いたければ、無駄口を叩かずに足を動かすことだな」
ガイルが再び歩み出そうとした、その時だった。
ゴゴゴゴゴ……!!!
突如として、行く手の地面が激しく揺れ動き、巨大な岩の壁が僕たちの進路を完全に塞ぐように次々と競り上がってきた。
同時に、岩の隙間から、バハムートの紋章を怪しく刻んだ無数のゴーレム(守護魔獣)が、重々しい足音を立てて姿を現す。
「きゅ、きゅ、敵だよ! ものすごく強そうだよ!」
「モカ、私の後ろに隠れて!」
モカとココアが身を挺してユイを守る。ユイはすぐにヒミコの魔導書を開き、凛とした表情で魔力を練り始めた。
一方、ガイルは競り上がった岩の壁を一瞥すると、退屈そうに大きなあくびをした。
「チッ、バハムートの奴、自分のナワバリの入り口にこんな小細工を仕掛けていやがったか。……おい小僧、ここはお前たちの出番だ」
「えっ、ガイルさんは戦わないんですか?」
僕が二振りの聖剣を具現化する準備をしながら尋ねると、ガイルは近くの岩の上にドサリと寝転がった。
「我が本気を出せば、このエリアごとバハムートの仕掛けなど一瞬で消し飛ぶ。だが、それじゃお前の修行にならんし、何よりオレの暇つぶしにならん。……さあ、ガイル直伝の波動と、ジンの暗黒闘気、その二つの二刀流を見せてみろ」
ガイルの不敵な笑みに背中を押され、僕は足を踏み込んだ。
右手に『日輪』、左手に『月読』を同時に具現化させる。紅と蒼、そして修行で掴んだ紫黒の光が、濃い霧を鮮やかに切り裂いた。
「いくよ、ユイ、モカ、ココア! 僕たちの力で、この関門を突破しよう!」
現・幻獣王が仕掛けた最初の洗礼に対し、僕たちは武器を構え、一斉に戦場へと飛び出した。
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