表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第2部 華やかな北の都 第1章 ユラニア王国とグブズムンドル帝国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
84/247

第84話 共演OKと教会のお告げ(暗号)

 王国歴162年12月14日 夕方 ヴィットリア=コンサートホール前にて――


(この人は只者ではない)


 カウリは戸惑いを隠せない。


「何を弾いたらいいですか?」


 レオンシュタインの問いかけにカウリはハッとして、デュラーのバイオリンソナタはどうかと提案した。やや難曲であると同時に掛け合いが難しい曲として知られている。カウリから楽譜を用意するか聞かれると、


「いえ、多分覚えていると思いますから大丈夫です」


 とレオンシュタインは答える。本当に覚えているのか半信半疑のカウリだった。


「では、弾きますね」


 最初の一音から素晴らしい音が響き渡り、カウリはその音色に圧倒されてしまった。難しいパッセージを難なく弾き切るその技量にも驚愕してしまう。


(これは、少なくとも自分より遙かに上手い。というより……)


 音にだんだんと圧倒され考えも上手くまとまらない。


「分かりました! 合格! 合格です。是非、明日、一緒に演奏しましょう」


 相好を崩したレオンシュタインは楽団と演奏できる喜びを素直に伝える。そして気になっていたことを恐る恐る聞いてみた。


「あの……。お金はどのくらいがかかるのでしょうか?」


 笑顔のカウリは無料であることを伝える。答えを予想していたとはいえ、二人はまた驚いてしまう。世に名高いバルタザル交響楽団と共演できるのに、無料でよいのかレオンシュタインは再度確認する。

 

「無料です。姫様の演奏後の余興として行われるものですから」


 グブズムンドル帝国の第2王女はバイオリンの名手として名高い。


「レオンシュタインさんは何か弾きたい曲があるのですか?」


 カウリにそう言われ、レオンシュタインは弾きたい曲を何にしようか考える。チャンスを与えてくれた皇帝への感謝を忘れてはならないし、聞いてくださる観客にメッセージも伝えたい。


 となると、あれしかない。


「オフィーリアを演奏します」

「オ、オフィーリア? ですか?」


 驚いたカウリが顎に手を当てて考え込んでしまうのも無理はない。エイゼンスキーの作曲したバイオリン協奏曲の中でも屈指の難曲として有名だからだ。けれども先ほどの演奏ならば大丈夫かもしれないとカウリは判断する。


「それでは、明日の18時までにこの場所へおいでください。姫さまの演奏が18時から30分ほどです。そのあと1時間の休憩を挟んで19時30分からレオンシュタインさんの出番です」

「楽しみです」

「では、明日、この出演者プレートを忘れずに持ってきてくださいね」


 10cmほどの銀色プレートを受け取ると、その冷たい手触りとは反対に握った部分に熱を帯びていく。丁重にお礼を述べ、レオンシュタインはゆっくりとコンサートホールを去っていった。


 手を振りながら見送ったカウリは、すぐに建物の中に入り、長い廊下を走り抜けて楽団員が練習している部屋に飛び込んだ。


「コンマス! 明日の飛び入りは」


 今の出来事をコンマス(コンサートマスター)のアルトナルに伝えようとする。ところがカウリに全てを言わせず、コンマスは受付を交代するように話してきた。


「カウリ。明日のお姫さまはケッセルリンクのバイオリン協奏曲だと」

「ええ!? そんなに難しい曲を……弾けるんですかね?」


 レオンシュタインのことを告げるつもりが、姫さまの選曲のことで頭がいっぱいになる。


「お姫さまも上達しているのは確かだが、あまり背伸びをされてもな」


 バイオリンを拭きながら懸念を述べるアルトナルに同調しつつも、カウリは自分もすぐに練習をすべきだと判断する。そのまま受付を交代し練習に集中したカウリは、とび入りのレオンシュタインのことを頭の片隅に追いやってしまったのだった。


 一方、帰路についたレオンシュタインは、先ほど見た白いスコルグリムス教会の前で立ち止まっていた。演奏できる喜びを神に感謝したい、とティアナを誘って中に入っていく。


 扉をくぐった瞬間、何本も立ち並んだ巨大な柱が目に入ってきた。白さが目に痛いくらいだ。天井が高く交差するアーチ型の骨組みのおかげで、豊かな残響と音の拡散効果が期待できるとレオンシュタインは興奮気味にティアナに話していた。


 ただ、このように巨大な教会でもステンドグラスは母子像を表したものが1枚、宗教画も祭壇の左右に1枚ずつしか掛けられていなかった。同じ聖光教会であっても、北の帝国に広がる北方聖光教会は、東西の聖光教会とは趣が違うようだ。


 二人は旅の無事と演奏できる喜びを感謝し、長めの祈りっを捧げていた。そして、いざ帰ろうとした時、レオンシュタインは告解をしてくるとティアナに話したのだった。


「ねえ、レオン。そんなに懺悔することがあるの?」


 ティアナは少し怪しむような声になり、慌ててレオンシュタインは手を振る。


「ま、まあ、人間、みんな罪深いからね。ティアは、このベンチで待っててよ」


 釈然としない様子でティアナはベンチに座り、レオンシュタインはそそくさと告解室へと急ぐ。「告解室」らしきイラストが書かれた看板の下に、巨大な緑色の矢印が書いてある。


 告解室に入ったレオンシュタインはすぐに言葉を待ったが、聞こえてきたのは当然のことながら、グブズムンドル帝国の公用語であるノルド語だった。全く何を言っているのか分からない。自分からユラニア共通語で話しかけてみると、ややたどたどしい声が返ってくる聞こえてくる。


「迷った人。神の愛を信じて、あなた罪だらけ、話しましょう」


 大丈夫か? と思ったけれど、レオンシュタインは話をすることにする。ここでも男ではなくシスターが話を聞くことになってしまい、もはや溜息も出なかった。


「自分を慕ってくれる女性が3人いるのですが、その女性たちに気持ちが動いています。恥ずかしい話ですが、そばにいてほしいと思うのです。でも、これは神のお告げに逆らった振る舞いですよね。そんな罪深い私をお許しください」


 果たしてレオンシュタインに答えは返ってくるのか? 扉の陰から、いつものように優しい声が響いてきた。


「わたしは聖霊のみんな、で罪が許されています」


 ? あなたはシスターだから罪は許されているでしょう? でも、だいたい言いたいことは分かる。レオンシュタインはここでも追加の質問を繰り出した。


「私は、その……3人と仲良くしてはいけないでしょうか?」


 しばらく立った後、苦しそうな声が響いてきた。


「3人、罪深い、あなた。美少女、注意」


 これは難しいぞ……。


「美少女、注意とは、どういうことでしょう?」

「助ける、運命、美少女、正直、気をつけて」


 暗号か? 


「神の祝福を」


 そう言うと窓は逃げるように閉まってしまった。いつもよりも、さらに難しいお告げだ。


(3人はお前にとって高嶺の花だ。助ける運命の美少女には、正直を心がければOKってことか)


 勝手に解釈をして、そうかそうかと思いながらティアナの所へ戻る。


「どうだった?」


 ティアナの質問に、


「やっぱり、人助けは進んでしないとね。正直をいつも心にとめておくよ」


 と、相変わらず斜め上の答えを話してしまう。


(どうして、告解の後は変なテンションになるのかしら?)


 ティアナは少し気をつけようと考え出していたけれど、明日の演奏会もあるから今回は黙っておくことにした。その妙なテンションのまま、二人は宿へと向かうのだった。


 §


 翌日、レオンシュタインが目を覚ましたのは低い空に太陽が上っている頃だった。朝だろうと思っていたレオンシュタインに、もう午後の1時であるとティアナから告げられる。


 緯度の高いグブズムンドルは、あまり太陽が高く上らない。


 昨日、宿に戻ってから食事も取らずに、レオンシュタインは8時間ずっと練習を続けていた。ティアナが無理矢理止めなければ、もっと続けていただろう。部屋にあったりんごを1つ取ったレオンシュタインは服の着替えもそこそこに、すぐに宿の遮音しゃおん室へ行く。


 フリッツやイルマたちは顔を見合わせるが、しょうがないとばかりに肩をすくめる。


 世界一のオーケストラと演奏するために、できる全てのことをやっておきたいとレオンシュタインは考えるのだった。


 練習に励んでいる途中、ティアナに肩を叩かれてはっと我に返る。壁の時計に目をやると、針は午後5時30分を指していた。


「レオン、もう行こう」


 そばにいたティアナの言葉に、すぐにバイオリンをケースにしまい始める。その隣ではイルマが不安そうな顔でレオンシュタインを見つめていた。


 手には牛串が2本、握られている。


あるじ、何も食べないと身体に悪い。これ食べなよ」


 差し出された牛串からは香ばしい匂いが漂っており、レオンシュタインは笑顔でそれを受け取ると2つの塊肉にかぶりつく。胃がとても喜んでいるのが分かる。


「イルマ、ありがとう」


 優しい眼差しでイルマは小さくうなずく。あっという間に牛串を食べ終わり、さらにヤスミンから差し出されたりんごを3つ飲み込むように食べ終わるとようやく人心地がつく。


 気合いを入れるように頬を叩いたレオンシュタインは、仲間と共に会場へ向けて出発するのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ