14話 乙女と聖獣のドタバタ収穫祭
陰陽合一ノ神殺し~二刀の聖剣が一本の絆へと変わるとき~
「よし、僕はガイルさんとこの先のルートを偵察してくるから。ユイ、モカたちを見ててね」
「うん、任せて。気をつけてね、シン」
シンとガイルの二人が深い霧の向こうへと姿を消し、静まり返った幻獣界の街道に残されたのは、ユイと二匹の聖獣だけになった。
だが、静かになった途端――。
――ギュルルルルルゥ……。
モカとココアの小さなお腹が、同時に情けない音を立てて鳴り響いた。
実を言うと、朝から歩き通しだったユイもお腹がペコペコだったのだ。
「ユイ、お腹すいたぁ! もう一歩も動けないよぉ!」
「モカはいつも食べることばっかり。……でも、ココアもお腹すいちゃった」
モモンガのような姿をした二匹が、シンの前では隠していた人間の言葉を普通に使って、ユイにぶうぶうと文句を言い始める。
「あはは、ごめんね。でも、シンたちが戻ってくるまで我慢……ん?」
なだめようとしたユイの手が、ふと止まった。
視線の先、少し離れた険しい岩肌の特等席に、まるで宝石のようにキラキラと七色に輝く、幻獣界の特産フルーツ『虹色リンゴ』がたわわに実っていたのだ。
「わあ、美味しそう……! よし二人とも。シンたちが戻ってくる前に、私たちがこれをたくさん獲って驚かせちゃおう!」
「いいね! ユイ、ボクのカッコいいところを見せてあげるよ!」
「もう、モカ、調子に乗ると怪我するよ?」
ユイはさっそく腰の魔導書を広げ、意気揚々とフルーツ狩り作戦を開始した。
だが、ここは未知の生命が蠢く幻獣界。その虹色リンゴの木は、人間が近づいた気配を察知した瞬間、不気味にうねりながら、意思を持った太いツルを触手のように何本も伸ばしてきたのだ。
「ええっ!? 木が動いた!?」
ユイが慌てて魔導書のページをめちゃくちゃにめくる。
「え、えっと、動きを止める魔法は……あ、これだ! 『足枷』……あぅっ!」
あまりのパニックに、ユイは呪文の最後で派手に舌を噛んでしまった。『足枷』は紐状の魔法を絡みつかせる魔法である。しかし、不完全な魔力で発動した魔法は木のツルではなく、なぜかユイ自身の足元へと容赦なく絡みつき、ユイはその場で盛大にすっ転んでしまう。
「あぶないっ! ユイ、ボクに任せて!」
正義感の強いモカが果敢に前に躍り出た。短い手を力いっぱい前へと突き出す。
「くらえぇ! 『プチ・サンダー』!!」
パチパチパチ! と手から放たれた電撃は、見事に迫り来るツルに命中――したかに見えた。
しかし、そのツルはゴムのような弾力で電気を完全に弾き返し、あろうことか雷撃はそのままモカ自身へと跳ね返ってしまった。
「ぎゃあああ! 痺れるぅぅん!」
ガクガクと震え、一瞬で消し炭のようになるモカ。
「モカ、しっかりしてっ! 『プチ・ヒール』!」
ココアが慌ててモカに駆け寄り回復魔法を放つ。そして手からサポートの魔法のを『浮遊効果』をモカに向かって放つ。
「モカ、宙に浮いて攻撃だよ!」
しかし、焦ったココアの魔力が暴走し、サポートの『浮遊効果』がなぜか横で起き上がろうとしていたユイに直撃してしまった。
「ひゃあ!? 体が浮いちゃうーー!?」
フワフワと宙に浮き上がり、空中でおぼれるように手足をバタバタさせるユイ。そこへ、怒り狂った木のツルがユイを捕まえようと一斉に触手を伸ばしてくる。
「もう、こうなったらヤケクソだよ! モカ、電気じゃなくて火の魔法! ココアは私の背中を押して!」
宙に浮いたまま、ユイは腹を括って魔導書をガシッと構えた。
制御が難しすぎる最高峰の魔導書は、ユイのパニックと高揚に呼応してページを激しくめくり輝く。
ココアが「えいっ!」と宙に浮くユイの背中を全力で押すと、ユイはツルの猛攻を空中ステップでひらり、ひらりと華麗に回避(?)した。
正気に戻ったモカが、今度は両手を必死に突き出す。
「今度こそ! 『プチ・ファイア』――だよぉぉ!!」
ピピピッと手から放たれた小さな火の粉が、熱を嫌うツルの動きを綺麗に牽制する。ツルが動きを止めた瞬間、
「そこだっ! 『突風』!!」
ユイが魔導書から放った鋭い風の魔法が、虹色リンゴの枝を綺麗に揺らした。
ポロポロポロ! と、大量の輝くリンゴが雨のように空から降ってくる。それをユイたちは、服の袖や小さな手、頭の上まで使って必死にキャッチした
しばらくして。
先の偵察から戻ってきたシンとガイルは、目の前のあまりにもカオスな光景に、呆然と立ち尽くした。
そこには、髪に葉っぱをたくさんつけ、顔を果汁で盛大に汚したユイが、両手いっぱいにリンゴを抱えて「どうだ!」と言わんばかりのドヤ顔で立っていた。
その頭の上では、同じくドロドロになったモカとココアが、誇らしげに胸を張っている。
「……ユイ? 一体何があったの、その格好……」
シンが引き攣った笑顔で尋ねると、ユイはふふんと鼻を鳴らした。
「ふふーん、お土産だよシン! 幻獣界のフルーツ、私たちがぜーんぶ収穫しちゃったんだから!」
「ボクのプチ・ファイアが大活躍したんだよ!」
「もう、モカは最初に自爆したでしょ」
あまりのドタバタぶりに、元・幻獣王ガイルは大きな前足で顔を覆い、呆れたように深いため息をついた。
「やれやれ……目を離した隙にこれか。本当にジンの連れは、どいつもこいつもうるさくて退屈させん奴らばかりだな」
ガイルには呆れられ、シンには笑われながらも、その日の夜に焚き火の傍らでみんなで食べた虹色リンゴは、頬が落ちるほど甘くて美味しかった。
激しい試練の合間、シンたちの旅路に、賑やかで温かい笑い声がいつまでも響き渡るのだった。
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