13話 次なる目標
陰陽合一ノ神殺し~二刀の聖剣が一本の絆へと変わるとき~
◆ 焚き火を囲んで
滝切り修行を終えた、その日の夜。
極限まで消耗したシンの体力を回復させるため、一行は滝壺の近くの岩陰で、焚き火を囲んで夜を明かすことになった。
パチパチと心地よい音を立てて爆ぜる炎の横で、道中を大はしゃぎで案内してくれたモカとココアは、すでに丸くなって気持ちよさそうに小さな寝息を立てている。ユイはパチパチと火の粉が舞う傍らでヒミコの魔導書を開き、今日展開した『障壁』の感覚を忘れないよう、熱心に呪文の復習をしていた。
シンが静かに目を閉じ、今日掴んだ二振りの聖剣と波動が混ざり合う感覚を頭の中で反芻していると、暗闇の向こうからガイルの琥珀色の瞳が怪しく光を放った。
「おい、小僧」
「あ、ガイルさん。どうしました?」
ガイルは巨大な身体を横たえたまま、低く地鳴りのような声で問いかけてきた。
「ジンの手紙には『暇なら手伝ってやれ』としか書かれていなかったが……。お前たち、本当は何のためにこの幻獣界へ来た? あの偏屈なジンの弟子だ、ただの観光に来たわけではあるまい」
その重々しい言葉に、ユイも開いていた魔導書をそっと閉じ、シンをじっと見つめた。
シンは揺らめく焚き火の炎を見つめ、静かに、けれど心の奥底にある強い意志を込めて言葉を返した。
「……僕の魂の奥には、鳳凰と飛竜の力が融合して眠っています。でも、今の僕の技術じゃ、その力を全然引き出しきれていない。……ガイルさん、僕の中に眠る『鳳凰の力』を完全に覚醒させるには、どうすればいいですか?」
ガイルの立派な眉が、ピクリと小さく跳ねた。
シンが自分自身の口から、魂の奥底に眠る真の力の正体について言及したからだ。
「ほう。己の奥にある力を引き出したいのか。……いいだろう、教えてやる。その鳳凰の力を完全に目覚めさせ、お前のモノにする方法はただ一つ。現・幻獣王である『バハムート』に会うことだ」
「現・幻獣王……バハムート……!」
初めて聴くその偉大な名に、シンとユイは思わず息を呑んだ。
元・幻獣王であるガイルの後に、今の幻獣界を絶対的な力で統べているという最強の存在。
「あいつの絶大な魔力による導きがなければ、お前の中の鳳凰が真に目覚めることはない。だがな小僧、バハムートがいるのは幻獣界の最深部。並大抵の覚悟では、辿り着く前に命を落とすぞ」
ガイルの放つ、嘘偽りのない本物の威圧感が場を支配する。しかし、シンは一切怯まなかった。
「命を落とす覚悟なら、ジンさんのスパルタ修行の時からとっくにできてます。バハムートに会えるなら、どんな危険な場所だって行きます」
まっすぐに自分を見つめ返すシンの濁りのない瞳を見て、ガイルは一瞬呆気にとられた後、ククク……と喉を低く鳴らして笑い始めた。その笑い声は次第に大きくなり、獰猛な肉食獣のそれへと変わる。
「ハハハ! いい眼だ。ジンのクソ野郎にそっくりだな」
ガイルはゆっくりと巨体を立ち上げると、シンたちの前に進み出た。
「いいだろう。ちょうど退屈で死にそうだったところだ。バハムートの野郎にも久々に顔を見せてやりたいと思っていた。……暇つぶしだ、お前たちのその無謀な旅、この我が直々に最深部まで付いて行って案内してやる」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
シンが嬉しそうに声を上げると、その声に眠っていたモカとココアも「何?どうしたの?」とパチッと目を覚まし、まるでガイルの同行を大歓迎するようにパタパタと尻尾を振った。
「言っておくが、我が付いて行くからといって道中の甘えは許さんぞ。移動中も波動の特訓は容赦なく続けさせるからな」
「望むところです!」
シンは不敵に笑ってみせた。
頼もしすぎる前・幻獣王という文字通りの『最強の仲間』を得て、進むべき旅の目的は完全に定まった。
翌朝。
怪樹の森の隙間から、昇り始めた幻獣界の美しい太陽が一行を優しく照らし出す。
シンたちはまだ見ぬ現・幻獣王バハムートの待つ最深部を目指し、力強くその第一歩を踏み出すのだった。
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