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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第2部 華やかな北の都 第1章 ユラニア王国とグブズムンドル帝国

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第82話 陸地、最高!!

 王国歴162年12月14日 昼 船上にて――


「陸が見えてきたぞ~!」


 船員の言葉に全員が甲板に走り出ると遙か地平線の上に白い山々が広がっていた。船酔いの中でトラブルはあったが、全員無事にグブズムンドル帝国にたどり着くことができそうだ。


「寒!」


 ヤスミンが首をすくめるのも無理はない。マイナス18度という気温は水に塗れたタオルも短時間で凍ってしまう。


「入港まで2時間ほどです。ご準備をお願いしますね」


 ようやく戻ってきたという嬉しさからかヴィフトの表情は明るい。ヨークトルも腰に手を当てて背筋を伸ばしている。ただレオンシュタイン一行はヤスミン以外、全員ぐったりとしていた。


「……とにかく、陸に着くのはありがたい」


 巨漢のバルバトラスも、かなりこたえたらしい。フリッツも馬と一緒にいたのはいいが、そこでずっと寝ていたというオチまでついた。もうすぐ揺れない大地に立てることがありがたい。


 ゆっくりと陸地が近づき、教会の尖塔やフィヨルド独特の平らな山が目に入ってくる。町は雪で覆われ全体的に青白い印象を受ける。時刻は午後3時というのに、すでに薄暗かった。船がゆっくりと岸壁に近づくとホーサー(係留索)が放り出され、港のビット(係留柱)に結ばれる。固定を確認されたあと、ようやく下船となった。


「陸地! 最高!!!」


 ティアナとイルマが喜びの声を上げながらタラップを走り降りていく。まだ地面が揺れているような気はするが確かに大地だ。全員が下船したのを確かめるようにヴィフトがやってきて、滞在についての説明を始めた。


「レオンシュタインどの。こちらの書類があれば、お好きな宿に10日間、無料で泊まることができます。10日後に滞在を延長するのか確認に参りますので、ご検討ください」


 滞在の延長はどれくらいできるのかレオンシュタインが尋ねると、ヴィフトは自費滞在であれば1年間は可能であると説明する。しかも6人が望むのであれば、働いたり、学んだりも可能であることも付け加える。無料は10日間の宿泊費だけとのことだった。


「そうそう、レオンシュタインどのに是非とも伝えておきたい情報があります。金曜日に開催されるチャレンジコンサートは、誰でもバルタザル交響楽団と合奏できますよ」

「えっ? 交響楽団と本当に一緒に演奏ができるのですか?」


 レオンシュタインは食い気味に尋ねる。


「本当です。ただ、ある程度、弾けることを証明してもらわないといけませんが、レオンシュタインどのであれば大丈夫でしょう」


 そう伝えると、ヴィフトは優雅に礼をし、


「それでは帝国で素敵な時間をお過ごしください」


 と話すと、あっという間に立ち去ってしまった。レオンシュタインたちも急いでこれからの宿を決めなくてはならない。辺りはすでに薄暗くなり、フリッツはとりあえず馬車に乗るよう促した。フリッツの馬車はゆっくりと北の大地に馬蹄を響かせる。雪は道路を薄く覆っているものの走行に支障はない。


「これが北の帝国。華やかですね」


 初めて見る異国の大都市にレオンシュタインは興奮を隠せない。目の前には白い壁がひときわ目立つスコルグリムス教会がそびえ立っている。遠くからでも目立つこの白亜の教会は帝国のシンボルとして名高い。


 周りにはカフェやレストランが立ち並び、観光客もひしめき合っている。物価が安定し、人々が豊かに暮らしていることがよくわかる。人々の笑顔が眩しい。


「本当に素敵な街並み! これで寒くなければ……」


 寒さに弱いティアナが震えながら話す。12月ともなると降雪こそ少ないものの寒さは-20℃を下回る。その寒さを吹き飛ばそうと、あちこちにホットワインを売る売店があるのだろう。レオンシュタインはそれらに目もくれず宿がないか目をこらす。


「滞在する宿を決めてしまいましょう。明日はコンサートのことを調べます。本当に楽しみです」


 それを受けてフリッツが1つの候補を挙げる。


「先ほど通り過ぎた『北の滝亭』はどうですか。名前も綺麗ですし。」


 大きく頷いたレオンシュタインは、そこに行くことを決定する。北の滝亭は教会からさほど離れていない場所にあり、厩舎も併設されている二階建ての宿だった。


 厩舎に馬をつなぎ宿の中に入った瞬間、ふわっとした温かな空気が全員を包む。サンルームの天井がガラス張りとなっていて、明るい光の中で食事やコーヒーを楽しめる作りになっていた。白と茶色で統一された店内は落ち着いた雰囲気で、調度品も高級なものが目に入る。椅子は名産だけあり、背もたれが半月状のグブズムンドル風が目立つ。


 窓際には、北国では育たない観葉植物が並べられており緑が目に優しい。


「普通の宿でこのレベルなら、高級な宿はどうなんでしょうね?」


 軽いため息をつきながらティアナは話す。そこに宿の主人が現れた。


「ようこそ北の滝亭へ。私は主人のヨウンと申します」


 好印象を強く印象づける笑顔で挨拶される。


「素敵な宿ですね。テラスで食事をするのが楽しみですよ」


 レオンシュタインが握手をしながら、笑顔で返す。


「ぜひ、楽しんでください。あのテラスはうちの自慢でして、冬でも気持ちよく太陽を浴びることができると自負しております」


 会話を一通り楽しんだ後、部屋について相談する。


「では、お客様。本日は2部屋をご準備させていただきます。男性3名と女性3名ですので、その2つでよろしいですか?」

「もちろんです」

「分かりました。それで何泊のご利用でしょうか?」


 レオンシュタインは10日間であることを伝える。


「分かりました。値段は銀貨9枚(約9万円)になります」

「えっ? 一人あたりですか?」


 レオンシュタインが慌てて問い直すと、ヨウンは笑顔でそれを否定する。


「いえいえ、6名様10日間の宿泊で銀貨9枚になります。もし、予算に合わないようでしたら別な部屋をご用意しますが」


 ティアナは慌てて手を振り、それを否定する。


「そうじゃなくて、こんな素敵な宿に6人が10日間も宿泊して、銀貨9枚ですか? 安すぎます。もしかして食事が別料金とか?」

「まさか。朝夕2食つきハーフボードのお値段です」


 レオンシュタイン一行は心から感動してしまった。


「なぜ、こんなに安いのでしょう? こんな素敵な宿でしたら、10日で一人銀貨20枚が相場と思いますが?」


 フリッツが尋ねると、ヨウンは何でもなさそうにそれに答える。


「お褒めいただき恐縮です。ただ、これは皇帝陛下の方針でして」


 聞くところによると皇帝の命令で観光に力を入れることが決まってから、宿泊者に対して補助が出ているとのことだった。


「私どもの宿であれば、一泊につき正規の代金の70%が補助されることになっています」


 レオンシュタインたちは、その補助率に仰天した。それほどの補助が出せるほど、この国は裕福なのか。


「はは、話はこれくらいにして、お部屋に案内させていただきますね」


 ヨウン自らが2つの部屋まで案内してくれた。どちらも綺麗でよく掃除されており室内も光を取り込む作りで明るいのが特徴だ。


「それでは、ごゆっくり。夕食は18時からになります」


 そう言うとヨウンは去っていった。食事まではあと2時間ほどのため全員がレオンシュタインの部屋に集まる。ティアナが口火を切った。


「このあとはどうするの? レオン」

「自分は明日のコンサートの場所を確認したいんだけど」


 するとイルマとヤスミンは同時に同行を願い出た。


「当然、私もついていくね」


 当たり前という風にティアナが答える。


「わしは少し休ませてもらおうかな」


 バルバトラスは好奇心はあるものの、まずはゆっくりと船旅の疲れを取りたいらしい。レオンシュタインは同行者にティアナだけを指名すると、イルマとヤスミンは気色ばんでレオンシュタインに詰め寄った。


「おかしい。何でティアナだけ?」

「いや、ティアナは仮面だから大丈夫。二人は……その美人さんだから、いろいろ目立ちそうだし」


 それを聞いた二人は軽く頰を染め黙ってしまう。逆にティアナは頬を膨らませる。


「レオンシュタインさま、私は違うとおっしゃりたいのですか?」

「ち、ちがうよ! とにかく今日は二人で行動する。いいね」


 みんながとりあえずうなずき、準備のために部屋に戻っていった。

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