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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第2部 華やかな北の都 第2章 フラプティンナ姫の物語

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第94話 すれ違う二人

 王国歴163年1月10日 午前10時 皇帝宮 ローズガーデンにて――


「レオンさま。今日はこちらで紅茶を楽しみましょう」

「おお、凄い部屋ですね!」


 この前の一件以来、フラプティンナとレオンシュタインは何でも気軽に話せるようになっていた。今日はローズガーデンの一角に設けられている通称「ガラスの薔薇園」と呼ばれるガラスの温室に招待されていた。温室と言っても、半径10mほどの大きさをもった半球型のドームである。


「正確には24面体になっているんです」


 紅茶を入れ、そっとレオンシュタインの方へと差し出しながらフラプティンナは答えていた。冬のわずかな光でも明るくなるような設計とほとんど寒さを感じない構造に、レオンシュタインは感動してしまう。


 真ん中に置かれた白い丸テーブルに2つのイスが置かれ、端にも優雅なイスが1つ置かれている。丸テーブルにはレオンシュタインとフラプティンナが端のイスにはアルトナルが腰掛ける。


「紅茶をありがとう。ロス(フラプティンナの愛称、薔薇という意味)」

「いえいえ。どうぞ、お口に合いますか?」

「凄く合います」


 ふふっと控えめに笑うフラプティンナを見ながら、一口、口に含むと、ほのかな酸味と甘みが広がり、ほっと落ち着くような気持ちになる。


「素晴らしい香りですね。この酸味はレモンピール(皮)ですか?」

「よくご存じで! この酸味があるから、一層、美味しいと思うんです」


 自身のカップにも紅茶を注いでいたフラプティンナの顔が輝く。


「ぼくも好きですね。それこそローズティーのような薔薇の香りが強いものは少し苦手で……」

「レオンさまもですか? 私もそうなんです。このほんの少しだけ感じるフレーバーがステキですよね!」


 その二人の様子を見て、後ろにいるアルトナルは微笑ましげに眺めていた。


(フラプティンナさまも、屈託なく笑われるようになった。以前の「氷の微笑」などと呼ばれる冷たさを今は感じない。マエストロのおかげかな)


 自身も紅茶を含み、そのほのかな甘みを楽しんでいた。見ていれば、2人のやりとりは初々しくて幼年学校の同級生のようだった。隣に座った男女が少しずつ仲良くなっていくような、そんな誰もが胸にもっている甘酸っぱいやりとりが繰り返されている。


 手が少し触れたら互いに過剰に謝ったり、間接キスだとからかわれたり、一緒に手を繋いだり……。


 んん? レオンどの、それはやり過ぎですぞお!!!!!


 ガラスの薔薇園に来るようになって3日たった頃、レオンシュタインがフラプティンナの手を繋いでいたのには理由があった。


「レオンさまは、異性の方と手を繋いだことがあるのですか?」


 レオンシュタインは素直にあると答えていた。フラプティンナの声に苦みが混じる。


「きっと素敵な方なのでしょうね」


 レオンシュタインは何の嫌みもなく、はいと答えていた。


「そうですね。生死を共にしていますから……」


 何気ない一言がフラプティンナを現実に引き戻していた。レオンシュタインは観光旅行をしているのではなく、追放同然で命も狙われている。その事実にフラプティンナの胸が苦しくなる。


「レ、レオンさま。ここでは命をかけることはありません。私が素敵なものを見せて差し上げます。さあ、お手を」


 と、手を差し出してくる。


(? いいのかな?)


 アルトナルさんの方を見ると盛んに首をひねっている。どうやら、マズイらしい。でも、フラプティンナはとても悲しそうな表情なのだ。


(これは正直に、いくしかないよな)


 お告げ通りに、正直に手を繋ぐことにする。ふわっとした柔らかい手の感触に心臓がどきどきする。逆にフラプティンナは、ぱっと笑顔になり、レオンシュタインを引っ張り始めた。見れば、アルトナルは青い顔をしている。


「こちらです。レオンさま」


 暖房設備の前に置かれた50cmほどの3つの壺が置かれ、育てられている花のつぼみが膨らんでいた。しゃがんで見るように言うフラプティンナの顔が近い! それに何でこんなに薄着? 美しい身体のラインが見えてますよ! もっと厚着しようとレオンシュタインはお願いしたくなる。 


(落ち着け~、レオンシュタイン。お前は紳士! もう慣れただろう)


 自分に言い聞かせながら平静を装う。


「ほら、これ。もうすぐ咲くんです。グブズムンドルは北国でしょう? だから、この時期に咲くのが、楽しみで」


 まさに輝かんばかりの笑顔だった。すぐ隣にしゃがみこんだフラプティンナの横顔を見ながら、自分のことのようにレオンシュタインは喜んでいた。


「レオンどの、少しよろしいか」


 アルトナルさんに手招きされて何事か注意をされている間、ずっとその花たちをを愛おしげに見つめるフラプティンナなのだった。


 §


 王国歴163年1月18日 午後15時 皇帝宮 ローズガーデンにて―― 


 最近は毎日のように皇帝宮に呼ばれるようになり、レオンシュタインはさすがに疲れていた。何と言っても音楽院での勉強や仲間たちとの連絡・トラブルが多くなってきたからだ。


(でも、ロスといる時間は癒やしの時間だよ)


 貴族としての振る舞いに加えて、相手への配慮や心遣い、何よりも自分に向けてくれる優しさや好意? が嬉しい。何と言っても「()()」を喰らわせたり、「()()()」きたりしない美少女と気軽に話ができるのは、ほっとするのだった。


 いつもの白い丸テーブルには、あのときの壺が3つ置かれていて、綺麗な花を咲かせていた。帝国の驚愕の技術力を垣間見る思いだ。1つ目は白いアイスバーグ(つる薔薇の一種)、2つ目は白いクリスマスローズ、3つ目は白いロベリアだと紹介を受ける。


 ふうんと座りながら花を眺めていたレオンシュタインに、フラプティンナが突如立ち上がって質問をし始める。


「レオンさまは、花にお詳しいのですか?」

「いやあ。ハーブくらいなら……」


(それは好都合だわ)


 フラプティンナはきゅっと唇を噛む。


「では、この3つの中で私に一番プレゼントしたいものはどれですか?」


 ええ? どれが正解なんだろう。しかもフラプティンナの顔が真剣すぎることに、レオンシュタインは疑念を抱く。頼みのアルトナルを見ると肩をすくめるだけだ。


(まあ、正直に答えるべきだし、これで投獄とかにはならないだろう)


 ということで1つを選択する。


 つる薔薇アイスバーグだ。


 フラプティンナは冷静を装いつつ、また、質問を始める。


「レオンさまは花言葉は詳しいですか?」


 詳しいですと見栄を張りたいけど、お告げがある。


「いえ、一般的なものくらいしか……」

「そ、そうですか。この花を私にプレゼントしたいと思ったのは……」


 そこまで話したフラプティンナはなぜか顔が赤い気がする。可愛いけれど、なぜ?


「実はこの花の花言葉を知ってまして、このアイスバーグの花言葉は……」


 その瞬間、フラプティンナが大きく手を前に突き出し話をさえぎる。


「レオンさま!!! 私にも立場というものがございます。その花言葉を容易に受け入れるわけにはいかない……の、ですが、私に手向ける言葉がこれなのですね?」


 ユラニア大陸での花言葉は「清純」「いつも美しい」という意味だ。レオンシュタインはフラプティンナ姫にはそれが相応しいと考えていたのだが……。


 対して、グブズムンドル帝国での花言葉は「()()()()()()()()()()()」「()()()()」という「()()()()()()使()()()」としてよく知られている。

 

「ええ、ぼくはロスを見ていて、ずっとこの言葉(()())が思い浮かびました。きっと、よく言われていると思いますが……」


 するとフラプティンナは怒ったような口調となる。


「そんなことありません! 初めて言われました。私を見てずっとこの言葉(()()()())を思い浮かべて、い、いたのですか?」

「はい、ロスに贈る言葉(()())はこれしかないって」


 フラプティンナは、胸の前に手を組むと淋しそうに笑うのだった。


「レオンさまが、この言葉(()()()()()()()()()()())を私に……。う、嬉しいです。一人の女性として、本当に心から……。私がすぐに受け入れることができたら、どんなに……」


 ん? 清純って、そんなに重い言葉だったか? とレオンシュタインはいぶかしむ。


 次の瞬間、フラプティンナは護衛騎士2名を手前に呼びよせ、同時にアルトナルも呼び寄せていた。


「お前たち! 今のレオンシュタインさまの言葉は聞かなかったことにしなさい。これは厳命です。父上に聞かれても答えてはなりません。いいですね」

「しかし、姫さま……」

「命令です。破った場合、護衛騎士としての任を解きます!」

「は。命に替えても秘密を守ります」


 ええ、何だか、えらいことになってる? この国って「()()」って使っちゃいけない言葉だったの?


「アルトナル。貴方にも心苦しいですが秘密を守ってもらいます。これは、むしろ貴方の安全を守ることにもつながるかと……」

「そうですね。ご配慮、ありがとうございます。他言はいたしません」


 アルトナルにも厳命か……。


「フ、フラプティンナさま。申し訳ありません。私の花言葉が……」

「い、いいえ。先ほども言いましたが、私はすぐにでも受け入れたいのです。でも、帝国の姫として、すぐにお答えするわけにはいかないのです」

「は、はあ」


 何だかよく分からないが、疲れた……。そのため、そのアイスバーグの近くに歩み寄り、その薔薇の匂いをかごうとした。そのとき!


 厚い雲から珍しく太陽がのぞき、このガラスのドームをキラキラと照らしたのだ。光はちょうどつるバラにふれる自分の所から、まっすぐにフラプティンナの所まで伸びて輝いている。


「ああ……。「ヘピン フィリコリ(神々の吉兆)」まで起こってしまうとは……。これは、もう運命なのですね」


 十字を切り、太陽に祈りを捧げているフラプティンナの前に先ほどの三人がひざまづく。


「姫さま。神の祝福が起きた以上、もう何も申しません。お心のままに」


 その瞬間、ふっと光の壁が消え、また陰鬱な空が広がるのだった。


「レオンさま。寒くなってきました。部屋に戻りましょう」


 帰り際に、護衛騎士やアルトナルに何度話しかけても固く口を閉ざしたままだ。フラプティンナに話しかけようにも、何かを真剣に考え込んでいる。


(何なんだ、いったい……。やっぱり他国はいろんな風習があるんだな)

(レオンさま、そんなに私のことを……)


 悲しいほど、すれ違う二人なのでした。

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