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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第2部 華やかな北の都 第3章 イルマの物語

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第101話 イルマ無双

 王国歴163年2月22日 午前11時 帝国騎士団 訓練施設にて――


「ついに出てきたか……」

「まあ、いつかは当たるよな」


 決勝の相手は昨年度優勝のヴァトナ隊で構成メンバーは上位貴族ばかりのため、ヘクラ隊は目立って士気が落ちていた。さっきまでは対戦相手を睨んでいたというのに、今は視線を逸らしている。それに気付いたイルマは急いで防具を付け始めた。


 先鋒をどうするかの話し合いになったとき、


「はい、はあい。私が出るよ」


 自分が出ると全員に宣言した。


「無茶だ。相手は辺境伯家や侯爵家の一員だぞ」

「ま、とりあえず私に任せときな」


 そう言うと、止める仲間たちを振り払い、イルマは勝手に前に進んでいった。仲間たちは、ああっと思ったけれども、もう遅かった。


 対戦相手と相対するとイルマは目をすっと細める。


「始め!」


 その瞬間、イルマは電光石火のように猛然と前に出る。先ほどまでのイルマの足が気になっていた対戦相手は、対応が少し遅れてしまう。その瞬間、相手の木剣が空中に跳ね上がってしまった。


「ヘクラ小隊の勝ち」


 カランカランと跳ね上げた剣が地面に落ち、イルマはへへっと笑みを浮かべて仲間たちを見る。仲間たちは複雑な思いで勝利を祝い、交代しようとしたがイルマはそれを拒む。そのまま2人目と対戦することになった。相手はイルマよりも二回りも大きく、それなりに名の知れた騎士である。


「始め!」


 先ほどより速く敵の懐に飛び込んだイルマは、そのまま横から剣を振るった。けれども、相手はそれをやすやすと防ぐ。イルマは後ろに飛び退き、相手の隙を探り始めた。


(なかなか隙がないねえ)


 無理矢理、相手に隙を作ることにする。円を描くように右から振り下ろし、その反動で左からの振り下ろしと連続で攻撃する。けれども相手に隙はできない。それどころかイルマは相手に突きを繰り出され、防戦一方となった。


「イルマ……」


 仲間が心配そうな声を上げる。いつもはこんな声を出したことがない。


(しょうがない……な)


 イルマの目つきが変わり、闘志を身体全体にみなぎらせオーラの中に殺気を込める。傭兵のときによく使った手で、相手はオーラに気圧されるときがある。


(何だ? 殺気?)


 その一瞬の隙をイルマは見逃さなかった。まっすぐに突きに行ったイルマの剣を防ごうと、相手は防御の構えになる。その剣を左上から、力の限り切りつける。


「ぐぬ!」


 手の痺れを感じさせるほどの一撃だったけれど、相手はその攻撃を防いだ。


(あぶなか……)


 その刹那、イルマは相手の後方に回り込むと剣で相手の足を突き、一瞬の動揺を誘う。さらに相手の木剣を巻き込んで飛ばしてしまった。相手の首筋にイルマの剣が突きつけられる。


「ヘクラ小隊の勝ち」


 さすがにイルマは肩で息をし始めたが、仲間にウインクをする。今の戦いを見て、味方の何人かは俺たちは何か考えすぎているのかと自問自答し始める。


「イルマ、交代だ!」


 オウジンが交代を告げるがイルマは首を縦に振らなかった。


「まだ、いけるって。もうちょい私の活躍を見てな」


 みんながイルマの心配をしているうちに時間切れとなった。交代はできずイルマの出場が決まってしまう。相手は豪剣と呼ばれるガルバザイルで、帝国騎士団の中でも三本の指に入る実力者である。イルマは必死で呼吸を整えていた。


「始め!」


 その瞬間、ガルバザイルはイルマに猛進してきた。すぐに後ろに退いたイルマだったが、ガルバザイルはそれを許さない。さらに距離を詰め、下段から剣を振り上げた。イルマの赤い髪が何本か空中に舞う。


(やっば!)


 さらに集中したイルマだったが、相手の剣が速すぎてその軌道がよく見えない。防戦一方となるも相手は容赦しなかった。


(こんな女相手に2人も負けたとはヴァトナ隊の名折れである。俺がその恥を濯ぐ)


 イルマに考える時間を与えないように攻撃が途切れない。不安そうな眼差しで見ている仲間たちを見た瞬間、イルマはついに感情を爆発させる。腹に力を入れたイルマは、根性なしの仲間たちを罵倒し始めた。


「お前ら、騎士の癖に生ぬるいんだよ」

「何?」


 団員がいきり立つ。その瞬間もガルバザイルの攻撃は続く。


「今まで実戦を経験してないの? 私は嫌っていうほど見てきたよ」


 ガルバザイルの剣を横にいなすだけでも腕が痺れる。


「戦いに負けて飢えてたやつもいたし、身体を売ってた女もいた。戦いに負けた方は地獄を見る。そんな時に足がどうとか、身分がどうとか、いちいち甘いんだよ」


 その瞬間、ガルバザイルの剣を押さえつけようとする。イルマとのつばぜり合いを嫌い、ガルバザイルはすぐに後ろに下がり、また攻撃を始める。必死に相手の剣を防いでいたイルマだったが、少しずつ手の感覚がなくなってくる。それでも、何かがイルマを突き動かしていた。


「大切な人を守るために、どんな相手だろうと私は全力で戦う。絶対に負けない!!」


 そう叫ぶと一旦後ろに下がり息を整える。どうやら、あと1回しか攻撃できそうにない。相手は、もう余裕の表情だ。


(どうする? 自分の得意な攻撃で……)


 その時、レオンの声が頭の中に響いてくる。


 ――「どんなに凄い技も基本の積み重ねなんだよねえ」


(そっか)


 猛然と前に出たイルマは、下段に構え、斜め下から相手に向かって木剣を振り上げる。


(しょせん、我流仕込みの品のない剣だ)


 冷静に剣筋を見極めて、斜め上に剣をそらすと空いた胴を目掛けて剣を振り下ろす。ところがイルマの下から振り上げた剣は、いつの間にか上段の構えになっており、そのまま、ごうっと振り下ろしていた。


「舐めんなよ」


 ガルバザイルが剣で防ごうとすると、そこにイルマの剣が落ちてきた。


(まあ、俺の方が力が強い)


 ところがイルマの剣は意外に重かった。


「ああああ!」


 叫びながらイルマはさらに力を込めて剣を振り下ろす。ガラン、ガランと大きな音が闘技場に響き渡り、相手は防ぎきれずに剣を地面に落としていた。


(見事だ。イルマ)


 遠くから見ていたヨークトルは鍛錬を積んだイルマの剣を褒める。本流の剣だった。


「ヘクラ小隊の勝ち!」


 周りで見ている騎士たちに動揺が走る。優勝候補の小隊が一人の女性に3人まで倒されている。しかも、3人目は豪剣で有名なガルバザイルだ。会場でイルマを見る目つきが変わっていくのを、ヘクラ小隊の仲間たちは感じていた。


 激しく肩で息をしながらイルマは顔を上げる。赤い髪は汗に濡れ、木剣も傷が目立っている。けれども、その目は闘志を失ってはいなかった。


 剣をようやく肩に担ぎ上げると、


「さあ、次に戦うのは誰だ」


 殺気を込めた、ぞっとする声で徴発する。相手の4人目は明らかに気後れしている。


 けれども、次の瞬間、イルマはその場に崩れ落ちてしまった。

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