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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第2部 華やかな北の都 第3章 イルマの物語

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第99話 スポ根のイルマ

 王国歴162年12月22日 午前7時 帝国騎士団 訓練施設にて――


「中隊長、自分に本流って奴を教えてくれ」


 朝一番にイルマは中隊長のヨークトルをつかまえ、剣の基礎訓練に取り組みたいことを伝えていた。


「本気か?」

「ああ、本気だ。このままだと誰にも勝てないんだろ?」

「多分な」


 それでは騎士団に入った意味がない。


「基礎訓練は退屈なことが多いぞ。それに体力も使う。もう一度聞く、本気だな?」

「うん」


 そう言うとヨークトルの目をじっと見つめる。


「分かった。じゃあ、基礎体力練習が終わったら教えてやろう」

「よっしゃあ!」


 ガッツポーズをすると他の隊員たちに混じって、石を持ち上げるイルマだった。体力練習が終わるとヨークトルは木刀をイルマに手渡す。周りの隊員たちは汗を拭いながら、興味深そうに二人の様子を眺めていた。


「まず基本の構え方だ。剣を頭上に掲げ、その傾きは斜めにする」


 そう言いながらヨークトルは手本を示し、イルマはそれを真似する。


「今度は剣は顔の高さに掲げ、耳の横に両手があるようにする。剣の傾きは地面に対して垂直にする」


 またヨークトルは手本を示し、イルマも見よう見真似で同じ型にする。


「これはグブズムンドル式剣術の基本4種の構えだ。これは、攻撃と防御の両方に優れている」

「こんな簡単なことが本流ってやつかい?」


 これで強くなれるとは到底思えなかった。頬をあげて笑ったヨークトルは、よく見るようにと言いながら人型の的を用意させる。木の棒の周りを藁で覆った案山子のようなものが運ばれてくる。その間にヨークトルは木剣をロングソードに持ち替えていた。


「いいか、先ほどの構えで左足は前。足は肩幅ぐらい開く。全身はリラックスさせておけ」

「うん」

「右足を前に出しつつ上方から斜め下に切り下げる!」


 剣がごうっと唸りを上げて的を斜めに切り下げた瞬間、ガンと音を立てて2つに割れる。周りの騎士たちから感嘆の声が上がる。


「簡単なように見えるが長い修練が必要だ」


 目を輝かせたイルマは、じっとその的を眺めていた。


「とりあえず、基本の型からの切り下げを500回振るんだ。その際、同じ軌道を描くように」


 そう言うとヨークトルは実際にロングソードを振ってみせる。


「真っ直ぐ振りかぶって真っ直ぐ下ろす。そのとき右足を同時に前に出すように」


 ずんという音と共にヨークトルの右足が前に出ているのが分かる。


「やってみろ」


 イルマは剣を振り上げる……が、微かに身体が右に傾いてしまう。


「それじゃあ駄目だ! 身体は真っ直ぐだ!」


 イルマは再度剣を振り上げ、斜め下に強烈に切り下げる。しかし切り下ろした時に身体が下を向いてしまう。


「それも違う! 切った後の身体はまっすぐだ!!」


 そうこうして30分が過ぎ、イルマは全身に汗をかきながら練習を続けていた。けれども、なかなか思ったように剣が振れない。ヨークトルは休憩を命じた。


「どうだ? 基本ほど難しいもんだ」


 そう言うとヨークトルは自分の仕事に戻っていった。肩を上下させているイルマには、うなずくほどの余裕がない。既に手の豆が破れ、壮絶な痛みが襲ってくる中、腕も上げられない。自分の腕がこんなにも重く感じるのは初めてだった。


 息を整え、水を飲み、さらに頭にかけたイルマは木刀を握り直す。


「基本の構えから、切り下ろす」


 ぶつぶつと話しながら再度振り下ろす練習をする。仲間の騎士に大きな鏡を準備してもらい、その前で型を確かめながら練習を続ける。初日、全てをやりきる頃には夜の7時をまわったのだった。


 §


 その日からイルマは毎日、地味な練習に取り組んだ。鏡を見ながら自分の思い描くイメージになるように剣を振り下ろした。時々ヨークトルがやってきては技術指導をする。3週間が立つ頃、成果を感じる出来事が起きた。模擬戦で一勝することができたのだ。相変わらず手と肩は痛んだが、その嬉しさは何物にも代えがたいものだった。


「しっかし、凄えよな。イルマの奴」


 その日、同僚たちが訓練を終わる頃、イルマはまだ剣を振っていた。同僚たちはイルマの手助けをしたいと思っていたのだが、できることが思いつかない。服を着替えながら団員たちは会話を続ける。


「イルマは団の仲間なのに、俺たちはまだどこかで遠慮してる。でも、あいつは気にせず遠慮しないで俺たちに話しかけてくる。誰に対しても同じ態度で。だから、この団は前よりも会話が多くなった」


 小隊長のオウジンが服の袖に手を通しながら、しみじみと気持ちを吐露する。


「そうだな、団結力も上がってる。俺は前よりこの団が好きになった。それはイルマのおかげだ」

「だから、あいつのためにできることを俺たちもやろう。遠慮はなしだ」


 そう言うと団員たちは各自の思いを抱きながら家路につくのだった。

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