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追放された貴族の三男。得意なバイオリンの音色が美人さんや有能配下を引きつけて、気がついたら巨大王国と大戦争をしてた件について  作者: ちくわ天。
第1部 旅での出会い 第5章 レーエンスベルク辺境伯領にて

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第74話 運命の歯車

 王国歴162年11月14日 コムニッツ公爵領 クラウスの宿にて――


 三日間の逗留のはずが支配人にどうしてもと引き留められ、とうとう1週間の滞在となってしまった。その間の宿泊費は銅貨1枚もかからなかった。それどころか公演1回につき銀貨10枚が支払われ、レオンシュタインは本当にありがたいことだと喜んでいた。


 この1週間、フリッツは情報収集に余念がない。そのために、お菓子を買ってきても良いということを条件にヤスミンを町に派遣する。乗馬もできるヤスミンは町の近くまで移動し、行商人のふりをして情報収集に当たった。1週間、毎日のように偵察しても辺境伯に関連する噂や人にはついぞ出会わなくなっていた。



 §



 ついに明日は出発となった夜、支配人はレオンシュタイン一行を応接室に招いた。応接室は広々とした空間があり、全員が座れる革張りの椅子が置いてある。壁の戸棚にはバイオリンやフルートなどの楽器が置かれ、暖炉は室内に暖かい色を広げている。パチパチという木の燃える音が優しく響く。


「レオンシュタインさまは修行の旅を続けるということ。そこで、私どもから銀貨500枚(約500万円)を援助させてください」


 好意も度がすぎてフリッツやバルバトラスは訝しげな表情になる。逆にレオンシュタインは、その金額に言葉がでない。


「別にお金をばらまくわけではありません。私どもには夢があります。それは、高名な演奏家と交流を持ち、この宿で演奏会を開くことです。このお金で、年に1回、レオンシュタインさまに演奏をしてもらえないでしょうか。演奏ができなくなったとしても、お金を返せとは申しません。まずは5年の契約でいかがでしょう」


 5年間で銀貨500枚なら1年間は銀貨100枚。1回の公演で銀貨100枚(約100万円)とすれば常識的な範囲かもしれない。でも、支配人は次の言葉を付け加えるのを忘れなかった。


「レオンシュタインさまは必ず高名な演奏家となり、気軽に演奏活動もできなくなることでしょう。だから今のうちにつながりを作っておきたいのです」


 笑顔のレオンシュタインは支配人へ手を差し伸べる。


「ありがとうございます。私はその信頼に応えられるように腕を磨いていきますね」


 がっちりと握手をして、正式な契約が結ばれる。支配人はきちんと契約書を用意していたため、バルバトラスが内容を確認する。内容が会話の通りだったため、レオンシュタインは契約書に自分の名前を書く。


 その契約書を確かめると、支配人は引き出しの中から銀貨の入った袋を3つ取り出しレオンシュタインの前に置いた。


「どうぞ、中をあらためてください」


 テーブルの上は銀色の硬貨が積まれ、フリッツが確認すると10枚の束が50個も並べられる。確かに銀貨500枚が入っていた。


「そうそう、今日までお貸ししていたゼムリンガーのバイオリンですが、今までお使いになっていたバイオリンと交換でいかがでしょう?」


 これまた値段が釣り合わない取引に思えるが、支配人は平然としていた。むしろ、レオンシュタインが使っていたバイオリンに価値を見いだしていた。


「どうかサインをお願いします」


 今まで使っていたバイオリンにレオンシュタインはサインをすると、支配人は嬉しそうにそれを受け取る。


「これは、きっと家宝になりますよ」



 事実、そうなった。



 銀貨500枚の何百倍もの値段がそのバイオリンに付けられるとは、そこにいる誰もが予想できなかった。


 支配人の部屋を出て、レオンシュタインの部屋に全員が集まった。支配人の部屋で起こったことが現実のことなのか実感がわかなかったが、ずしっと重い銀貨の袋が事実であることを告げていた。


 レオンシュタインは、これまでの立て替えの分をフリッツとバルバトラスに支払うが、袋にはまだ480枚程度の銀貨が入っていた。


「何もしなくても1年は遊んで暮らせる額ですね」


 フリッツがため息混じりに話し、あとは自然と明日からの行動について話になる。


「明日からは王都を目指して進みましょう。ただ雪の具合が心配です」


 そのため防寒具も購入しなくてはならず、様々な準備が必要となるだろう。それでも、みんな明日からの旅が楽しみになっていた。


 そして、この日を境にレオンシュタインの運命が大きく開けていくことになる。

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