第100話 お前、それ反則だろ
王国歴163年1月8日 午後7時 小隊行きつけの酒場「火山亭」にて――
「じゃあ帝国騎士団最強、ヘクラ小隊に乾杯!!」
「乾杯!」
オウジンの呼びかけで、ヘクラ小隊全員が集合しての飲み会が始まった。騎士団の男たちはみな18歳を過ぎており、そのうえ酒豪ばかりだ。あっという間にテーブルの上がジョッキだらけになる。それに負けないくらい酒に強いイルマの目の前に、あっという間に空になったジョッキが3杯並ぶ。
襟ぐりがU字に開いた白いオーバーチュニック(ワンピース)に着替えたイルマは、胸元が強調されてしまい大人の色香を醸し出している。少しだけ酔った薔薇色の頬と、薄く塗られた薄赤の口紅から男たちは目を離せない。
団員も大分慣れてはきたが、こんな時はやはり意識して顔が赤くなる。騎士団員とは到底思えない、美しく可憐な女性なのだ。飲み会が始まると、すぐにイルマは疑問を出してみる。
「今日の飲み会は懇親会?」
「それもあるけど、今、イルマは悩んでるだろ。何とかしたくてな」
「へえ、かっこいい」
肘で相手をつつきながら笑顔でからかうイルマを見て、団員は照れて頭をかく始末だ。
「同じ騎士団だろ。何でも話してくれよ!」
「ありがとね。見ず知らずの女がいきなり帝国騎士団の一員じゃ、怒るのも無理ないのに……」
「いや、最近の騎士団は女性も入団できるんだ。まあ、全部で5人しかいないけどな」
酒をあおりながら、みんな饒舌になっていく。笑い声も徐々に大きくなり、ジャガイモやトマトが口の中に放り込まれる。鳥肉が皿に山盛りで運ばれてきて、鳥の焼けた香ばしい匂いに、男たちが雄叫びを上げる。その余勢を駆ってオウジンがずばりと切り込む。
「で、イルマ。お前、剣のことで俺たちに聞きたいことはないか?」
「いきなり、そう言われると難しいねえ。ただ、隊長が見せてくれた奥義が外れたらどうすんの?」
それがずっと気になっていたイルマだった。
「あれはな、当たるときだけやるんだよ」
「それ、あり?」
「大ありだ! そもそもあんな大振り、滅多に当たらないよ! 相手を避けられない状態にしてからだよ」
「なあんだ、そんなもんか、でさ……」
その後、話は途切れることなく、飲み会が終わるまでずっと続いた。どれだけ飲んでも大丈夫なメンバーばかりで、飲み会は深夜になるまで続いたのだった。
§
飲み会は3日に1回は行われるようになった。ただ、2月に入ってからの飲み会は、もっぱら御前試合の話が中心となった。昨年度のヘクラ小隊は準決勝で敗れてしまっていた。
「イルマ、今年は勝つぞ! 見てろよ」
「ええ? 私は出ないの?」
イルマの問いにみんな苦笑する。
「いや、やっぱり俺たちが……」
「私もヘクラ小隊の一員なのに」
頬をぷくっと膨らませたイルマは露骨に不満を述べる。団員は顔を見合わせていたが、それもそうだと思い直し、イルマに参加するように申し渡した。
「みんな、ありがとう」
騎士団の仲間だと認められたことが嬉しい。輝くような笑顔でお礼を言うイルマを見て、純情な団員たちはまたしても顔を赤らめてしまう始末だった。
§
王国歴163年2月22日 午前9時 帝国騎士団 訓練施設にて――
飲み会で話していた御前試合の日はあっという間にやってきた。寒さが最も厳しい2月の下旬に開催するのが恒例となっている。訓練に明け暮れていたヘクラ小隊は、全員、今年こそさらに上位にいきたいとの思いが強い。
会場まで全員がそろって歩く中、見慣れた訓練場が、今日だけは光り輝くコロッセオに見える。一段高い場所に座っている陛下の御前で、頭を下げてから試合が始まるのだ。イルマは小声で気になることを聞いてみる。
「御前試合で勝てば、何かいいことがあるの?」
「そりゃあ、あるよ。名誉の他に、全員の給料に特別昇級が割り増しされるのさ。そうすれば家に仕送りだって増やせるだろ」
イルマの問いに隊員たちは素直に思いを述べる。オウジン小隊の構成員は平民が6人、準男爵家が2人、男爵家が2人と、他の隊と比べて実家が裕福ではない。シーグルズル七世陛下の肝入りで平民にも騎士団枠が割り当てられているけれど、いろんな面で下に見られているのは間違いなかった。
「じゃあ、勝てばいいんだね?」
「イルマ。お前は伯爵家や公爵家と戦うのが怖くないのか?」
隊員はみんな顔を見合わせる。団員たちは家格が上の貴族と戦うことに心理的な圧力を感じていた。
「私は感じないね。というより、あんたらそんなの感じてるの? 大変だねえ」
そう話しているうちに1回戦が始まってしまった。今回の相手ではイルマの出番はなかったため、彼女は赤い髪をずっとくるくると弄んでしまう始末だ。
「暇だなあ……。あっ!」
悪巧みを思いついたようにイルマは含み笑いをし、下の革鎧を脱ぐといきなりズボンを脱ぎ、短パンになる。
「イルマ!!!」
仲間たちが非難の声を上げる。鍛えられたイルマの足はすらっと長く、そして、輝くくらいに白い。スタイルの良さもあり、仲間たちは目のやり場に困ってしまう。当然、対戦相手はイルマの足しか見ていない。
そのため1回戦はあっという間に決着がついた。対戦相手がイルマの足に鼻の下を伸ばしているうちに、味方が相手に木刀を叩き込んでいく。
「……何だか勝った気がしないなあ」
「うん……これって反則なんじゃ?」
味方の騎士がやや沈み込むのに対し、イルマは大きな笑顔になる。
「みんな、おめでとう! さあ、特別昇級をもらうまで突っ走るよ!!!」
ヘクラ小隊のメンバーは不本意だったが、次の対戦相手もイルマの足にやられてしまったのだった。結局、準決勝戦までこの方法で制し、決勝は昨年度敗れた上位貴族の騎士団と戦うことになった。




