10話 繋がれた絆と波動の目覚め
陰陽合一ノ神殺し~二刀の聖剣が一本の絆へと変わるとき~
「我が一撃、耐えてみせよ!」
ガイルの地響きのような咆哮とともに、巨大な前足が凄まじい風を切り裂いてシンへと振り下ろされた。
それは訓練用の手加減などではない。まともに喰らえば、一瞬で肉体が消し飛び、骨が砕け散るほどの本気の殺気と威圧感だった。
「しまっ――!?」
滝の前で波動の感覚を掴みかけていたシンだったが、元・幻獣王のあまりの速度に、防御の構えが一瞬だけ遅れる。鋭い爪が眼前に迫り、死の予感がシンの脳裏をよぎった、その刹那――。
「シン、危ないっ!」
鋭く叫んだのはユイだった。
ユイは瞬時に懐から、ジンの相棒であり高名な大魔導士でもある『ヒミコ』から譲り受けた美しい魔導書を取り出し、勢いよくページを開いた。そこに刻まれた古代の魔導文字が、ユイの必死の魔力に応じるように淡く発光する。
「ヒミコ先生に教わった力……ここで負けるわけにはいかない……! 『障壁』!!」
ユイが魔導書に手をかざして叫ぶ。シンの前に一瞬にして展開された幾重もの光の盾が、ガイルの放った凄まじい前足を真っ向から押し留めた。
しかし、元・幻獣王のパワーは常軌を逸していた。ギチギチと軋んだ音を立てたかと思うと、光の障壁は一瞬でバリンとガラスのように砕け散ってしまう。
「回復!!」
だが、そのユイが作ってくれた、わずか一秒に満たない一瞬を、小さな聖獣の二匹が見逃さなかった。
ココアがシンの肩へと鋭く飛びつき、小さな手をかざして神聖なサポート魔法を放つ。シンの身体から重みが消え去り、五感が限界を超えて研ぎ澄まされていく。
さらに、モカがシンの前に怯まず躍り出ると、小さな手の先からバチパチと炎を放った。
「プチ・ファイヤーッ!!」
ガイルの目の前で激しい閃光と爆発が弾け、さしもの元・幻獣王も「ぬっ……!?」と一瞬だけその動きを止めた。
「みんな……ありがとう!」
仲間たちが命懸けで繋いでくれた、絶妙な数秒間。
シンの体内で、ついに全ての歯車が噛み合った。
ジンのもとで培った暗黒闘気を、ユイたちの優しさに触れて目覚めた温かい波動がしなやかに包み込んでいく。
それだけではない。シンの魂の奥底に融合し、静かに眠っていた強大な二つの気配――『鳳凰』と『飛竜』が、波動の真の目覚めに呼応するように、一瞬だけ激しく脈動した。
「これが……オレたちの力だァァァッ!!」
シンはカッと目を見開き、体内の全エネルギーを外部へと一気に解放した。
鳳凰と飛竜の神聖な気配を宿した、透き通るような、しかし何者にも絶対に破れない強固な波動の鎧が、シンの身体を完全に覆い尽くす。
ドガァァァァンッ!!!
ガイルの巨大な爪が、シンの展開した波動の盾と正面から激突した。凄まじい衝撃波が走り、滝壺の周囲の木々が激しく揺れ、周囲に深い土煙と爆風が吹き荒れる。
「……ほう」
激しい土煙がゆっくりと晴れていく。
そこには、ガイルの本気の一撃を、その身に纏った波動だけで完璧に防ぎ切り、びくともせずにしっかりと大地を踏みしめて立つシンの姿があった。
そのシンの背後に、一瞬だけ、天を焦がす炎を纏う鳳凰と、空間を裂く飛竜の巨大な幻影が重なって見えた。
「――ッ!?」
元・幻獣王ガイルは、その光景に琥珀色の瞳を大きく見開いた。
ガイルは静かに前足を引くと、満足そうにフッと鼻を鳴らす。
「見事だ。ただの波動ではないな……お前の奥底に眠るあの力、まさか……。ふん、テストは合格だ、小僧ども」
元・幻獣王すらも驚愕させた、シンの測り知れない潜在能力。
そして、過酷な世界を共に生き抜くユイや聖獣たちの絆。
こうしてシンは、仲間たちと共に幻獣界を生き抜き、神カムルを討つための、最初の確かな切符を手に入れたのだった。
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